第1話 ケツのサブスク
「魔王よ。俺はこのケツをお前に捧げよう!!」
勇者は凛々しい表情でそう告げる。
魔王はアホみたいな顔でフリーズした。
「…………は?」
「とりあえず俺のケツを触ってみてくれ。さあ。さあ!」
「おい、さっきから貴様は何を言っているんだ。ふざけてるのか」
「俺は本気だ!!」
勇者の眼差しは真剣そのものだ。とりあえず冗談を言っているわけではないらしい。
だからこそ魔王は困惑した。
「野郎のケツなんぞ触ってどうなる。俺様にそんな趣味はないぞ」
「まあまあまあまあ」
「何がまあまあ、だよ。男の尻なんて固いだけだろ。誰が触るか」
その言葉に勇者はわざとらしく肩を竦める。
そしてチッチッチッ、と指を振った。
「そんな先入観、今ここで捨てちゃいな」
「なんかうざいなこの勇者」
魔王の言葉など聞こえていないかのように、勇者は柱に凭れかかっていい感じのポーズを取る。
「魔王よ。一つ問おう。俺のパーティの資金源は何だと思う?」
「何だよ急に。……どうせ王国からの支援金とかだろ」
「ブッブー。ざぁーんねぇん。このパーティは非公認だから国から資金はもらってませ〜ん。全部自費でぇぇ〜す」
「ウザ……」
「じゃあどうやってそのお金を捻出したと思う?」
(またクイズかよ……)
無視しようかとも思ったが、勇者はいつまでもこちらの返答を待っている。
魔王は渋々答えた。
「知らんわ。なんか倒したモンスターの毛皮とか売ってんだろ」
「ブッブー、全然違いまぁぁぁす。魔王さんちゃんと答える気ありますぅー? 」
「殺すぞ?」
「ヒントは、このパーティのメンバーをよく見てね!」
(この勇者ぜんぜん人の話聞かないな……)
魔王は面倒くさがりつつも娘達に目を向ける。そして適当に答えた。
「お前はともかく、女の子は可愛い子ばっかりだよな。身売りでもさせたのか」
「正解は俺のケツを売った、でしたー!」
「は?」
「女の子達みんな綺麗なプロポーションをしてるだろう。だが、女子に混じっても群を抜いて美しい俺のこのお尻……!」
「何言ってんだこいつ」
勇者は長いマントをむしり取ると豪快に投げ捨てる。そしてズボン越しにそのお尻を見せつけた。
(今、何をされてるんだ俺様は……)
「えっと……。ケツを売るっていうのは何か……アレか。そっちの方面は詳しくないけど、BL的なやつ……?」
どうにか話を合わせようと言葉を絞り出してあげたのに、勇者はすっかり呆れ顔になった。
「魔王、そういう安直な考えはよくないよ」
「いや知らんわ。誤解を生みそうな言い方をしたのはそっちだろ」
勇者はゴホンと咳払いをすると、腕を組んで自慢げに宣言する。
「俺はケツのサブスクを提供してるんだ」
「ケツのサブスク!?」
「ユーザーは累計千人を突破したよ。ちなみにこの魔王城にもユーザーがいる」
「何だって!? 名乗り出ろ!」
魔王が叫ぶと近くに控えていた黒衣の部下達は一斉に目を逸らした。……怪しい。
「……それで、そのケツのサブスクってのは何なんだ。いかがわしいことなんじゃないのか」
魔王はチラチラと勇者の臀部に視線を送る。
悔しいが、あまりのパワーワードに少しだけ勇者のケツに興味を抱き始めた自分がいた。
勇者はフッ……と小憎らしい笑みを浮かべた。
「いかがわしくはないさ。利用者は俺のケツに優しく触れるだけだ。それだけで心に平穏が訪れ、悟りの境地に至るのさ」
「どこ情報だよ」
「レビューにそう書いてあった」
「そんなんあるんか……」
魔王は一瞬信じそうになったが、慌てて首を振る。
「待てよ。貴様、さては適当なこと言って時間稼ぎでもしてるんだろう。たかが男のケツだぞ。そんな効能があるわけ……」
「――――あるんだな、それが」
勇者は前髪を掻き上げるとニヒルな笑みを浮かべた。雰囲気だけはそれっぽい。
それが逆に魔王の気に障った。
「わかったから言いたいことがあるならさっさと話せ」
「いいだろう。特別に聞かせてあげよう。我が先祖の物語を――」
こうして勇者はしっとりと語り始めた。
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