第2話 最近視線を感じる……


高校の春休みというものはとても短いもので、春休みに入ったかと思えばいつの間にか学校が始まっている。

いや、高校に限らずとも小学校や中学校であっても期間は大して変わらなく同様に体感でも一瞬だったか。

こんな生産性のない比較をしている俺がなにを言いたいかというと、「もう少し休みをください」ということだ。


父さんの世代では土曜日に学校があったりしたらしいが、今の公立高校(少なくとも俺の生活範囲内の高校)には土曜日登校は存在しない。

しかし、俺の通う高校は何を隠そう私立高校だ。

第二、第四土曜日に授業を受けるために登校しなければならない。平日の授業が6限で終わる日があるのは正直言って魅力的ではあるが、相対的に早起きしないといけない日が多くなるのもそれはそれで億劫ともいえる。

だから、夏休みやゴールデンウイークなどの長期休暇は昼頃まで寝れるので俺にとっては至福の日々なのだ。

だが、それも昨日まで。

俺はいま超絶重い足取りで学校へと向かっている。電車に少し揺られ、最寄り駅に着くまではそこまで憂鬱ではなかったのだが、実際に校舎が見えてくると自分でも信じられないくらい気落ちしていることに気が付いた。

周りの生徒はあんなにもキラキラして友達とお喋りしているのに、何故自分はこうも落胆的なのか。

学校が嫌いなわけじゃない、居場所がないわけでもない。

決してクラスカーストの上位に入っているわけではないが、友人もそれなりにいるし話しかけてくれる女子もいる。恵まれているほうだと自覚しているのに朝に弱いというだけでこうも憂鬱になるとは。

自分も偉くなったなと自嘲していると背後からポンポンと肩を叩かれた。


「おいっす!ことや、元気だったか!」


「おう、おはよう。進級しても大聖たいせいは変わらず元気だなぁ」


「あはは、それが俺の取柄でもあるからなっ!」


見るだけでも思わず目を背けてしまいそうになるほどの眩しい笑顔。

そこには所属しているバスケ部のシューズやらユニフォームやら専門的な道具を詰め込んだでっかいカバンを背負った高身長の男がいた。

名を十文字じゅうもんじ大聖たいせいという。

バスケ部に所属しているこいつは一年の頃の俺のクラスメイトだ。

こいつに関してはとにかくいいやつという印象が強い。

困ってる人がいたら取り敢えず助けるし、自分のことは後回しにして他人を優先するタイプだ。そのうえ、努力家で一般入試でこの学校を受けたにも関わらず、強化指定選手を押しのけて一年のエースとなっていた。あとついでにイケメン。

高身長でイケメン、スポーツ万能という欠点のなさ。

当然ながらモテないはずもなく……


「きゃー!たいせいくん~~!おはよーー!!」


「た、大聖さま今日もかっこいい…」


など、周囲の女子からの黄色い歓声が飛び交っていた。

大聖がにっこりとして手を振るとさらに歓声が大きくなる。


「なにこれ、アイドルじゃん」


「なわけあるか。俺は一般高校生だ」


歓声は上がるというのに決してお触りはしてこないという民度の高さ。

黄色い歓声を上げていた女子は一定の距離を保ち、大聖を舐めまわすように眺めている。

さながらアイドルのようだ。

なんでこんなやつと仲良くできてんだろう……

俺って、大聖からしたらランク的に不相応じゃね?と思うことも多々あるがこいつはその名の通り大聖人なのでそんなことは一切考えてない。


「そういえば、今日はクラス発表の日だったな」


「あ、そういえば」


今日は入学式ではなく、始業式ということで二年生と三年生はクラス替えがある。

俺は普通科の文系で大聖も同じ。

しかし、うちの高校は地方にしてはそこそこ規模が大きく二年生から文系2クラス、理系2クラス、理数(理系の特進)1クラス、就職・専門1クラス、スポーツ推薦2クラスの計8クラスに分けられる。(1クラス40人、理数だけ20人)

1年次はスポーツ推薦クラス以外は分けられておらず、理系文系の概念もなかった。

しかし、今年からは本格的に分けられる。1年の頃に同じだったアイツとは離れ離れになってしまうのかと理系を選択した友人の顔を思い浮かべる。


お願いだから、できるだけ知ってる人いてくれ。

切実に願っていると隣から陽気に「おんなじクラスだといいなっ!」と言ってくる大聖を見て、女子たちの気持ちが一ミリだけわかったような気がした。





「おはよう!琴也に大聖!一か月ぶりだね!」


クラス分けの書かれた用紙は第一玄関の窓ガラスに張り出されていて俺と大聖は無事に二学年も同じクラスとなった。

安堵しながら2-2の教室に入るとそこで待ち構えていたのは去年も同じクラスだった友人だ。


もおんなじだったかぁ~!いやぁ~クラスガチャ当たりみたいだな!」


俺の横で大聖が嬉しそうにそう言った。

いま、クラスに入って俺たちに挨拶してきたのは、絹会きぬかいつばさ

黒髪の正統派で清潔感がありトレードマークのメガネが印象的だ。

その知的な雰囲気溢れる外見は飾りではなく、正真正銘の天才児でありインテリイケメンという言葉が凄く似合う。

実際に去年の学年考査でも三位以下を取ったことはなく、常にトップ争いをしている。

そして、去年から生徒会にも所属しているというエリートっぷり。

私立の高校であるせいなのかはわからないが、うちの高校は生徒会を主体に学校を運営しており、文化祭などの年間行事に至っては教師よりも強い権限が約束されていたりする。

そのため、この学校の生徒会というものは、一般生徒からしてみれば花形だ。


その花形の生徒会役員は既存の生徒会役員の総意によって選出される。

つまり、生徒会長だけではなく、全員に認めてもらわなければいけないので、相当な難易度だ。それを一年次で合格するのは言葉では言い表せない。

とにかく、要約すれば頭脳明晰でモテるしすごい奴なのだ。


「僕もふたりがいて安心したよ。去年の友達はみんな理系に行ってしまったからね」


少し残念そうに翼が話す。

実際に文系に進む男子はそこそこいるが理系と比べるとやはり少ない。

6クラスを総シャッフルするのだから何人も去年と同じクラスメイトということにはならない。わかっていたことではあるが、こうしてその現実を目の当たりにすると少しだけ残念だ。


「まぁまぁ、そんなに落ち込むなって!また、新しい友達作ればいいだろ?なっ??」


「そうそう、またすぐ仲良くなれる」


同調するように頷いた。

去年だって俺たちは無のところからクラスを作り上げていったのだ。

今年だってできるはず。なんの問題もない。


「それに見た感じだと同じクラスの女子はそこそこいるみたいだしな」


大聖がそういうのでクラスを見回すと見知っている顔がちらほら。

一年の頃に交流があった他クラスの生徒の姿もあったのでクラスの三分の一くらいは既に知り合いまたは友達ということ。

仲の良かったクラスの女子に手を振られたので振り返しながら俺はそんなことを考えていた。



始業式が終わった後、軽くクラス内でのHRをしてその日は解散になった。

クラスメイト全員の視線が一点に注がれたなかでの自己紹介は久々で緊張したが、個人的には合格だったと思う。

全員が自分の名前と趣味を述べた後、なにか適当に一言を言っていったが中には面白い趣味をしてるやつもいたので今度話してみることにしよう。

何人かとは既に連絡先も交換したし、グループも作った。

やはり、これがクラス替えの醍醐味でもあるよな。


連絡先を眺め少しだけ頬を緩ませていると背後から視線を感じた。

誰かにつけられている?

しかし、振り返ってみるとそこには誰もいない。


「おかしいな…」


実はこれが初めてというわけではなかった。

春休みの最中でも買い出しとかで数日に一度近所のスーパーで買い物をしていたのだが、その時にも同じような視線を感じていた。

しかし、どこを探せどもその正体を見つけることは叶わず。

最近の悩みの種でもあった。


取り敢えず、偶々っていう可能性もあるんだし。

考えすぎか。


そう思って俺は再び歩き出す。

その後ろ姿をしっかりと捉えてる少女がいることも知らずに。



――――――――――――――


定時に投稿するとか言っておりましたが、試しにこの時間でも投稿してみました。

次からヒロイン出ます





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