7

 ジンは建物を出た。

 すると容赦なくヘリコプターから眩しい光が浴びせられる。


 建物から離れると脇道からぞろぞろと人が出てきて囲まれた。その数およそ二十。全員武装をしていたが、ジンは一切表情を変えなかった。

 ジンは彼らを見渡した。

「せめて靴くらい履かせてくれよ。こんなばっちいところで裸足だと病気になる」

 ジンは相手に見せつけるよう泥だらけの片足を上げたが、

「一緒にいた、ロイという青年はどこだ」

 無視された。


「さぁ、どこでしょう?」

 ジンはわざとらしく両手を広げて肩をすくめた。

 相手が一斉に銃を構える。

「おぉこわ」

「言え!」

「やだね」

「言わないと撃つぞ」

「やってみなよ」

 挑発するようにベッと舌を出した。

 ロイの居場所を聞いてきた、リーダーと思われる男が苛立ったように頬を歪めると、

「撃て!」

 容赦なく発砲された。


 全方位から無数の弾丸がジンを狙う。普通の人間ならそのまま蜂の巣になるところだが、ジンはその場で大きく跳躍した。

 空中でくるりと横回転して着地し、地面を蹴るとそれこそ撃たれた弾丸のようなスピードで相手に近づいた。


 正面にいた戦闘員の目の前に来ると、彼が目を開いた。その胸の辺りを足裏で蹴ると、彼は真後ろにボールのように飛んで、地面を何度も跳ねながら転がり塀にぶつかって止まった。

 皆が飛んでいく仲間に気を取られた一瞬の隙に、右に立つ戦闘員の腹を肘で打つ。鈍い音がして、彼は嘔吐しながら腹を押さえてうずくまった。

 近くにいた別の戦闘員がすぐに銃を構えるが、銃身を掴んで銃口を上に向けると衝撃で引き金が引かれて発砲音が鳴った。ジンはそのまま彼の服の襟を掴んで投げた。ボウリングの球ように戦闘員は他の人を巻き込んで倒れた。


 それからのジンの勢いは、数の不利を感じさせない凄まじいものだった。

 銃を持つ相手に怯むことなく一人ずつ素早く、かつ的確に倒していき、明らかに自分より高い身長や体格のある人を片手で軽々と投げ飛ばした。

 ただの人間にできるものではない。

 リーダーの男の額を冷汗が流れた。

「やはりお前、異能者か」

 ジンがリーダーの男の方を向く。その手は戦闘員の頭をヘルメットごと掴んでいるが、ヘルメットは砕け、頭を締め付けられている戦闘員はジンの手首を掴んで苦悶の声を上げていた。

 ジンはニコリと笑った。

「正解」


 ――人ならざる化け物、異形は「異能」と呼ばれる火を吐いたり、水を操ったりなど魔法のような力を持っている。

 異形の体の中には異能核という器官があり、それによって異能が使用できることが判明している。

 そうなれば、飽くなき探究心に満ち、また欲という名の深い穴に落ちた人間の考えることは一つ。


 人間に異能核を移植し、異能を使えるようにする。


 そんな実験が大昔から世界各地で行われ、数多の失敗を繰り返しながらも実験は成功。今現在世界各地に普通の人間より遥かに高い身体能力を持ち、異能を使用する「異能者」が存在している。ジンもその一人だった。


 ジンは右手の戦闘員を放すと、呆けた顔をしているリーダーの男に向かって走った。残りは彼を含めた十人弱だったが、二人の間に一人の戦闘員が割って入った。

 その戦闘員は他とは違って銃を持たず手ぶらだった。

 戦闘員が構える。

 まずい。

 嫌な予感がしたジンが止まって後ろへ跳んだその瞬間、男が振った右手から真っ赤な炎が出た。その炎はただの炎ではない。熱は日常で見るライターやガスコンロの比ではなく、もう少し遅れていたら一瞬で丸焦げになっていただろう。


「君も異能者か」

 異能者の戦闘員は無言で再び両手を構えた。

「異能者を相手にするのは久しぶりだな」

 さてどうしようかと考えていると、ふと戦闘員の視線がジンから外れた。その目はジンの後ろに向けられている。

 その瞬間、背後から何かが飛び出して戦闘員に飛び掛かった。

 それはロイだった。

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