Scene 07

「あれは……」

 まるで破壊神シヴァを想起させる三眼と、蒼玉サファイアのような外骨格に覆われし巨人。

 クルスが瞠目するさなか、一瞬にして変形――否、ファントムと同じく別形態へと変身したドライは、ヴリトラが抱く地球に向け飛翔。

 背にある光輪ヘイロウから燐光を閃かせ、

「敵性体による追撃を確認」

 二体のファントムから放たれしビームを飛燕のごとくかわし、

「プラズマブレードを形成」

 触腕を雷剣へと変質させ、灼眼の輝線を闇に180度ループ、180度ロールにて反転。

水平宙返り旋回インメルマン・ターンからの近接格闘……すごい」

 一瞬にして異形を屠りし闘神の姿に、しばしクルスは我を忘れていたが……。

「なっ!?」

 数百メートル先、砂塵を巻き上げ着地した異星体に青ざめ、

「ヒルデリカ、助け――」

 超絶的な技量を持つ少女に救援を求める。


 なれど、


「どうして……」

 虚空に静止したドライは、一向にして動かず、

『見ツケタ……』

 単眼の、女型の巨人となりしファントムの思念こえにクルスが戦慄するさなか、

「雪坂クルス。――貴方は試練を乗り越えなければならない」

「ヒルデリカ!?」

「アインと共に、自らの運命を切り開かなければならない」

 ――運命を切り開く?

 彼女はいったい、なにを言っているのだ?

「ヒルデリカ、冗談を言ってる場合じゃ――」

『私タチノ蝶……ヤット見ツケタ』

 焦燥に包まれる中、ファントムは右腕を変質させ、

「ぁ、ああ……」

 ゆらと向けられた銃口に、クルスが死を悟った直後、


 ――澪を残したまま、わたしは死ねない。


「ゲ、アアアァーーーーッ!」

 あけに染まりし瞳に浮かぶは、黄金色の十字架クルス

 聖痕を宿したクルスの咆哮とともに、アインは鋼鉄の巨人へと変貌してゆく。


 六つの鬼眼と、渦巻く触手によって形作られた――

    まるで人のようであり、くれないの竜のような姿へと。


「超えてみせなさい雪坂クルス。――ヒトの遺伝子の限界を」

 ヒルデリカが刮目するさなか、異星体から放たれし終わりの一撃。

偏向障壁リフレクター・フィールドを展開」

 されど十二の光翼を拡げたアインは、飛来した粒子ビームを捻じ曲げ、

「プラズマブレードを形成。戦術思考を近接戦ダブルロックオンモードへと移行」

 凛としたクルスの声とともに触腕を雷剣へと変化させる。

 刹那、交差するは生と死の幾何学模様ジオメトリクス

『蝶チョウ、蝶チョウ……コノ指、トマレ』

 うねくる触腕を高周波振動刃バイブロブレードへと変質させた漆黒の幽鬼は、背部にある角状の翼から燐光を爆ぜアインへと格闘戦を挑む。

 が、月面に衝撃波が炸裂した直後、

ソラへと昇れ」

 冷笑を浮かべたクルスは詩句を返し――胸部に浮かぶコアごと両断されたファントムは、不倶戴天の敵を背に塵となり果てた。

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