61 圧倒・弾幕魔のジャラード!①

 背中を蹴って飛び出す。頭も羽ももがれて、なお動く鎌腕はいっそ哀れだ。

 落下速度に乗ったアッシュの長剣は、振り上げられたヒートブレイドを一刀両断に斬り伏せる。

 着地と同時にアッシュは身をひねり、今度は下から上へ一閃を放ち、もう一方の熱刀ねっとうも黙らせた。


「だあーっ! くそくそくそ来んな! 弾もうねえよ!」


 そこへ、男の喚く声が響く。オレンジ髪男が、もう一機のマンティスに追い詰められていた。撃ち尽くしたらしいレーザーガンを投げつけるが、もちろんマンティスは止まらない。

 男は敷地奥の建物に逃げる。しかし、ガーディアンとの距離はどんどん詰まっていく。

 監視塔のハイジは、ジャラード相手にまだなんとか粘ってくれていた。


「ハイジ、もうちょっとだけがんばるのだ!」


 仲間を信じて、アッシュはオレンジ髪男を追う。

 マンティスはブースターを点火し、一気に仕留めにかかった。容赦なく襲いくる凶刃を、男は寸前で身をかがめて避ける。

 しかし、車両かガーディアンの残骸ざんがいか、鉄くずにつまずいて転倒した。その隙を逃さず、マンティスが追撃をくり出す。


「させないのだあ!」


 斬り落としたヒートブレイドを、アッシュは渾身の力で投げた。機体の胸部に深々と刺さる。衝撃でマンティスの狙いは逸れ、鎌腕の切っ先は男の脇すれすれに食い込んだ。


「ひいいいっ!? バカ! バカ! 冗談じゃねえぞこんちきしょうめ!」


 悪態をつきながらも、男はガーディアンの下から這い出て、ブーツで軽々と残骸を越える。

 その瞬間、二基のブースターが火を吹いた。


「ダメ! 無闇に飛んだら狙われるのだ!」

「え……?」


 突進をかけたマンティスに、オレンジ髪男は残骸ごと吹き飛ばされた。

 地面に叩きつけられた男は、まだ動いている。それは、マンティスのセンサーアイにも見えている。


(間に合え! 間に合え……!)


 歯を食い縛り、ブーツの出力を限界まで上げて、アッシュは風を切った。

 マンティスが男に迫る。二刀のヒートブレイドを赤々と熱し、夜空に陽炎を立ち昇らせながら、高々と振りかざす。


「伏せるのだあっ!!」


 熱刀が鋭いうなりを上げた瞬間、激しい剣戟けんげきの音が鳴り響いた。


「お、お前……!」


 アッシュは横に構えた長剣で、マンティスのヒートブレイドを受けとめた。鎌と支柱を繋ぐ関節部分を捉えている。

 しかし少しでも押されれば、湾曲した刀に背中から刺されてしまう。それを理解して、マンティスは覗き込むように体重をかけてくる。


「早くっ、逃げるのだ……!」

「なんで……どうして、俺を助ける!?」

「またそれ、なのだ。もうなんでもい――」


 その時アッシュの言葉を奪ったのは、昼と見間違うほどの閃光だった。マンティスの後ろで青白い光が、放射線状に広がる。

 次いで感じたのは、空気を揺るがす震動、そして音だった。

 ビリビリと鼓膜を破られそうな爆発音が、耳をつんざく。一瞬怯んだだけで、背中に迫る鎌の熱がグッと近づいた。アッシュは汗を滴らせて押し返す。


(なにが起きたのだ。あの光の方向には……そうだ、ジャラードがいた。あれはショックシェルの爆発なのだ。でもなにに向かって――)


 くぐもって聞こえていたあたりの雑音が、にわかに鮮明になる。するとアッシュの耳に、ガラガラと監視塔の崩壊音が飛び込んできた。


「ハイジィイイッ!!」


 目を凝らすが、ここからでは土煙しか見えない。

 塔の損傷は? 逃げ出す猶予はあったのか? ハイジは、無事なのか?


「あっ、ぐう……!」


 動揺を悟られたのか、マンティスがブースターを点火し、勝負をかけてきた。アッシュも応戦するが、ずるずると押されてしまう。ブリーゼブーツを噴かしても、全身の筋肉を駆使しても、止められない。

 じわじわとあぶられる痛みが、背中を襲う。


「バ、バカにしやがって! この害虫が! これでも食らいやがれ!」


 そこへ、逃げたと思っていたオレンジ髪男が、アッシュの横に並んだ。手には爪先ほどの玉を持ち、ナイフの柄にはめる。

 とたんに、玉は水色の光を放ち、男を中心に清涼な風が巻き起こった。


「それは魔石……!」


 目を見開くアッシュの前で、男は掲げたナイフを地面に振り下ろす。


「〈アクアクライス〉!!」


 直後、男を囲んで三本の水柱が立ち昇る。それらは渦を巻きながら、激しく螺旋らせんを描いた。

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