第5話 最高の贅沢



 そしてお父様もお母様も俺がお爺様の所へ行く事自体は大賛成のようだ。


 取り敢えず最初の関門はクリアできて一安心する。


「しかし息子よ」


 しかし一息つく間もなくお父様が険しい表情で俺に話しかけてくるではないか。


「な、何でしょうか? お父様」


 折角関門をクリアできたと思っていたのに、実はまだクリアしていなかったのでは? と身構える。


 ここで俺が選択ミスをして結局お爺様の元へと行けなくなるとか、最悪だからな。


「お爺様はお前が思っている以上に偏屈で、頑固ジジイ──」

「折角私たちのロベルトが生まれ変わろうとしているのに、何水を差すような事を仰っているのですかっ!! それも全てロベルトの経験となるかもしれないチャンスだと言うのに、過保護が過ぎてそのチャンスを潰してしまう可能性を親である貴方が、お爺様が苦手だと言う個人的な理由で潰してしまうような事を言ってどうするんですのっ!!」

「す、すまん……っ」


 そう思い、どう返せば良いのかと思考を巡らせていたのだが、どうやらその心配は無さそうである。


 お母さまには感心の中で感謝しておく。


「んっ、まぁ、あれだ。お爺様もあれはあれで孫のお前には甘い所もあるだろう。昔と違って丸くなっているかもしれないしな。妻であるサーシャの言う通り私がとやかく言うものでもないな」


 そして俺の。お爺様の所へ行くという計画は実行される事になったのであった。





 お爺様が住んでいる所はお父様住んでいる屋敷から西へ馬車で二日程かかる場所にあるのどかな田舎町である。


 領地的には同じ領地内であり、一応避暑地として別荘も建てられているものの、逆に言えばそれくらいしか利点の無い場所でもあった。


 お父様が辺鄙な場所と言う理由も分かる。


 しかしながら、大人になり社会の荒波に揉まれる事によって、その辺鄙な場所こそが最高の贅沢であると気付くのである。


 ファイヤーからの田舎生活に憧れるなど、その最たるものであろう。


 お父様は、お爺様の事を『何であんな辺鄙な場所へ隠居するのか分からない。まぁお陰で顔を合わせる機会も減った訳だが』とは良く言っていたのだが、前世ブラック会社で働いていた俺からすればお爺様が辺鄙な場所へ隠居した気持ちが居たい程分かる。


「ロベルト様、そろそろ休憩にいたしましょうか?」

「あぁ、そうだな」


 そんな事を思いながら馬車に揺られて数時間。流石に一人でお爺様の場所へ向かうのは危険だと、護衛兼側仕えのメイドとしてマリエルを同行させているのだが、そのマリエルが休憩を提案してきたのでそれに乗る事にする。

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