第52話 本能的に理解していた



 流石のラインハルトもレベル差が明らかに離れている俺からの殺気を当てられて本能的にヤバいと思ったのだろう。


 塩をかけたもやしの如く萎れた返事をする。


 イキっていた奴ほど叱られると萎れてしまうのは何処の世界でも同じなようである。


 ただ注意が必要なのは、こういうバカは集団になると萎れるどころか『俺は悪くない! 俺に注意して不快にさせたアイツが悪いんだっ!』と、自分がした行為は無視して被害者の立場で襲ってくるから質が悪い。


 群れなければ何もできないが、群れると手に負えないのがこういう人種である。


 因みに前世を思い出す前の俺は、集団でなくとも怒りの感情をコントロールすることができずに感情のまま暴れていたので、本当にヤバい奴の部類であった……。


 今思い返すとクラスメイトには申し訳ない事をしたなと思えるくらいである。


 ただ例外があり、何故か担任にだけは口答えをした事が無く、むしろ関わらないように逃げていたように思う。


「ごめんなさいね。彼は普段いい子なんだけれども、魔術や体術にはかなりの自信があるようでして、こうして新しい教師を見つけるなり先ほどの様に喧嘩を売って模擬戦へ持ち込もうとするのですわ。教師も人の子である以上自分よりも一周り年下からあんな言葉を吐かれては腹も立つというもの、マスクさんと入れ替わる前に担当していた魔術と体術の教師もそれでかなりストレスが溜まっていたようで……因みに私は歴史の教師なので喧嘩を売られた事が無いのが残念ですわね。もし喧嘩を売られたら逆にとって食べちゃおう……ではなくて大人として説教をしてやろうと思っているのに……。あぁ、それでいうと少し前まで彼以上に元気な男の子が一人いたんだけれども、彼も結局私だけ何故か避けていたように今になって思うわね。歯向かって来たらどのようにして手籠めにしてやろうかと毎晩考えて……ではなくて説教をしてやろうと待ち構えていたのだけれども……。折角考えた案を使う間もなく家の都合で退学しちゃったのよ……」


 うん……前世の記憶を思い出す前の俺は、この担任に歯向かわない方が良いと本能的に理解していたようだな……。


 逆に言うと本能的に勝てると思った相手、または反撃される事は無いと判断した人にだけ噛みついていたクズ野郎であったという事なのだが、今更だろう。


 というか聖職者としてどうなんだ? と思わなくも無いが、まだ問題を起こしていないので勝手にこの職業は向いていないと他人が判断するのは間違っているだろうと自重する。


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