《三章 特別入館》
「ようこそいらっしゃいましたルー……グナー様。この度は私の依頼を受けてくださりありがとうございます」
細身の体ながら引き締まった筋肉。綺麗なスーツに白髪の整った髪型。俗に言うイケオジの方が私達に深々と頭を下げて迎えてくださった。建物の中は豪華な内装で、上にはシャンデリアや様々な絵が描かれている。まさかこんなことになるとは思わず、全くおめかしせずに来てしまった。まぁ、私はいつも化粧とかそんなにするタイプじゃないししたところであれか。
「久しぶりだな、アルス殿。昔の借りを返しに来ただけだ。感謝などしないでいい」
久しぶりとルーグナーが言ったということは、こちらの方と以前から知り合いだったってことか。この方、相当高貴な方だぞ?それと知り合いってルーグナーは何者なんだ?
「いえいえ、滅相もない。それに敬語などいりませぬ。アルスと呼んでくだされ」
上下関係は、ルーグナーが上……ほんとにこいつは一体何者なんだ。聞いたところで教えてくれるとは思えないし、気にしないほうがいいか。
「それと、お隣の女性は付き添いの方で?」
老人は私の方に手を向けて、ルーグナーに聞く。老人と目があったので軽く会釈をすると、軽い笑顔と共に会釈を返してくれた。
「彼女はルナ。俺の仕事仲間だ」
「そうでしたか。ルナ様も、この度は依頼を手伝っていただきありがとうございます。お礼の方は必ずさせていただきますゆえ、どうかお力添えをお願いいたします」
アルスさんが頭を下げたので私もすぐに頭を下げた。正直お礼も嬉しいが、この方とお知り合いになれただけでも相当な価値がある気がする。なんか、ここ一帯の権力者よりも数段は上ぐらいの権力があるように思えるし。
「アルス、そろそろ本題の方を」
ルーグナーがそう言うと、アルスさんはすぐに話を始めた。
「数日前にここで死者が出たことはご存じで?」
アルスさんの言っているのは、私が販売所で聞いた話だろう。詳しくは知らないため、そこが気になる。
「あぁ、そこら辺は聞いている」
「亡くなった方々は公演に来ていたカップル四組の女性四名。どれも全身に刺し傷があり、全員が命を落としております」
「一ついいかしら。アルスさんの言っている女性だけってのが気になるわね」
私は二人の話を聞いていてひとつ気になったことを口にした。死者が全員女というのにはなにか理由があるはずだ。そこに今回の鍵があるように思える。
「アルスで結構でございますよ、ルナ様。彼女の言う通り私達もそこが気になり、男性側に何が起きたのかを聞いてみたところ、公演中に彼女が急に変な女性の声が聞こえてくると言っていたようでした」
流石にこの方にさん付け無しでやっていける気がしないけど、心のなかではさん付けしとこう。
「変な声か。なんと言っていたか分かるか?」
「私から奪うな、と申していたようです。そして全員驚いた声を上げたかと思うと、そのまま……」
霊が言ったのは私から奪うな……か。”何を”奪うなと言っているのかが重要そうだ。
「そうか。引き続き調査を頼む。また何か分かったら教えてくれ」
ルーグナーがそう言うと、アルスさんは私達に天象儀の鍵を預けて建物のどこかに行ってしまった。
***
「色々聞きたいことがあるんだけど、まず悪魔と霊ってどういう関係なの?」
事件の現場である天象儀の公演場所にルーグナーと向かっている最中、ふと気になっていたことを私は聞いてみた。最初、ルーグナーはこの事件が悪魔関係と言っていたが、名前が上がるのは霊だ。となると、悪魔を祓う仕事?のルーグナーには一見関係がなさそうに思える。
「悪魔というのは異界の存在だ。大抵の奴らは召喚されずにこの現世に出てくるが、極稀にどこかのバカが召喚してこの世界にやってくる」
「インペルのはどっちだったの?」
前の船でも悪魔は出てきていた。あれはどちらだったのか気になる。
「あれは召喚だな。対象インペルだったし」
それで見分けられるのか。
「次に、二つの祓い方の違いは?」
「召喚された悪魔は無理やり祓うこともできるんだが、霊の場合は生前の心残りが解決するまでは絶対にその悪魔を祓えない」
霊の場合は探偵みたいに謎の解明が必須ってことね。
「霊=魂を悪魔に悪用された存在ってことでOK?」
「その認識であっている」
霊は一概に悪というわけではなく、被害者でもあるのか。
「最後に一つ」
私は船の事件以来、長らく気になっていたことをルーグナーに聞いた。
「悪魔を倒すには信仰心か魔力が必要だけど、私は前に何で悪魔を倒せた?」
「一切わからない。偶然としか言いようがない事象だった」
私はルーグナーの返事を聞いて、「そう」とだけ言った。この謎はいつか解けるのだろうか。
***
天象儀のドアの前までたどり着いた私達。
「あの偶然がまた起こるとは思わないほうがいい。こいつを貸してやる」
ルーグナーはそう言って何かを私の手に握り込ませた。
「ライター?」
特別大きくも重くもない、一見普通のライターのようだ。
「そいつは特別製のライターだ。三回分だけ火が付いて、近くに”聖域”を形成する。」
「また
ルーグナーは悪魔を知ったばかりの私には聞き慣れないことばかりを言ってくる。
「妖世は悪魔が作り出した空間のことで、聖域は悪魔が入れない空間のこと」
「了解。やばくなったらこいつね」
そう言って私はライターをコートの胸ポケットにしまった。これは私の命綱だ。
「これは俺の推測だが、もし中に入って霊と会っても絶対に叫ぶな。それがトリガーな可能性もある」
ルーグナーの言う通りだ。確かにその可能性はあるだろう。全員が叫ぶような何かが起きる。それさえ分かっていれば多少は……いや、自分のためにも絶対に耐えて見せる。
「叫ばないように構えておくわ」
私の言葉にルーグナーは頷いた。
「じゃあ、行くぞ」
ルーグナーはそう言って扉に手をかける。
私達は扉の奥に進んでいった。
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