幕間 共闘

 錫杖しゃくじょうの音がなる。俺は瞬時に状況を判断し、体をひねりながら右に飛び、それを避ける。

 

 鈴の音がなる。俺は瞬時に脚で地面を蹴り、空へ逃げる。攻撃の『手』は俺のところまであと一歩というところで届かない。3メートルといったところが限界のようで、それは地面に戻っていく。


 錫杖の音がなる。宙に浮いて回避ができない俺に、攻撃の『手』が正面から迫ってくる。


「こっちカバー”」


 俺は同じように手に追われている涼介に守りを頼む。


「こっちもやベえんだけどぉ”?」


 正面から迫ってきていた黒の巨大な『手』は涼介がこちらに手をかざし、「『固定』」と言うと5本の『手』の動きが一時的にだが止まる。


 今俺達は『都市伝説』の『きさらぎ駅』、その本体と戦っていた。『きさらぎ駅』本体の『怪異』は両手に棒の持ち手が付いた長い錫杖と|神楽鈴(かぐらすず)をそれぞれの手にもった五人組で、さっきから全員同じものを同時に鳴らしてきている。


 俺が事前情報からわかっていることは、錫杖と鈴の音に合わせてどこからともなく現れた『手』が攻撃を仕掛けてくること。


 錫杖の場合、その『手』は全部で五本。大きさは一般的に想像する巨人ほどのサイズで当たったらひとたまりもない。また、本体とこの『手』には関連性があり、一体倒す事で『手』の数は一本減る。


 神楽鈴の場合は地面から無数の手が襲ってくる。その『手』のサイズは人間ほどだが、長さは3メートルほど。厄介なのは、その何百という『手』が発生する範囲が広いため、空中に回避せざるを得ないことだ。さっきみたいに鈴から錫杖のコンボが来るとどうしても対処が難しい。

 

 涼介の天恵、『固定』でさっきはしのげたが、五体いる『きさらぎ駅』の本体に近づこうとしている涼介のサポートはあまり望めない。元々は一緒に戦っていたが、涼介との連携を『手』によって遮られてしまった。


 俺は地面に着地すると、ある用事を頼もうと橙乃に呼びかける。


「橙、いつもの刀を」

 

 自身が身に着けている御守りから光が生じる。漏れ出だ粒子は一つの形を作る。


「ほれ、刀じゃ」


 光から現れたのは、艶美な女性。頭に獣の耳を生やした獣人のような姿をした妖狐であり、神でもある。今はほとんど神の力を使えないが、それでも実力者であることは事実だ。


「妾は手助けするのは命の危機だけじゃからな?」


「お前がいると、なんとかなるかって思っちゃうからあんまりやる気でないしそうしてくれ」


「アドバイスじゃが、あの『手』を抑えるのは簡単じゃからの」


 それを言うと橙の姿が光となり、御守りへと戻っていった。


「紅!こいつは今の俺たちだけじゃ勝てない!早く橙乃を呼んできて!」


 一人で怪異と戦っている涼介がこちらに合流して俺に聞いてきた。


「それだと特訓にならないからって帰っちゃった」


「おいまじかよ!?嘘だろ!?」


 自分たちだけでは厳しいと思い、なんとかしてもらおうと思っていた涼介は予想外の返答に困り果てる。


「涼介お前、あの『手』をなんとかする方法って知ってるか?」


 橙乃からアドバイスはもらったが、あの『手』には簡単な対処法があるらしい。代々陰陽師の家系である涼介なら知っていると俺は推測し、尋ねてみた。


「そっか、お前知らないのか」


「ああ」


 涼介はてっきり紅が対処方法を知っているものだと思っていたが、陰陽師になってからまだ日も浅い紅は有名な『都市伝説』の対処方法を把握していなかった。


「あの『手』を止めるには錫杖と鈴を奪えばいいんだが、さっきから仕掛けようにも『手』で邪魔されててよ」


 発生速度の早く、対処が難しい『手』を回避しながら怪異にただ一人で近づくのは涼介にも紅にも難しい。

 ただし、二人で協力すれば...


「涼介」


「紅」


 紅、涼介、両者互いに同じ思想へ至る。


「お前は『手』を」


 俺は涼介に言う。


「お前は『怪異』を


 涼介は俺に言う。

 

 二人は『怪異』に向かって一斉に走り出した。

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