第56話 必死にもがいている





「スルーズッ!! 最近の学園生活はどうだっ!?」

「…………」


 あれ? 聞こえてなかったのかな?


 学園に通い始めて一か月が経った。


 初めの一週間は慣れるまで大変だったのだが今では俺も教師が板についてきたような気がする。


 ラインハルト等はこれから面倒臭い絡まれ方をするんだろうなと思っていただけに、授業で模擬戦をして以降は大人しいものである。


 むしろ若干尊敬されているようにすら感じるのだが、それに関してはあのラインハルトの事なので無いだろう。


 そんなどうでも良い事よりも今はスルーズの事である。


 それはスルーズがここ最近俺に対して冷たいのだ。


 初めは気のせいだと思ったり、たまたま虫の居所が悪いのかも? とも思ったりもしたのだが、どうやらそうではないらしい。


 どうしたものかと考えてみた所で子育ての経験に関しては今世も前世も無い上に周囲にこのような悩みを聞ける者もいないのでどうしたものかと悩んでいる所である。


 一瞬俺の両親に相談してみようかとも思ったのだが、最凶悪役令息である俺を育て上げたという実績がある両親なので、その案は即却下した。


「…………」

「あ、おいっ!! スルーズッ!? どこ行くんだッ!?」

「…………ここでは集中して勉強できないので自分の部屋で勉学しに行くだけです」


 そしてスルーズはそのままリビングから出て行ってしまう。


「急にどうしてしまったのでしょうね……。嫌っている風には思えないのですし、学園の教師から聞く分には、ロベルト様が居ない所では相変わらず自慢のお父さんとして学友たちにも話題に時々上げているみたいなので、余計にロベルト様の前だけ冷たい対応をとるというのは余計に分からないですね」


 そんなスルーズにマリエルもどうしたんだろうという表情で話す。


「そうだな……恐らくこれではないかというのが一つだけある。それは『試行動』という行動なのだが、その場合はスルーズが満足するまで俺達が受け入れてやる覚悟と器の大きさが必要だろうな……」


 スルーズが歳以上に大人でいようとする行動もそうなのだが、両親が死んでしまった事を乗り越えようとあの小さいからだで今必死にもがいているのだろう……。


 そして今までは俺に捨てられたら終わりという環境で『いい子にしなければ』と大人顔負けのいい子でいたのだが、それが『ある程度いい子じゃなくても俺は見捨てる事は無い』という信頼を得たからこそ次の段階である『どこまでがセーフティーラインであるか』を見極める動作へ移行し始めているのだろう。

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