第66話 俺の名前を口ずさむ



 そんな事よりも、私を助ける為にお父さんが相手の放った魔術を左腕で受け止めたのだが、その腕が折れてしまい、骨が外に出ており血が地面へと滴り落ちているではないか。


「で、でも……お父さん、腕がっ!」

「かなりギリギリだったからな。ただ受け止めるだけで精いっぱいだったが、それでもスルーズを失わずに済んだのならば安いものだろう。それと、次からはちゃんとお父さんに一言言ってから行くんだぞ? 心配するだろう?」


 お父さんはそう言うと私を残っている右腕で撫でてくれる。


「……うぅ、ご、ごめんなさいぃぃいいっ!!」


 そして私は安心したのか抑え込んでいた感情が爆発して、声を出して泣き始める。


「……ちょっと、いきなり出てきて私の邪魔をして……あなたは誰なのかしら?」

「俺か? 俺はスルーズのお父さんだぞっ!! というか、良くも俺の娘をこんなになるまでイジメてくれたな? 当然覚悟はできているんだろうなぁ?」



◆ロベルトside



「……ちょっと、いきなり出てきて私の邪魔をして……あなたは誰なのかしら?」

「俺か? 俺はスルーズのお父さんだぞっ!! というか、良くも俺の娘をこんなになるまでイジメてくれたな? 当然覚悟はできているんだろうなぁ?」


 そう言うと俺は敵を睨みつける。


 俺の腕の中で未だに泣きじゃくっているスルーズの服は草と土まみれであり、手や腕、足は傷まみれである事からもこも魔物からいたぶられていたであろう事が窺える。


 その事を思うととてもではないが許す事はできそうにない。


 とりあえず、コイツの返答によっては殺す。


「あらぁ、それはこちらのセリフよ? 私がせっかく見つけたおもちゃで遊んでいたのにそれを邪魔したんだから、あなたこそ覚悟なさ──」

「お父さんパンチッ!!」

「──ぺぎゃぁああっ!?」


 相手は俺のスルーズをいたぶる事を遊んでいたというではないか。


 それを聞いた俺はスフィアに一旦スルーズを預けると、まだ喋っているのもお構いなしに魔物をぶん殴った拍子に付けていた仮面が落ちてしまう。どうやら相手の攻撃からスルーズを護った時にその衝撃からヒビが入ってしまっていたのだろう。


 その結果、俺が魔物を怒りのまま蹴った衝撃で仮面が割れ、落ちてしまった。


「……ロ、ロベルト様…………?」


 そして俺の顔を見たスフィアは信じられないと言った表情で俺を数秒見つめたかと思うと、俺の名前を口ずさむ。


「あーー……面倒くさい事にまずなるだろうから今まで隠していたんだがな、顔を見られては言い訳のしようもないか……」


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