義妹になったヤンデレストーカーがすべてを大義名分化してくる~気づいたら正妻の座を確立していた~
鮎瀬
1章
第1話 父の再出発
「わたし、実はせんぱいのこと好きでした」
懐かしい記憶だった。
あれは、確か中学の卒業式。
当時一緒の委員会で活動していた後輩から、告白された。
友人に近しい存在だと認識していた。
だが、関係を言葉にするならば、先輩後輩という間柄が一番しっくりくる。
俺がそうだったように相手の方もそれ以上の感情などないと思っていた。
それなのに、アイツが恋愛感情なんて……
そんな素振りこれまで全く見せてこなかったから。
だから、まさか自分が好かれているとは思っていなかった。
学校の正門の晴れ空の下。
風に吹かれて髪が揺れる彼女が告げたあの言葉。いまでも鮮明に覚えている。
俺が高校に進学し疎遠になってしまうこと。
当時、俺には好きな人がいたため、断ったが。
どうして、いまになって夢に出てきたんだろう。
あいつとの関係なんてもう途切れているというのに。
なのに、どうして。
〇
「父さん、事実婚しようと思うんだ」
高校二年生前の春休みの終盤。
多忙な父が久々にまとまった時間が取れたというのでふたりで外食に来たのだが、
そこで父の口から語られたことは衝撃的なものだった。
「へぇ…そうなんだ…って結婚!?」
俺――
この日は、色々あって昼飯を抜いていたので空腹で目の前のスパゲッティで頭がいっぱいだったがこのことで一気に注目が父の方へ向かう。
「結婚じゃない、事実婚だ」
「どっちも同じだよ――てか父さんって恋愛する気あったんだ」
幼少期に母を病気で亡くしてからというもの、父である宇積田
大企業勤めということで多忙を極めており、恋愛をする時間がなかったのも理由のひとつかもしれないが、母親の存在が未だに大きかったのだろうとも思っていた。
母が病気で亡くなる前に自分はもう結婚する気はないと豪語していたのを見たことがある。母はひとりは大変だから別に再婚しても構わないと言っていたが父は頑なだった。
あれから約12年の月日が経とうとしている。
移り行く時代の変化とともに自分の取り巻く環境も変わっていく。
だというのに、父はずっとそこに取り残されているような気がして。
だから、父の気が変わったのが率直な気持ちとして嬉しかった。
きっと、いつまでも父を苦しめるのは母の願いじゃなかったはずだから。
「で?相手はどんな人なの?」
恋愛する気になってくれたのは、嬉しく思うが同時に相手のことも気になっていた。
なんせ、父に相手がいたのも初耳、当然相手のことなど知らされていないのだ。
父が選んだ相手なら祝福はしたい。
だが、その相手が現役の大学生とかならば話は変わってくる。
恐ろしい世の中になったもので、実は結婚詐欺だったや美人局なんて話も珍しくない。父のことだから心配はいらないだろうが、念のため俺はそう尋ねたのだ。
「ああ、そういえば琴也には一度も紹介したことなかったな。相手の人なんだが、実は父さんの元同僚なんだ」
そう言って、父はスマホを取り出し一枚の写真を見せてきた。
そこには、父と並んで写る女性の姿が。
「この人が父さんの新しい人?」
「そうだ、
つまり、相手もシングルだったということか。
そう思いながら、写真に写る女性を見つめていた。
明るくて優しそうな目をしていた。
「どうだ?父さん、この人と一緒になってもいいか?」
それは、俺に許可を得ているかのように見えて、本質はもっと別のところにあるような気がした。
…俺が母親似だからって、俺をつかうなよ。
娘は父親に似て息子は母親に似る。
科学的に証明可能なのかは知らないが、そんな話を聞いたことがある。
偶然なのか定かではないが、俺は母親の血を特に濃く受け継いでいるらしく、輪郭から瞳の形、ほくろまで生き写しかのようにそっくりだった。
俺に
母はもういない。その母を父が深く愛していことも知っている。
そして、いま父がその鎖を引きちぎり前に進もうとしていることも。
もし、俺の言葉でそれが父の免罪符になるのなら。素直に答えよう。
「別にいいんじゃない?」
――と。
〇
「実はこの後、萌が合流することになってるけど会ってくれないか?」
店に滞在すること約一時間。
食事していた場所が個室ということもあり、店内の人々の流れは把握できなかったがお互いの皿が綺麗になっていき会計をする雰囲気になっていたところで父がそう言った。
「いいけど、どこで?」
「父さん、このまえ家を買っただろ?そこでいいか?」
父は、少し前にローンで一軒家を購入していた。
一軒家というのは、父さんの小さい頃からの夢だったそうだ。
五日後に荷物を運び出すまで新居にはいかない予定だったが、今夜再び新しい生活拠点を拝めそうだ。
俺が首を横に振る理由はどこにもないので頷く。
それから会計を済まし、俺たち親子は新居へと向かった。
〇
「改めて、こんばんは。藤森萌です。琴也くん…よね?」
「はい、琴也です。はじめまして」
道中で合流したこのショートカットの女性が藤森萌さんだ。
仕事帰りなのかその身にスーツを纏い、腕には高級そうな腕時計が巻かれている。
立ち話もなんなので新居に入り、家具などがなにも置かれていない寂しいリビングに三人でちょこんと座る。
俺と萌さんは初対面だったために父が間に入って挨拶をしている最中だった。
「孝志さんに聞いてるかもしれないけど、事実婚することになったの。本当はもっとちゃんと順序を踏んで琴也くんと仲良くなってからこうしたかったんだけど、急でびっくりしたわよね」
「びっくりはしましたけど、実際会ってみて不思議と納得している自分がいます。父さんが好きそうな人だ」
「こらっ、琴也!そういうことは言うな!」
「ふふふ、親子仲がいいのね。よかったわ」
そんな感じで和やかな雰囲気で会話が進んでいく。
萌さんがどんな人か、最初は不安だったがいい人そうでひと安心だ。
その後、この家に萌さんと娘さんが越してきて一緒に住むことやその他にも諸々話し合ってると、時計の針は23時を指していた。
俺は、春休みがまだ残っているため比較的暇だが、ふたりはそういうわけにもいかない。今晩はお開きということになり、細かい話し合いは連絡の取れる父たちに任せることになった。
「じゃあ、全員の顔合わせは入学式が終わってからだな」
宇積田家は、五日後に荷物を運びこむが藤森家は都合がつかず、娘さんの入学式後に荷物入れをすることになっていた。
「琴也くん。私と孝志さんは再婚したわけじゃないけど夫婦になったと思ってるし、琴也くんも私にとっては大切な息子だから。琴也くんがよければだけど、これからはお義母さんとして接してくれると嬉しいな」
帰り際にお義母さんがそう言った。
その瞳には少しの不安が混じっていたが、それを吹き飛ばすように俺は答える。
「わかったよ。義母さん」
勿論、慣れるまで時間はかかるだろう。
だけど、もう家族になるのだから。
勇気を振り絞ってこう言ってくれた義母さんのためにもいい息子にならねば。
率直にそう思った。
「琴也くんは、やっぱりいい子ね。娘共々家族としてこれからよろしくね?」
「はい、よろしくお願いします」
義母さんが差し伸べた手を握り、握手を交わす。
父が義母さんを家まで送っていくようで、俺はひとり先に家に帰ることになった。
「藤森か……」
夜空を見つめながら、ポツリと呟く。
父さんに名字を聞いたときから脳裏に浮かぶのはひとりの少女。
「まさかな……」
偶然にも名字が同じだったに決まってる。
そんなことあるわけない。
―――――――――――――
新連載始めました。
一応、一章までは書き終えているのでそこまで毎日投稿を行います。
投稿時間は次回以降、22:35を定時ということで。
正直、一章は導入という意味合いが強いのでヤバめのヤンデレを垣間見るということはあまりないかもしれませんが、二章からは増えると思います。
また、よろしくお願い致します。
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