19.どうやら、相手にしないらしいです

「さて、これで数の暴力はなくなりましたね」


 その気になれば何体でも魔物を出せるのに。

 まあ、私たちをなめているのは好都合だ。


「私とアリスでホーリーデュラハンからやるから、シェルリィはデスチョッパーのほうをお願い」

「オッケー。あれのバフはやっかいだからね」

「わかった」


 シェルリィがデスチョッパーの方へ駆けだす。

 と同時にホーリーデュラハンが盾を掲げる。防御力と俊敏を上げるバフをかけるモーションだ。


 基本的にバフの重ね掛けはできない。けど、このホーリーデュラハンのバフは重ねがけができてしまうイカレた仕様になっている。

 初めて戦った時なんて、倒すのを後回しにしてしまい、蹂躙されたことはいい思い出だ。

 だから許さん。


 ホーリーデュラハンの厄介なところは、バフの無限重ね掛けだけじゃない。

 本体の防御力が異常に高いところだ。

 ゲームで再戦した時、もちろん、ホーリーデュラハンからやった。

 結果、倒しきれず、バフを掛けられ、またもや蹂躙されてしまった。

 これでもかというくらい、安全マージンをとって再戦したのはいい思い出だ。

 マジで、制作陣許すまじ。


 ゲームでは辛酸を舐めた相手だが、すでに何回も攻略した相手でもある。


「ボルケーノ!」


 アリスの魔法で、ホーリーデュラハンの体勢が崩れる。


 ――シッ!


 その隙を見逃さないように、がら空きになった脇の下から、刀を滑り込ませる。

 そして、そのまま、腕を切り落とす!


 盾が、切り落とされた腕と一緒に地面へと落ちていく。

 ホーリーデュラハンはバフを掛けるのを諦め、背中の鞘から大剣を抜き、そのまま振り下ろしてきた。


 切り替えが早いな。


 ブロックを展開し、大剣を防ぐ。

 弾かれた勢いで体勢を崩すかと思いきや、流れに任せて後ろに下がった。


 ゲームの時よりも動きいいのでは?


 シェルリィの方を見ると、デスチョッパーと追いかけっこしていた。

 デスチョッパーが追いかける方。

 シェルリィは、刃物をギリギリで避けている。

 完全に遊んでるな……。


 シギンはニヤニヤしながら、こちらを見ていた。

 数の暴力はなくなりましたねって言っていたのは何だったのだろう。


「シェルリィ!」


 遊んでないで、しっかりやりなさい。

「はーい」という気の抜けた返事が聞こえると、デスチョッパーがうめき声をあげ、黒い煙となって消えた。


 さて、こちらもしっかりやらねば。


「アリス!」


 ホーリーデュラハンにグラビティを放つ。

 動きがブリキのようになった。


「あいよ!」


 アリスも魔法を放つ。

 地面が溶け、ホーリーデュラハンも溶けていく。

 そのまま、溶けて消えてしまった。

 ……メルトか?思ったよりもレベル高いな。


 パチパチと拍手の音が鳴った


「さすがですね。こいつらでは相手にもなりませんか」


 嬉しくない称賛の声がかけられた。


「では、本番と行こうか」


 シギンの雰囲気が変わった。

 目を離さず、いつでも動けるように武器を構える。


 突然、シギンが後ろを振り返った。

 罠かと警戒しつつ、シェルリィと一気に距離を詰めようと駆けだす。


 シギンは、まだこちらを見ない。

 何かおかしい。


 次の瞬間、


「ご苦労だった」


 学園長の声が、耳に届いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る