第2章:どうやら、少女は世界を救うようです

10.どうやら、レベル上げを進めるようです

 魔王こと学園長を仲間に取り入れた日から数日がたった。

 大きなイベントも終わり、学園の雰囲気も緩やかなものになっている。

 私としてものんびり読書や喫茶店でスイーツを楽しみたいのだけど、そうはいかない。


「今日は60層まで行っちゃう?」


 コンビニに誘うようなノリでダンジョンの最下層まで行こうとする姉が、手を繋いで歩いていた。

 ……なぜ手がつながれているのか。私を逃がさないようにするためか?


「そんなにすぐに攻略したら、学園長が泣いちゃうわよ」

「あいつは一度泣いたらいい」


 前のことを根に持っているようだ。

 まあ、それでやる気が出るならいいんだけど。


「今の私たちだと60層でも余裕」

「まあ、そうね……」


 シェルリィの言い分もごもっともで、二人で挑んだ場合、65層までなら余裕だろう。だから、今日で60層を攻略するのも悪くない案なのだ。

 ……行くか、60層。

 私の気が変わったことを察したのか、シェルリィから嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

 刀をさするのをやめて欲しい。ちょっと猟奇的で怖いから。


 ※


 ダンジョンに入る時、不法侵入していたのが懐かしい。

 あの日から、学園長が気を利かせてアバターの魔法を外してダンジョンに入ることが出来るようになったのだ。

 学園長様々だ。


 シェルリィと40層まで移動し、そこから60層を目指す。

 二人とも50層のボスは倒しているので、素通りできてしまう。楽だな~。

 道中の魔物もシェルリィがサクっと倒してしまうので、私の出番がない。安心している後ろをついていくのは、幼いころを思い出す。

 楽をしている間に60層についてしまった。


「ここのボス知ってる?」

「もちろんよ。名前はエンシェントドラゴン。基本的に空を飛んでいるわ。攻撃手段は、爪と尻尾。火を噴く時だけ地面に降りてくる。火を噴く範囲は自分を中心に180度で、距離は5メートル程よ。倒す場合のセオリーとしては、先に尻尾を切り落とす。そうすれば、バランスがうまく取れなくなって空に飛び立つのに時間がかかるようになるわ。次に翼ね。翼まで破壊したらあとは簡単よ。空を飛べないんですもの。火を噴く大きなトカゲと変わらなくなるわ」

「……えぇ」


 私の説明に感心したのか、なんだコイツという目で見てくる。

 何回も倒してきたのだ。どうすれば効率よく倒せるか追及したくなるのは、自然の摂理では?


「ま、まあ、そういうわけで尻尾、翼を重点的に攻撃しましょう」

「わかった」


 納得してもらえたところで、ボスのいる部屋の扉を開く。


 部屋の中央にはボスであるエンシェントドラゴンがいる。

 そう認識した次の瞬間には、シェルリィが尻尾を切り落としていた。


 ……強すぎでは?


 自分の姉が戦闘民族である可能性を考え、すると自分も戦闘民族になってしまうという謎理論に心が屈しそうになるのをグっとこらえ、翼を切り落としにかかる。

 既に大きなトカゲに成り下がろうとしているエンシェントドラゴン。慌てて空に避難しようとするも、尻尾を切り落とされ飛び立つのに少し時間がかかる。

 慌ててるのを尻目に、翼が根元から切り落とされる。


 ……シェルリィの強さヤバイ。やはり戦闘民族では?


「クロ、やるね」


 何故か褒められた。

 エンシェントドラゴンを見ると、翼が両方切り落とされており大きなトカゲに成り下がっていた。

 そうです。私がもう片方の翼を切り落としました。

 これで、姉妹そろって戦闘民族であることが確定し、心が屈していると「もういいよね」という声が聞こえた。

 見ると、シェルリィがトカゲの首を落としているところだった。

 火を噴くことすらできないまま倒されるとは……。

 そして、レベルが5上がり78になった。シェルリィもこれで70台まで上がっただろう。


「弱すぎたね」

「シェルリィが強すぎるのよ」


 私が呆れていると、褒められたかのようにフフッと笑う。


「どうする?今日は戻る?」

「戻る。戻って学園長に報告する。泣かせる」


 驚きはしても、泣きはしないだろう。

 戻ろうとすると、足元が光りだし魔法陣が浮かび上がる。

 ……またこれか。1パターン過ぎるでしょ。

 となりのシェルリィを見ると、首を横に振り何も知らないと訴えてくる。

 マジか。


 魔法陣の中から人が現れた。

 ローブを羽織り、メガネの奥の目は優しくこちらを視界に捉えている。


「ほお、現代にここまでの力を持つものが現れるとは。さぞ隊長もお喜びだろう」


 助けて魔王!すべての元凶がここにいるよ!

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