第13話 定期集会
「こほんこほん…………よし、ようやく全員集まれたな。これから風紀委員定期集会を始める」
俺の尊厳が破壊された日の放課後。
その日は、風紀委員会の定期集会の日でもあった。
ももからのメールはそのことを再度通達するためのものだったらしい。
まったく、心配性だ。
定期集会は例年通りなら始業式の数日後に開催されるのだが、鏑木先輩の私用が入ったということで、一週間ほど遅れ今日開催という運びになっている。
その間、色々なことがあった。
だが、こうして風紀委員全員が集まる機会もなく絵麻の正式な挨拶もまだできていなかったため、最初は絵麻の挨拶から始まった。
「藤森絵麻です。至らないところもあると思いますがこれから一生懸命がんばります!よろしくお願いします!」
絵麻がぺこりと頭を下げると、拍手喝采が起こる。
その初々しくも可愛らしい様は既にみんなを虜にしているようだった。
まさか、こんな明るくて人気者の少女が「せんぱい?わたしの気持ち伝わりました??」「味とかどうですか?」「呟きとか投稿見てせんぱいが好きそうなお菜にしてみたんですけど……」など弁当の感想を聞くがために昼休みの終わりにこんなメッセージを数十件送ってきてるなんて言っても誰も信じないだろう。
確かに弁当は好物が多い割に栄養バランスもしっかりしてて美味しかったが、まさか俺のSNSから好物を調べ上げていたとは。
おかしいなぁ…
時間が経つと消えるものもあったはずなのに。
絵麻のネットストーキングについては後から考えるとして、今は定期集会だ。
絵麻の挨拶が終わったので今は風紀委員長である鏑木先輩が司会を兼ねて話をするはず。
この定期集会は月に一度開催され、普段行う常時活動の報告と年間行事の運営補佐にあたり、生徒会への要望書を作成したりする。
1ヶ月の活動の方向性を決めるという意味ではとても重要な集会だが、
「んっ!んん……………」
「鏑木先輩??」
どういうわけか、鏑木先輩が咳払いをするだけで喋ろうとしない。
ん?そういえば、珍しくマスクもしてるな。
一体どうしたんだろう。
隣にいる先輩に視線を向けていると、目が合った。
そして、首を横に振り先輩が持っていた紙を渡される。
え?なにこれ。読めってこと?
紙に目を通した後、再び先輩を見ると視線で「やれ」とのお達しが。
自分の喉元を指で抑えているあたり、きっと喉が悪かったのだろう。
ここ最近体調を崩していたとも言っていたし。
突然の司会代行となったわけだが、これも慣れたものだ。
渡された紙通り順番に進めていけば済む話。
「えっと、先輩の体調が優れないようなので俺が変わります。まず、この1ヶ月における常時活動で異変があった場合、担当者はこれを報告してください」
「はい。新一年生が入学し、数日は校則違反などが目立ちましたが、既に対応済みです。新一年生が入学するこの月に関しては通年このような傾向が見られるので問題ないと思います」
「ありがとうごさいました。次に年間行事における運営補佐のため、生徒会への要望書を作成したいと思いますが、その前に4月ということで常時活動のペア決めを行いたいと思います」
風紀委員会の常時活動は、俺の中学と同じで二人一組で行う。毎年の4月、9月、1月にペアを変更するのだが、これも昔からの通例でやっているに過ぎない。
「この中で変更して欲しいペアの人は挙手をお願いします」
一年生の風紀委員が大体決まる9月、そして三年生が実質引退する1月は常時活動のペアを決め直さなければならないが4月は特に入れ替える理由がない。
なので、形式的に言いはするがペアを変えることはしない。結局のところ誰も声を上げずに、そのまま要望書に移ろうとした時だった。
「あの……わたしの当番は……」
声を上げたのは絵麻だった。
そうか。絵麻はここにいる風紀委員の中で唯一の一年生。これまでの常時活動のペアは2、3年生で構成されていたから、絵麻の当番は決められていない。
しかし、どうしようか。
絵麻が加入するまで風紀委員は偶数だったため二人一組でちょうどペアが作れていたが、絵麻が入ることにより奇数になりどこかしら3人一組になってしまう。
二人一組から人数が増えると一人の負担量に差が出てしまうため、あまり増やしたくはないのだが。
「藤森さんは、どこに入りたいとか希望はありますか?」
「うーんと……そうですね。わたしはまだ風紀委員の業務を完全に理解しているとは言えないので、近くで教え導いてくれる人がいてくれると嬉しいかもです」
「そうなると適任は……」
「あ、そうだ。委員長と一緒なら安心できます」
「委員長ですか?」
ここで絵麻からの要望がきた。
鏑木先輩と同じところだと俺と一緒のグループってことになるんだが……まさかな。
いや、偶々に決まってる。
絵麻の言っていることは筋が通っているし、理解できる。それに、当番表なんて外部に漏らしてないし、新一年の絵麻が知ってるはずがない。
きっと偶然なんだ。
偶々、俺が鏑木先輩とペアだったから。
初めから俺と一緒のグループを狙ってやったなんてそんなわけ……
ちらっと絵麻に目を配ると、にっこり微笑み返された。
その笑顔にはいったいどんな意味が込められているのだろう。
「ということらしいですけど、鏑木先輩はどうですか?」
メンバーからの反対意見も特になかったため、当人である鏑木先輩に確認すると特に何も言わずに首肯した。
「では、藤森さんは鏑木先輩と俺のグループということで。詳細は後々決めることにして、今度こそ要望書の議論を行います。議論の内容としては7月の球技大会のことについてです」
一番近い年行事として6月の体育祭があるがこれは3月の上旬。つまり、前年度の集会で既に決議が行われている。
だから、今回の集会の議題は7月の球技大会をどうするかであった。
「例年なら、球技大会は風紀委員の管轄外でしたが今年から規模拡大化するとのことで生徒会からの応援要請がありました。夏休み前の3日間の日程で行われ外部の人も観戦にくるそうです。そこで、今回の議案としては観覧席を限定的にするか全面開放するかです。これに関しては生徒会から一任されているので今回の議論で決着をつけ、生徒会への要望書に記載したいと思います」
ここで渡された資料の文言は終わっている。
つまり、ここからは風紀委員会内での専門員が仕切るのだ。
最初から決められていた役員の3年生が数名立ち上がり、主体となって議論を進めていくのに耳を傾けながら絵麻が加わった常時活動を今後どのようにすればいいか考えていた。
◯
「それでは無事議題も終了したということで、定期集会を終えたいと思いますが、諸連絡は何かありますか?」
風紀委員役員は腐っても鏑木先輩が選んだ成績優種者たち、活発な議論を交わし、スムーズに議題を進め大幅に時間短縮して結論を導いた。
今回の集会でやることは全て終わったため、最後に進行役としての務めを果たす。
「ごほんごほん、少しいいか……?」
手を挙げたのは、隣にいる鏑木先輩だった。
「鏑木先輩??ど、どうぞ?」
「なぁに、そんな大切な話じゃない。これが終わったら藤森絵麻だけここに残ってくれ。さっきのグループでの当番を決める」
「あの……それなら俺も同じなんですけど?」
「お前には後で知らせる。悪いが……今日は二人にしてくれ」
「わ、わかりました」
「ごほごほ……終始咳き込んで悪かったな。これで解散だ。みんな帰っていいぞ」
鏑木先輩の言葉を聞いて、風紀委員のメンバーは各々立ち上がり教室を出ていく。ここに取り残される絵麻の心配をしながら俺も退出し帰路に着いた。
――――――――――――――――――
視点が変わるので今日はここで一旦切ります。
次は絵麻と鏑木先輩です。
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