9.どうやら、魔王を仲間にするようです
「クロ、こっち」
いつもと変わらない表情で、隣に座るよう促してくる。
はぁ。
席に着くと、学園長自らコーヒーとお菓子を用意してくれた。クリームたっぷりのロールケーキだった。
「すまなかった」
申し訳ないと思っていてくれたのか。
「まさか、シェルリィもそちら側とは思いませんでした」
「君の実力を測るにはその方がいいと思ってね」
「急に強くなってびっくりしたから」
「……気づいてたのね」
「もちろん」
シェルリィが当然!といった顔をする。
まあ、ずっと誤魔化せるとは思ってなかったけど、行動に移すの早くない?
「あの後もダンジョンに潜り続けたね?今は何層までいった?」
謝罪はすんだとばかりに、質問が飛んでくる。
「……60層はまだ超えてないですよ?」
「「……」」
沈黙に耐え切れず、ロールケーキを口に運ぶ。程よい甘さ、口溶けで高価なものだと分かる。
「私よりも先に行ってたの?」
思っていたより進んでいたのに驚いたのか、シェルリィがつぶやく。
学園長はそのことではなく、別のところに引っかかったようだった。
「……その先があることを知っている口ぶりだな」
流石に気付くよね。
少し早いけど、ここで話してた方がいい。
「もちろん知っています。ダンジョンのことも、学園長のことも」
そう言うと、学園長は目を瞑り何かを考えた後、納得した表情になる。
「君は……転生者だな」
私は微笑み、コーヒーを飲む。
「しかし、転生者だからといってそこまで危険を犯して、レベル上げを急ぐ必要がある?前にも言ったが、最悪死んでしまうのにだ」
「その理由を話す前に、私が転生者として思い出したことをお話します」
※
私の前世は学生でした。その時に夢中になっていたゲームがあります。それが『恋と禁忌のイデア』です。
え?あぁ、ゲームというのは、機械を使ってキャラクターを操作し遊ぶ、向こうで流行っていた娯楽の一つです。
私が夢中になっていたものは、乙女ゲームという、ヒロインが複数の男性を攻略対象として恋愛を疑似体験できるものでした。実際は、RPGでしたが。RPGは、簡単に言えばキャラクターを強くしていき敵を倒していくジャンルです。
複数の男性と恋愛できると言いましたが、『恋と禁忌のイデア』は一回で複数人とは付き合うことができませんでした。なので、何回もゲームをし、別々の男性のルートをクリアする必要がありました。
……気づきましたね。そうです。この世界は、そのゲームと非常に似ているのです。もちろん、細かい点は違います。アリスに弟はいませんでしたし、……シェルリィはここまで長く生きるキャラクターではありませんでした。
それより攻略対象は誰?って、今ショックを受ける話題があったはずだけど……。はあ……。攻略対象は、4人。マシュー、マーキス、シュルツ、そして学園長です。なぜって言われても困ります。……シェルリィ、これはゲームでの話よ。
ここからが問題です。それが、アリスと私の立ち位置です。
ゲームでは、アリスがヒロインでした。では私は?
先程、RPGと言いましたね。それは敵が必要だということです。
では、その敵とは?
そう、私です。
意外ですか?そうですよね。こんなに仲がいいのに。……私も信じられません。
私がラスボスとなってアリスたちに殺されるルートがあるんですよ。
ええ。もちろん、そうはならないルートもあります。
でも、ここはゲームじゃない。ゲームじゃないのに、登場人物はそろってしまっている。まるで、強制力が働いているように……。
なので、殺されないようにレベルを必死に────死に物狂いで────上げていました。
※
「泣かないで。私がついてる」シェルリィが抱きしめてくれた。
いつの間にか、泣いていたようだ。
「……そうか」
レベル上げの理由には、学園長も驚いたらしい。少し、表情が暗くなっている。
「君がレベル上げを急ぐ理由は分かった。次に、ダンジョンや私のことだが、……どこまで知っている?」
どこまでと言われると、全部となる。
それを学園長は信じるだろうか。
私がアリスたちに殺されてしまうことと同じくらい、学園長には受け入れがたい事実だろうから……。
それでも、今、話さなければいけないのだろう。
私はシェルリィの手をギュッと握り、勇気を振り絞り話す。
「もちろん全てです。カーツェ・カフィクション王弟陛下」
「────そこまで知っているのか!?」
学園長が動揺を隠せていない。
それはそうだろう。その事実を知っている人はこの時代には残っていないと思っていたのだから。
「『恋と禁忌のイデア』は3部作でした。1作目は今より25年後の未来が舞台で、2作目がこの時代です。……最後は5500年前が舞台で平行世界から来た調査団の話です」
「……まさか……バカな」
「……そして、それぞれボスが存在します。1作目では世界と心中を計画する学園長が、2作目は私が、3作目は技術を独占した当時の王でした」
「……私は絶望したのか」
「……そうです。しかし、1作目では学園長は殺されず、ヒロインに説得され改心し罪を償うという終わり方をしています」
「学園長だけズルい」
「まあ、ゲームでの話だから」
シェルリィから不満が漏れる。
ゲームでの状態の学園長を殺すことは不可能だから、一定時間猛攻を堪え切れたら改心するという仕様にしたのだろう。
学園長にとって、それは問題ではない。
「全てということは、私たちを陥れた犯人のこともわかっているのだろう?」
静かに、それでも問い詰めるように質問を投げてくる。
「それを聞いてどうしますか?」
「お前には関係ない」
繋いでいたはずの手の中のシェルリィがいなくなった。
抜身の刀を首に添えられている学園長は微動だにせず、視線だけシェルリィに向ける。
「刀をしまって、シェルリィ」
「だめ。こいつはクロの気持ちを無駄にする」
「こっちに来て。ひとりにしないで……」
思っていたよりも、弱々しい声だった。
悔しさと哀しみを嚙みしめ、私の隣に戻ってきた。
「ありがとう」
「……うん」
自分を落ち着かせるために深く息を吐く。
「むしろ関係あるのです。私が殺される理由を話していませんでしたね。……その犯人が王を騙し、私を危険人物として無実の罪を着せ、アリスたちに殺させるのです。その関係者としてシェルリィも殺されてしまいます……」
私の大事な人たちが傷つけられるのだ。
黙って見ていられるわけがない。
だから────
「犯人を教える代わりに私に協力してください」
過去に魔王と呼ばれたカーツェ・カフィクションを仲間にするのだ。
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