Scene 06

 もしも己が鳴神となったのであらば……

 えるのは、きっとこのような馬鹿げた世界なのであろう。


「有り得ない……」

 逃避する意識を繋ぎとめるべく、クルスはうめき声を上げる。

「ぐ、ぅ……ッ!」

 まるで閃光であるかのように、後方へと消し飛ぶ月の景色。

 狂ったように変動する異形の文字は、いかなる飛翔速度を示しているのか。

「こんな、の――」

 機体のコントロール?

 知覚による空間認識?

 足りない。――それを可能とするための神経細胞の数が、まるで足りない。

「こんなの、ヒトが棲める領域セカイじゃないッ!」


 従来のスーツでは圧死しているであろう加速Gの中、


「漂着した戦艦の、残骸?」

 空間投影された映像にクルスは瞠目し、攻撃目標、、、、へと到達したアインは表面装甲に形成したバーニアにより減速。機体前後を瞬時に入れ替え、紫電をまといし触腕を高速回転させ、

「あれは……」

 残骸にうごめく物体をクルスが認識しようとした直後――アインから放たれし粒子の濁流は月の海ごと鉄塊を切り裂き、誘爆した熱核融合炉から発生した衝撃波が、月面に堆積したレゴリスを虚空へと吹き飛ばしていく。

「な……」

 まるでソドムとゴモラの街を焼き尽くしたと云われる神の火……。

 尋常ならざる、戦略級ストラジークラスの光学兵器の威力にクルスは言葉を失っていたが、

「ファントム!?」

 ビームの直撃寸前、残骸から脱していた怪物たちの姿に息を呑む。

「まさかこの子、異星体の存在を感知していたの?」


 ……有り得ない。

 ここから月の裏にあるダイダロスまで、実に十万キロ以上もの距離があるのだ。

 そんな猟犬の鼻も利かぬ、最新鋭レーダーの索敵範囲外で――。


「く……ッ!」

 刹那、機体制御はマニュアルへと戻り――。

 月へと落下するアインを慌てて引き起こしたクルスは、後方から猛追撃してくる敵性反応に肌をあわだてる。

「ケンカを売るだけ売って、あとはわたしに丸投げなんて――」

 身勝手なマシンに文句を言い終えることなく、機体を掠めすぎるは殺意の閃光。

 両手にある操縦桿を握り締めたクルスは、月砂のカーテンを左右に離脱を試みるが、

「だめ、振り切れない!」

 先の攻撃で熱量を消費したか、スラスターの出力が思うように上がらない。

「ああッ!」

 そして激震とともにコックピットは赤黒く明滅し、

「もう、逃げられない……」

 レゴリスに埋もれた獲物を引き裂こうとファントムは単眼に雷光を集わす。


 されど、


「え?」

 彼方より飛来したビームによって異形は灰燼と化し、

「雪坂クルス、応答せよ」

 九死に一生を得たクルスのまなこに映りしは、

「ヒルデリカ!?」

 緋色の瞳を持つ少女、そして人型の機動兵器、、、、、、、となったゴースト・ドライの姿だった。

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