《五章 後始末》
「くそ、今回の仕事は簡単だったはずなのに」
女は一室でつぶやいた。彼女は名も無い犯罪者。禁術に手を染めて、船で現れた悪魔を呼び出した張本人。依頼は簡単だった。シアーズ家の一人息子、インペルを殺し、一族を没落させること。彼や親族の汚名は全て根も葉もない噂で、禁術を指示していたのは恨みのある貴族からだった。多数の奴隷の命を使って悪魔を呼び出させる簡単な仕事。それだけ、それだけのはずだった。
だが、失敗した。悪魔とのつながりが勝手に切れた。悪魔は契約を必ず履行する。今回の事態は異常だった。
「くそ。くそが。なんで私がこんな目に」
今まで曲がりなりにも名の売れていた女は今回のミスを重く受け止めていた。一度依頼を受けた以上、失敗すれば貴族から命を狙われることだろう。まだ気づいていなかったが、こんな依頼を請け負わせた者を、貴族が生かしておくわけもなかったのだが。
「あ、そうだ、そうよ。そうすればいいんだわ」
そんな絶望の最中、女は一つのアイデアを思いついた。ミスを上書きするには、依頼人を消せば良い。女は自身の魂の一部を悪魔に捧げ、依頼人を殺そうとした。
「悪魔よ。私の魂と引き換えに────」
「引きどころが悪いのは感心しねぇな」
女はその言葉を聞いた後、悪魔と契約する間もなく命を失った。倒れた女の上に、仮面をつけた男がまたがっていた。男の名前は、アデル・リッパー。表ではなく、裏の世界で有名な殺人鬼である。大きな犯罪に手を染めた貴族や犯罪者を殺す、犯罪者専門の殺人鬼が彼だった。彼はとある人物からの依頼のみを引き受ける。今回の依頼は悪魔を呼び出したものと関係者の排除。その仕事は今終わった。
アデルは女の死体を眺めてつぶやく。
「雇い主が死んだってのに馬鹿なやつだ」
関係者全員もうこの世にいない。ここに来るまでにアデルは残りの仕事を既に済ませていた。
「チッ、今回のも外れか。どいつがあの……」
女の持ち物を物色した後、アデルはそう言って部屋から立ち去った。
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