#5

 夕刻になって、かぐと夫と客人は泥だらけになって帰ってきた。

「まあ。一体どうなすったんですか」

 客人の手前あまり怒りを露にはしたくないが、声に棘が出てしまう。先程まで思い出に浸っていた穏やかな気分が台無し。

「いや、それがなあ。良い土を見つけたのだ」

 なあ。と、夫が視線を送ると、客人の陶工も頷く。

「確かに、いつも採掘する場所とは違った粘土質の地層を見つけたのだが。俺が一生懸命に土を掘り返していると、その犬が興奮して隣でざっざっと土堀りを始めてな、挙句後ろ足で砂を蹴るもんだから、せっかく集めた粘土に砂が混じってしまった」

「まあそれも一興よ。あの辺の蛍石が混じったことで、今までにない味わいが出るやもしれぬぞ」

 あっはっはと二人して笑っている。そりゃあ長年の経験により見出されたいつもの採掘場所の方が良いに決まっている、陶工もあまり当てにはしていないのだろう。愉快そうな二人に挟まれて、かぐもへっへと口を開けて楽しそうにしている。

 日が完全に落ちる前にと客人は帰っていった。

 夫が山で採ってきたという木の実や茸を差し出して、家庭菜園の野菜と合わせて、ちょっとした豪勢な夕食となった。しっとりと濡れた山から青々した緑の匂いが初夏を告げている。

「よい茶碗ができるといいですね」

「そうだなあ」

 夫婦はのん気に言い合う。欠けた古茶碗でいつもよりたっぷりの飯を平らげたかぐも、広縁で仰向けに腹を出してぐっすり眠っている。

 こんな時には山暮らしもなかなか悪くないと思うのだった。

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