第12話 昼休み
いつものように学校に登校すると、相変わらず生徒の活気で満ち溢れているが数日前よりかは少しだけ静かだった。
絵麻を巡る生徒会と風紀委員会の論争。
決着自体は放課後につくということで野次馬をせず泣く泣く部活や帰路に着いた生徒も多かったようだが、やはり注目していたのだろう。
翌朝登校して、風紀委員会所属になったことを知った生徒たちは驚愕と共に沸いた。
大多数が生徒会が勝つと予想する中での大どんでん返し。中にはどうやって風紀委員会に引き込んだのか考察する人も出てきたりと学校中の話題となっていたわけだ。
「いやぁ……やっぱすげぇよ…」
午前の授業を終えて、俺と大聖、翼の3人は机を囲んで一緒にお昼ご飯を食べようとしていたのだが、購買のパンを手に取り大聖が何かに感服したように言った。
「なんかあったのか……?」
そのままぐったりするように机に突っ伏す大聖見て、そう声を掛ける。運動神経抜群で体力にも定評がある大聖が力の抜けた声を漏らすのは非常に珍しいことだ。
「あぁ……購買のところで偶々「孤高の天使」に遭遇したんだがな?それはもう凄い人気で……」
「あぁ……」
購買部は生徒が溢れかえって大混雑。
パンを買うのさえ苦労して、大聖は現在に至っているということか。
「ま、まぁ……学校中の注目を一人で背負ってるような人だもんね……」
翼も同様に巻き込まれたことがあるのか、大聖に同情しているようだった。
絵麻の人気は衰え知らずで日に日にファンを増やしていると聞く。本人曰く、いつものように振る舞っているだけだというのだが、人を選ばすあんな感じで喋りかけてたら勘違いする人だって出てくるはずだ。
「それにどうやら、ファンクラブも出来てるらしいよ?」
「え?」
「はぁ!?マジか!?」
完全に初耳だった。
絵麻はどこまで行ってしまうんだろうか?
「若い番号欲しさに会員番号を争ってる生徒もいるみたいだし」
「マジかっ!?すげーな!そんなに人気なら俺も入ったほうがいいのか??」
「やめろ。大聖のファンクラブ会員が暴動を起こすぞ」
確かに絵麻は疑いのない人気者だ。
しかし、それに負けず劣らずの人物もいるということを張本人であるこの男にも教えてやりたい。
俺たちが周りにいるからこそ、ファンクラブ会員は何もしてこないがひとりの女子が抜きん出ようとした瞬間、その他大多数によって始末させられてしまうだろう。
これまで出るか出ないかの微妙な均衡を維持してきたというのに、本人自らブレイカーになってどうする。
「暴動だって〜?なに言ってんだよ〜琴也?そんなの起こるわけないしそもそも俺のファンクラブなんて誰かがでっちあげたウソに決まってんだろ〜??」
「いやいやいや!?あるから!ファンクラブ!」
「そんなわけないだろ?だって、俺だぞ?ちょっと人気ってだけだろうが?別に興味本位で入ったくらいで何も問題にならないって」
「やめやめやめ!?早まるな!?」
「そ、そうだよ!?大聖らしくもない」
「なんで、琴也もばっさんもそんな慌てたんだよ〜?俺が入るといけない理由とかあんのかぁ〜?」
「あるあるある!なっ??」
「そそそそ、そう!ぼ、僕は平和主義者だから!」
「平和主義者??なんだそれ?」
翼も大聖がファンクラブに入ったらどうなるか想像がついているようだった。
「君たちがずっと側にいるから、私たちは一歩引いて見守ってるだけだったのに……なに勝手に他の女のとこやってんのよ??信頼してたんだけど!?あん!?」みたいな感じでファンクラブの皆さまに問い詰められるのが想像できちゃうから!!
てか、背後に鋭い眼差しを持った
あ……にっこりして……
「終わった……」
「僕も生徒会行けないかも……」
「ん??なんだ二人とも、具合でも悪いのか??」
「さいっこうに元気」
「み、右に同じ……」
「変なやつ……まぁ、ファンクラブのことは放課後でも聞いてみるとして……時間も時間だし、昼食べないか?琴也も今日は久々の弁当なんだろ?」
あっ…お弁当。
その前の話が強烈すぎてすっかり忘れてたけど、俺は今日絵麻の手作り弁当を持ってきたんだった。
机の上に置かれてるのはピンク色の三角巾に包まれた二段弁当。
構造的におそらく上段がお菜で下段にご飯だろう。
楽しみにしててくださいね?と言われるくらいだからきっと豪華なものを作ってくれたに違いない。
弁当で沈んだ気を紛らわせよう。
三角巾を解き弁当を開けようとした時だった。
「おい、クソゴミ」
聞き馴染みのある声で一人のクラスメイトが話しかけてくる。
「あ?なんだって??」
初手から喧嘩を吹っかけられた。
声の方に振り返ると赤毛のショートカットの小ちゃい少女がいた。どういうわけか、腕を組んで大層不満そうである。
「どうしたんだよ、もも」
声の主の正体は一年の頃から俺と一緒に風紀委員を務めている
俺たちは、初めから何故か折り合いがつかず仲が悪いことで有名だ。
「何回もメッセしたのに全然既読つかない!!!」
そんなももが不満げに口を膨らませ俺の机をバンと叩く。
「あ?そんなわけ……」
さっき確認した時はなにもなかったのに…?
そう思いながらもカバンにしまってあるスマホを取り出すと10件以上の未読メッセージが溜まっていた。
「あ……」
「ほら!言わんこっちゃない!やっぱりオマエが気付いてないだけだった!頭を下げてあやまれ!」
「わ、悪かったよ」
「そうだ!もっと反省しろ」
「はいはい……って、なんかお前いつもより高圧的だな?」
「ふ、ふんっ……気のせいだろ。あたしはいつも通りだ!」
本人はそう言っているがなんか怪しい。
あ、そうか。俺の近くにあいつがいるからかも。
俺はスマホを取り出すと、ももにメッセージを送る。
『翼がいるからって、そんな元気になるなって!」
すると、すぐに既読がついた。
『ばばばばばは、バカかオマエは!?別に元気になってないし!!』
『ほんとか?』
『ホントだ!てか、オマエはこれ以上翼と絡むな!うらやま……じゃなくてぶっ殺すぞ』
夢中で文字を打ち込んでいる間も頰を染め、この慌てよう。
こいつ態度に出やすいんだよな…
「なんか、二人とも仲が良さそうだね」
そんな俺たちをニコニコしながら眺めていたのは翼である。
「ち、違うからっ!こんなヤツ全然仲良くなんてないからっ!」
ももによる必死の抗議。
まぁ、意中の人から言われるのは辛いよな。
でも、残念ながらコイツはお約束の鈍感なんだ。
ももの想いなど知る由もないんだよ。
薄らと涙を溜め弁明しているももを横目にどこか退屈そうな大聖は、「早く食べようぜ〜昼休み終わっちまう!」と騒ぐ始末。
もうこの場がカオスに染まりつつあった。
「そ、そろそろ食べようか!」
収拾がつかなくなってしまう前に(もう半分手遅れだが)どうにか昼ごはんを食べないと。
午後は6限に体育があるため、昼飯抜きはかなり堪える。
「おう!やっとか!それじゃあ、琴也がどんなの作ったのか見せてくれよ??」
上手い具合に話に乗ってくれた大聖に感謝しつつ、話を続ける。
「残念ながらそれは俺もわかんないんだ。だって、俺作ってないから」
「作ってない?ということは、誰かの手作りってこと?」
「ゴミカスに手作りしてくれる人なんているのか?」
「失敬な!そりゃ、俺だっているさ」
「お?だれだ!?」
「そりゃ、え――あっ」
「「「え――あっ?」」」
「え〜っと、父さん!」
あぶねぇ……危うく絵麻って言いかけるところだった。
俺たちは学校で義兄妹関係は明かさないことにしてるから絵麻の名前は言っちゃだめだったんだ。
完全に忘れてた。助かった。
「なんだ、父さんかよ〜てっきり琴也にも春が来たかと思ったのによ〜」
「ふん…このゴミクズを好いてくれる生命体なんて存在するわけがない」
「まぁまぁ……でも、琴也のお父さんって凄く忙しいって言ってなかったっけ?」
「あっ……えっと、偶々今日休みらしくて……朝から張り切って作ってくれてた」
「そうなんだ。いいお父さんだね」
笑顔で言う翼を横目にしながら「なんでお前の家族事情まで詳しいんだ殺すぞ」と言いたげなももの視線が突き刺さる。
天才だから一回言えば覚えるんじゃないか??
根も葉もないようなことを適当に並べさっそく弁当を開けてみる。お菜はきっと豪勢だろうから後回しにして先にご飯から開けるか。
みんなの注目が俺の弁当に集まるなか、弁当を開ける。
そこには――――
『ことくん!だいすき♡』
「「「「………………………」」」」
――おい!なんだこれ!!!????
海苔が丁寧にご飯の上に貼られていた。
本来ならこの大きさの弁当でよく八文字も入れられたなとか感心するだろうが生憎のところ、そんな余裕は俺にはない。
「待て、これはだな……」
「スーッ…………」
「えっとぉ………」
「………………」
いっそ笑うなら笑って欲しかった。
頼むから言葉に詰まるのだけはやめてくれ……
「ま、まぁ……これも愛だよな!」
「う、うん……素晴らしい家族愛だと思う!!」
「わ、悪くないな……」
あのももにまでフォローされたら終わりなんだが……
何故か、後ろで俺たちの話に聞き耳を立てていた
結果的には
だけど、同時に俺はあまりにも大きな物を失った。
そんな気がした。
―――――――――――――――――
作ってる時の絵麻
「センパイ!だいすき♡……だと他の人にバレる可能性があるか…な、なら……ことくん!にしよ……うん。これならわたしが作ったってバレないでしょ……」
先輩に迷惑をかけないために最大限配慮つもりが結果的に大爆死させた絵麻だった。
――――――――――
どこまでも琴也ファーストな絵麻でした。
書き終えたばかりなので誤字があったらすみません。
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