第70話 手加減し、かつ負けてあげた



「後日分からなかった個所とかあれば言ってくれればその都度説明するから、しっかりと見ておけよ?」


 そして俺はとりあえずテレサにそれっぽい事を言うのだが、正直な話テレサが優秀であるが故に楽をしているだけである。


 基本的には見て覚え、分からない個所は全てを教えなくとも二割ほど教えた時点で理解しているので俺からすれば弟子を取っているという感覚にならないくらいには良くできた弟子である。


 故に冒険者ギルドの序列三位にまで上り詰めたのだろうという事が納得できてしまう。


 身体能力や魔術的な才能があれどそれを使いこなすだけの知能と、短時間で経験則から最適解を導き出す頭の回転力など、頭が良くないとトップレベルにまで上り詰める事ができないし、自分の身体能力だけに頼っているといつか足を踏み外して淘汰される世界なのだろうという事が窺える。


 あと、純粋に自分を強くする事が好きなのだろう。


 その為であれば年下だろうが新人だろうが頭を下げて教えを乞える事くらいは何ともない程には。


 そして何よりもテレサのお陰で、ライバル意識が芽生えたのかスルーズがより一層貪欲に強くなろうとしてくれるので、その点に関しても良き拾い物をしたなと思う。


「それとスルーズ。お父さんの腕は問題なく治ったからいつまでも悔やんでいないで、俺の戦闘シーンをちゃんと見ておくんだぞ? そうしないとテレサに抜かれてしまうかもな」

「お、お父さんの娘であり一番弟子でもあるので、後から来た人に負けるなんて絶対に嫌ですっ!!」


 なのでいつまでも自責の念にかられているのか鬱々としているスルーズに、腕が治った事を教えた上で『思考を切り替えていかないとテレサに抜かれるかもな』と言うと、俺の腕を見て安心した後、テレサの方を見るスルーズの目にはやる気の炎が灯っていた。


 ちなみに一度スルーズとテレサ、両方の実力を見る為に一度二人で模擬戦をさせ、結果はスルーズが辛くも勝利したのだが、恐らくテレサが空気を読んで手加減し、かつ負けてあげたのだろう。


 俺も小学生の従弟にレースゲームを挑まれる度にギリギリを狙って負けていたのを思い出し、懐かしく思ったものである。


 手加減して負けたのがバレると怒るし、かといって勝っても怒るからな……。


「あ、わ、私も……その……一緒に着いて行くわっ」

「万が一の為に俺も一緒に着いて行ってあげましょうっ!! それに俺はまだロベルトの強さを認めていないからな。きっと何かからくりがある筈でしょうしねっ!!」

「いや、お前たちは足手まといで邪魔でしかないからむしろ来るな」

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