12.どうやら、逃げきれないようです

「これって、言ってた招待状だよなぁ」


 私の手の中には王家からの招待状があった。

 内容は、シュルツの婚約パーティーだ。婚約者はもちろんアリスだろう。

 というか、二人を見ているとそれがわかる。

 学園ではいつも一緒にいるし、時々目線で会話しているように感じる。あの雰囲気を出しながら、婚約者が別にいるとは考えられない。

 他に婚約者がいて、あの雰囲気を出しているなら、私は自分の常識と戦わなくてはいけないだろう。


 婚約者パーティーのお誘いは素直に嬉しい。

 けど、タイミングが問題だ。

 数週間前、ダンジョンでシギンから宣戦布告を受けた。招待状を送りますとの言葉とともに。


 約束していた時間により少し早いが、学園長室の扉をノックする。

「どうぞ」といつも通りの声が入室を許可する。

 ソファーに腰掛ける。学園長が淹れてくれたコーヒーが目の前に置かれる。いい匂いだ。今日はお菓子はないようで、少しだけがっかりした。


「十中八九、シギンが言っていた招待状だろう」

「……そうでしょうね」


 世間話もなく本題から話始める。コーヒーを楽しむ間もない。


「この後はどうなる?」


 ゲームでの展開を聞いているのだろう。

 しかし────


「私にもわかりません。もうゲームのシナリオからは外れてしまっています」

「そうか……」

「でも、すべてが違うわけではありません。ゲームでもシュルツとアリスの婚約者パーティーはありました。その場では、王が私を敵として宣言しましたけど」

「大きな流れは変わらないということか」

「そうだと思います」


 コーヒーを口に運ぶ。

 大きな流れが変わらなければ、この後はどうなるのだろう。

 やっぱり、私は敵として王に認定されるのだろうか。ゲームだと学園長が王に進言したために私はアリスたちの敵になってしまうのだけど……。

 シギンが王を唆すのか……。

 そのメリットは何だ。


 学園長に視線を向けると、目を瞑りなにかを考えているようだ。

 深く息を吐き「とにかく招待を受けるしかない」と言った。


「そうですね。その場で戦闘になることはないと思いますけど、装備は整えておきます。シェルリィにも注意しておくように言っておきます」

「その方がいいだろう」


 その後、なにか参考になればと思い、ゲームでの私が敵認定された後の流れを話した。

「……わかった」と何がわかったのかわからない返事を受け、退室した。


 ※


 婚約者パーティーの日になってしまった。

 専属メイドのフィスカが「お祝いですからね!気合いが入ります!」といって、色んなドレスやアクセサリーを準備してくれた。

 着せ替え人形になったのだと自分に言い聞かせ、乗り切った。

 本番はこれからだというのに、疲れてしまった。行きたくない……。


 会場に着き、端っこの方で休んでいると、ツェリン様がこちらに気付き、淑女の状態での最速で駆け寄ってきた。どこか焦ったような表情だ。


「クローディア!大丈夫なの?」


 そうか。ゲームだと私が敵として宣言されるから、それで心配してくれたのか。


「……正直、わかりません」

「カーツェには話したのよね?」

「話しました。でも、シナリオから外れてしまっているので……」

「頼りないと思うけど、何かあったら頼ってね」

「ありがとうございます」


 ツェリン様は「それじゃあ」と言って他の人たちに挨拶に向かった。

 パーティーだから、私も挨拶をしないといけないのだけど……。

 その場から動くことができず、開幕の時間になる。


 BGMとして演奏されていた音楽が一度とまり、王族を迎えるための音楽が演奏される。

 王族が入場し壇上の椅子に腰掛ける。シュルツの隣の席が空いている。そこが婚約者の席になるのだろう。


「今日はよく来てくれた。早速だが、息子、シュルツの婚約者を紹介しようと思う」


 王が「こちらへ」と婚約者の入場を促す。

 舞台の袖から出てきたのは、やっぱりアリスだった。


「クリストン王、本日はこのような場を設けて頂きありがとうございます。また、皆様もご来場いただきありがとうございます。ファドレッド家長女アリスと申します」


 緊張しているのを隠し堂々たる姿で話しているアリスを見て、目頭が熱くなる。何事もなければ、素直に祝福できるのに……。

 アリスの挨拶が終わり、会場に拍手が鳴り響く。

 王が立ち上がり手を挙げ、場を制する。


 嫌な予感がする。


「……おめでたい場なのだが、皆に言わねばならないことがある」


 背中が壁にぶつかった。無意識に後ろに下がっていたようだ。


「残念ながらこの場に、この王国に仇なす者が紛れている」


 周りがざわめき始めた。ツェリン様がこちらを見ているのに気づいた。

 安心させるために微笑む。しかし、泣き出してしまった。

 王の言葉が続く。


「ブラキシス家、クローディア」


 視線が私に集中する。


「お言葉ですが、王よ────」

「貴様が話すことは許可していない」


 反論することも許されない。


「カーツェよ。クローディアを捉えよ」

「……承知しました」


 そうきたか。

 今の私を抑えるのに、これ以上の適任者はいない。


 さあ、どう逃がしてもらおうか。

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