第58話 もう遅いとしか言いようがない



「ラインハルトにしては良い事を言いますね」

「そうでしょう、そうでしょうっ!! これでスタンピードを阻止出来たら一気に俺たちは英雄になるでしょうっ!!」

「ちょっとっ、スルーズちゃんまでっ!?」

 

 なのでとりあえず、ラインハルトの出した案を褒めてあげると、無駄に偉ぶりながら髪をかき上げる。


 カッコつけているつもりなのだろうが、ロベルト様と比べるまでもなく劣るので私の目からは滑稽にしか見えないのだが、今日のラインハルトは良い案を出してくれたので突っ込まないでおこう。


 そのラインハルトを冷めた目でスフィアさんが見ている事に気付いていないみたいなのだが、それに関しては自分で気付くべきなので教えないでおこう。


「私はマスクさんに認められたいので、一人でもスタンピードを止めに行きます」

「俺も英雄になりたいからな」

「……まったくっ!! 私も行くわよっ!! 二人だけだと危なっかしいじゃないのよっ!! ただし、私が引き返した方が良いと判断したら二人は口答えせずに引き返すのよっ!!」

「分かりました。まぁ、私一人で十分だと思うので引き返した方がいい状況なんて無いと思いますけどね」

「じゃぁ決まりだな。早速スタンピードを止める為の準備をしましょうっ」

「本当にラインハルトは調子良いんだから……」


 そして私たちはスタンピードを阻止するため準備を始めるのであった。



◆魔獣の女王side



 今日も私の子供達が人間に討伐される恐怖が思考伝達能力で伝わってくる。


 ただ生きているだけなのに、人間たちは危害を加えているかどうか関係なく問答無用で魔獣と判断するやいなや私たちを殺しに来る。


 確かに私の子供達の中には人間を餌として認識しているものもいるけど、まだ人間と出会ってすらおらず、当然食べた事がない者たちもいるのだ。


 餌として認識してやり返され殺されるのは弱肉強食の世界である以上仕方がないと私も思っている。


 しかしながら、人間が餌かどうかも理解できていないような者達が殺される時の断末魔が私の思考に流れて来る度に子供達の理不尽な暴力からくる恐怖、悲しみ、疑問、恨み等の感情は耐えがたき苦痛なって私を襲って来る。


 そして私は人間達へ復讐しようと決意するのにそう時間はかからなかった。


「やっとこの時が来たわぁ……っ」


 どうやら人間たちは原因は突き止めていないものの近い将来魔獣たちが人間の街を蹂躙するのではと気付き始めているようだ。


 私からすれば、今更気付いたとしてももう遅いとしか言いようがない。

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