第3話

「お、彩来たね」

「おっすー彩じゃん。久しぶり」

 口調からも容姿からも明らかに陽キャ感が溢れ出る元気な男子は海斗だ。陽キャといえどもクラス内で最も目立ち盛り上げるようなタイプではなく、誰とでも話せて時おりクラスを盛り上げる一員となるくらいだった。海斗とは中学の後半になってから彼の持ち前のコミュニケーション能力で一気に仲良くなった。私のような人見知りで無口な人と友達になれる人はそういないだろう。結宇もその一人である。

「あれ、午後物理の小テストあるじゃん。全く勉強してないわ…流石にまずい。結宇、頼む範囲教えてくれ」

「そこからなのー?まあいいや、特別に教えてあげる。感謝してよね」

「今教えてもらってももう次の時間でしょ?意味ないんじゃない?」

「いや、俺の頭ならいけるね!まじ余裕だから」

 話に入れるようにおにぎりを食べながらまた話を聞いている。海斗と会う機会は少ないからこうやって話しているのは非日常感を演出していた。会話だらけの教室の中に、私たちの声も溶け込んで宙に浮いていた。食べて話してを繰り返す。会話のネタが無くなる前に食べ終わってしまった。尽きない会話がその後も続いて、ついに鐘が昼休みの終わりを知らせ、退屈な授業の時間へと急かした。

 こんな退屈な時間には考え事が捗る。徐々に暖かくなるこの時間帯で眠気と戦いながら必死に考え事をしていた。私の悩みの九割は人間関係だ。言わずもがな恋についても考える。しかしとにかくコミュニケーション能力が皆無なので、その場しのぎの会話はできるものの、そのまま友達関係になる事はまずない。話しかけてみたはいいもののすぐに会話が終わる。それがきっかけでだんだんと気まずくなっていく。そして友達ができない。これがいつもの流れだ。それでも、最近一筋の光が見えた。生徒会の活動をしているとよく話しかけてくれる副会長。水棲動物が好きという点で話が合い、たくさん教えてもらううちに仲良くなっていた。水棲動物の話ができることが嬉しいし、友達が出来そうでわくわくしている。最近遅くに帰っているのは先輩ともっと仲良くなりたいという不純な動機だった。結宇には申し訳ないと思っている。

「助動詞けりの連体形です」

 前の人が先生に指された。自分も答える準備をしなければ。毎回国語の授業では発言させられるのでどきどきしながら受けている。頭を抱えながら答えを捻り出してなんとか自分の発言タイムを乗り過ごす。正解していたことに安堵していたら授業が終わった。

 授業も掃除も終わったところで少しの緊張と大きな期待とともに生徒会室へ向かった。今日は何を話そうか。水族館でクラゲ展が開催されることでも話そうかな。でも、先輩はもう知ってそうだ。階段を下りる辛さも感じずに少しずつ生徒会室へ近づいていった。ドアを開けるとまだ副会長、将輝先輩しかいなかった。

「あ、彩さんだ。お疲れ様」

「お疲れ様です。まだ他の人は来てないんですか?」

「そうみたい。まあ、いつも通りだけど。じゃあ待ってよっか」

「はい。そういえば先輩、前話してた水族館でクラゲ展があるらしいんですけど」

「あぁそうそう。やっぱ彩さんも知ってたんだ。展示の方法がきれいらしいんだよね。特に夜とかはライトアップがより映えてまるで夢の中にいる気分になるらしいよ」

「なるほど。めっちゃいいですね。実は私、あそこの水族館行ったことがなくて。クラゲ展の他にも、常設の生物も見るの楽しみなんですよね」

「あれ、誰かと行く予定あるの?」

「はい。クラゲ展始まってすぐに行こうって約束してます」

「…そうなんだ。楽しみだね。」

 先輩は先程の勢いを少しだけ落とし、目線を下げてそういった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る