Scene 03

 ダイダロス地下都市、士官宿舎にて。


「ぁ……」

 薄暗い自室のドアを開けたクルスは、テーブルの上にあるメッセージパネルが点滅していることに気付き、

「澪――」

 足元を照らす誘導灯を頼りに、軍と民間の共有サイトへとアクセスし、

「おねえちゃん!」

 空間投影された澪の姿に、疲れ切っていた顔をほころばせる。


「よかった……今日は戻っていたんだね」

 結った黒髪の房を左肩に垂らし、電動車椅子に腰掛けた十二歳の妹。

「……心配をかけて、ごめんね」

 涙をこぼしかけたクルスは、瑠璃色の瞳に対し詫び、

「ううん、わたしのほうこそごめんなさい。……今日も事務のお仕事、、、、、、だったの?」

「まだ……仕事に慣れてなくて……」

 ブランケットで義足を隠した澪の問いに、胸を痛ませながらも今日も嘘をつく。


「……」

「でもね、本当に戦闘には参加してないから安心して。――ほら、お姉ちゃんって臆病でどんくさいから。軍の人からも戦場では足手まといになるって言われてるんだ」

 拭い隠された涙のあとに。

「徴兵期間が終われば無事に帰ってこれる。……叔母さんから澪を引き取り、また二人で暮らすことができる」

 ブランケットを握り締めた澪の姿に、クルスは精一杯の笑顔を送り、

「それより、お姉ちゃんは澪のお話を聞きたいな」

「うん……」

 優しい嘘をついた姉妹は、束の間の安息に心を委ねる。


 そして静寂となりし薄闇の中……。


「……」

 一人うなだれていたクルスは、安否確認用チャンネルに映る件名へと視線を送る。

 “いますぐ連絡が欲しい――。

    ……息子の安否を知りたい”

 悲壮なる思いに包まれた、無数の遺族たちのメッセージへと。


「怖いよ……怖くてしかたがないよ」

 まもなく正式に戦死者リストが公表されるであろう。

「今日を生き残れた自分は、たしかに幸運だった」


 ……されど、明日の自分の運命は?


「兵役を終えるまで、あと半年……」

 両手で顔を覆ったクルスは、大粒の涙をこぼし、

「澪に会いたい……月の表側にいるあの子に会って抱きしめてあげたい」

 右腕のブレスレットから臨時召集を知らせるアラームが鳴り響く中、

『クルス少尉。至急、作戦司令部まで出頭せよ』

 上官の指示に力なく立ち上がり、ひとりぼっちの部屋を後にした。

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