第38話 我慢している俺は偉いと思う



 テレサはそう言うと俺の右手を両手で握りブンブンと振るではないか。


「……俺の事を調べたのであれば悪い噂ばかりであっただろうに何で俺の好感度が上がっているんだよ……?」


 そして、俺の事を調べたと言うのに何故か好意的に接して来るテレサに意味が分からず、俺は思わず好奇心に負けて確認してしまう。


「確かに、ロベルト様の言う通り入ってくる情報は悪い噂ばかりであったが、それが逆に不自然だったのだ。だからこそ私はここで生活するロベルト様を観察する事によってその人となりを推測した結果、それらの噂は真実であったとしても本来のロベルト様を隠す為敢えて道化を演じていたという結論になった。そして、それと同時に悪役を演じなければならないロベルト様の事を思うとこのテレサ、胸が張り裂けそうになり、いてもたってもいられずにここへ押しかけていたという訳だなっ!!」


 いや『という訳だなっ!!』と、まるで良い事をしたかのように言われても、普通に迷惑でしかないんだが……。


「まてまて。どういう角度で見れば俺が敢えて悪い噂が流れるように道化を演じていたという結論になるんだよ……。どう考えてもお前、予め答えありきで推理していたんじゃないのか? ちゃんと噂を客観的に推理すれば俺が道化を演じていたのではなく、俺が普通にクズであっただけだと分かる筈なのだが? そもそも俺が道化を演じる理由もないだろうが」


 そしてとりあえずテレサの言っている内容が腑に落ちなかったので、疑問に思った個所をさらに聞いてみると、テレサは『ここまで言って分からないんだ?』というような視線で俺を見てくるではないか。


 ……殴っても良いか?


「答えありきではなくちゃんと客観的に見てそう判断したよ。貴族、それも公爵家の長男ともなれば身近な側仕え達ですら信用できない、それこそ他の貴族が寄こしたスパイである可能性もあるだろうし、他の貴族たちはそこまでして他の貴族を貶める為の弱みを握りたいと思っている環境だからこそ、敢えて道化を演じて他の貴族たちを騙し、出し抜く必要があった。もし本当に噂通りのクズであれば既に複数人殺している噂が流れても良いはずなのにそんな噂は一つも無かった。聞こえてくる噂は基本的には『ロベルト様の性格は悪い』という物に由来するものばかり」


 テレサがここまで言うと『どうです? 私の推理は? ぐうの音も出ない程完璧でしょう?』という視線で見つめてくる。


 その無駄に自信満々な表情をしているテレサの横っ面を殴りたい欲求をグッと我慢している俺は偉いと思う。


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