第30話 返しきれない程の恩



 テレサは貴族に負けるという現実を受け入れる事ができなかったのか、周りが見えなくなり高段位の魔術を行使しようとしているのが窺えた為、俺は咄嗟にテレサが行使しようとした魔術をカウンタースペルである水魔術段位二【取り消し】で発動をキャンセルさせ、自分のプライドを護る為に人の命を奪おうとしたテレサの横っ面を加減せずに思いっきり蹴り飛ばすのであった。



◆テレサside



「……ここは?」

「……冒険者ギルドにある医務室です」


 目が覚めると、私はいつの間にか見知らぬ部屋のベッドに寝ていたようである。


 思わずここがどこか呟いた私の言葉を拾った受付嬢が、私がいる場所が冒険者ギルド内の医務室である事を教えてくれる。


 どうやら私がここに運ばれて来てから看病をしてくれていたようである。


「すまない、迷惑をかけてしまったようだな」

「それならばロベルト様へ言ってください。テレサさんが行使しようとした魔術が発動していたら今頃私は疎か多くの人が死んでいた事でしょう。それに、テレサさんがこうして傷一つないのもロベルト様が回復魔術を施してくれたお陰です。回復魔術師の方も『最上位回復魔術を施したと言われても信じてしまいそうな程に傷一つどころか受けたであろうダメージですら回復している。それこそ、もう何も施しようが無い程に。後はテレサさんが目覚めるだけだ』とお墨付きがつくくらい全回復してもらっているのですから」

「………そうだな、私は取り返しのつかない事をしてしまったのだろうな。貴族がどうのと言えるような立場ではなくなってしまったな」


 受付嬢が話してくれる内容を聞き、あの瞬間私は何をしようとしたのか思い出す。


 あの時行使しようとした魔術をロベルトに止められる事が無く、あのまま発動してしまっていたらと思うとゾッとする。


 ロベルトには返しきれない程の恩を貰ってしまったようである。


「……認めたくはないですが、確かにロベルトは私の恩人となったわけか。後でちゃんと謝罪と感謝の言葉を伝えに行かなければな……っ」


 私は、ロベルトが止めてくれなければアイツらと同じ人種になってしまうところであった。


 認めるしかない。ロベルトは私よりも遥かに強い存在であると。


「あ、もう立ち上がっても大丈夫なんですかっ!?」

「ロベルトが全快してくれたのだろう? それに、今の所体調は問題ないみたいだしな」

「あっ、ちょっと待ってくださいっ!!


 そして私はベッドから出て立ち上がると、身体に不調が無い事を確認して医務室から退室するのであった。




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