第63話 懐かしい光景


 確かに私は目の前の化け物から視線を外す事もなく一挙手一投足その全てを見ていた筈なのに、気付いた時にはお腹を殴られていた。


「うげぇっ!! うぇっ!!」


 その衝撃と苦しさから私は思わず嘔吐してしまう。


 お父さん、お母さん…………っ。






「スルーズ、お前は本当に可愛いなぁっ!! 本当に俺たちの子供か? まるで天使だなっ!!」

「こら、お父さんっ!! スルーズだけじゃないでしょ? お兄ちゃんたちも可愛いじゃないっ」

「それはそうだが、やはり娘はそれ以上だっ!! 誰の嫁にも出したくない俺の宝だっ!!」

「そんな事を言って、もしスルーズが結婚したい人を紹介して来たらどうするのよ……」

「そ、そんな事はお父さん許さんぞっ!! もう二度と家の敷居を跨ぎたくないと思わせてから叩き出してやるっ!!」

「お父さん、それじゃスルーズが一生独身で、スルーズの子供も見れなくても良いの?」

「ぐぬ、それは困るな……いやしかし……っ。母さんっ!! 俺はどうすれば良いっ!?」

「どうすればって、私たちが愛したスルーズが連れて来た人であれば親である私たちが信用してあげないでどうするのよ。 それにスルーズはまだ三歳よ? 十年以上先の話を今から悩んでどうするのよ? まったくもう……」


 懐かしい光景が、もう二度と見れないと思っていた光景が見え、聞く事ができないと思っていた声が聞こえてくる。


 これが走馬灯てきなものなのだろうか?


「そうそう。スルーズは上手ね。将来は良いお嫁さんになるわね」

「お、おい大丈夫かっ!? 包丁を持たせるのはまだ早いんじゃないのかっ!? もしスルーズが傷物になったらどうするんだっ!!」

「心配し過ぎよ、お父さん。私がしっかり見ておきますので。それに指が少し切れたくらいで傷物にはなりませんよ。ほら、スルーズも『失礼だ!』とお父さんに言ってあげなさいな」


 これは初めて私がお母さんに『料理を手伝いたい』と言った日だ。


「スルーズは良い線いっているな。どうだ? 将来結婚しないでお父さんと一緒に冒険者にならないか? クロもそう思うだろ?」

「ワンッ!!」

「ほらっ。クロもそう思うって言っているぞ?」


 これは私がお父さんの仕事について行った時。


「はは、スルーズは筋があるなっ!! さすが俺の妹だっ!! 剣筋も悪くないし反応も悪くないっ!! だけど、こんな事ばかりしていては行き遅れになるぞ? まぁ、今は好きな事をすればいいさ。スルーズは成長するととんでもない美人さんになるだろうから、男性からは引く手あまたになる可能性だってあるしなっ!」

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