63 圧倒・弾幕魔のジャラード!③

 楽しい。誰かに頼りにされることが、こんなにも。


「この一万コイン! 覚悟するのだ!」


 グンッと速度を上げ、アッシュは長剣を振りかざす。ジャラードの単眼がアッシュに移り、ガトリング砲を向けられた。急速式パワーチャージャーがうなる。

 次の瞬間、緑の閃光が空を駆け、銃口に吸い込まれていった。一拍の間を置いて、ジャラードの片腕が内部から爆発する。


「ふおー! 妖人族エルフもびっくりのスナイパーなのだ!」


 斬りかかると見せかけた剣を下げ、アッシュは勢いに乗ったままジャラードの股に飛び込んだ。身をかがめ、ブリーゼブーツの推進力で滑走する。

 その時、頭上でかしましい衝突音が響いた。股を抜けて身をひるがえせば、追ってきたマンティスがジャラードとぶつかっている。


「予想通り!」


 ジャラードの背後を取ったアッシュは、剣を両手に握り締め、高音鳴り響く動力部へと一気に突き立てた。

 だがしかし、寸前でジャラードが目の前から消える。逆関節のバネを使い、巨体からは想像もつかない跳躍を見せた。


「なぬう!? そんなのズルなのだあ!」


 ジャラードに弾かれて、マンティスも復活していた。のんきに欠伸などしているハイジを狙う。


「――ま、これも予想通りだけど」


 焦ったふりから一変、アッシュはぺろりと舌を出し、急激に魔力を練り上げる。


「〈アクアクライス〉!」


 突如、巻き起こった風が大気を震わせ、アッシュの銀髪を舞い上げる。稲妻のごとくほとばしった蒼天色の波動は、基地の隅々まで広がり、外のノアまで届いた。

 直後、地表から六つの水柱が出現する。太く、荒々しく、渦を巻く水流は、怒れる竜神のごとく天をいた。

 鉄の残骸、塔の瓦礫がれき、はたまた健在だった塀まで巻き込み、白波の刃ですべてを打ち砕く。

 宙にいたジャラードの姿はとうに見えず、マンティスも片腕だけ残して消えた。

 時折ぱらぱらと、雨のように機体の一部が降ってくるが、完全に下りてくるにはもう少しかかるだろう。


「や"っぱ、や"べー」

「ハイジ。落とし物が降ってくる前に、誘拐犯回収してノアと合流するのだ」


 肩を叩いてハイジをうながし、アッシュは歩き出す。

 思った通り、旧聖府軍の剣は魔法に耐えられず、砕けてしまった。残った柄から魔石を外して放り捨てる。


「あーあ。いつになったら私の天泣てんきゅうちゃんは帰ってくるのだ」


 ため息をつくアッシュの頭上で、水柱はまだゴオゴオと渦を巻いていた。




「アッシュさん! ハイジさん! よかった、無事だったんですね! 塔が崩れた時は心配しましたよ! それにさっきの魔法はなんですか! もしかしてハイジさんが!?」


 河川敷の電気駆動車エアライドに向かうと、ノアがパッと飛び出してきた。彼は興奮した様子で、早口にまくし立てる。

 脇のオレンジ髪男を抱え直しながら、アッシュは返答に迷った。すると重傷の青髪男を担ぐハイジが、先に口を開く。


「違う"。あ"れ"は、どら"猫の"仕業」

「し、仕業とはなんなのだ! 生まれつきちょっと魔力高いだけなのだ。その、猿人族ヒューマン猫人族マオのハーフだから」

「確かに猿人族ヒューマンは三番目に、猫人族マオは四番目に魔力高い種族ですもんね。でも僕なんか、猿人族ヒューマンでも平均より魔力低いから、羨ましいです。アッシュさんはすごいなあ」


 ノアから純粋な称賛の眼差しを贈られ、アッシュは頬が熱くなる。ついつい、手元にあったオレンジ髪をこねくり回した。


「そんなことないのだ。相性いい魔石は、天泣ごと取られちゃって、今魔法使えないし。それに、すごいって言うならハイジなのだ! ジャラードの銃口にスパンッてドーン! だったのだ!」

「あ"れ、五回目で入っだ。まだま"だ。ノア"も"、がんばっだな」


 ここへ来るまでに、四機のルシオルが墜落しているのを見た。増援を呼ばれたり、逃げられたりしていたら、戦況はもっと苦しくなっていたはずだ。

 ハイジに褒められ、ノアは誇らしげな顔でうなずく。


「はい! 子どもたちも無事ですよ! 全員で十名います」


 そう言ってノアは、車へ駆けていく。あとを追うハイジに、アッシュは気になっていたことを尋ねた。


「ハイジは、わかっていたのだ? 私の魔力を」

「わがる"。魔どーしだから"」


 眉ひとつ動かさない、恐れも嫌悪もないハイジの表情に、アッシュはこっそりと笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る