8.どうやら、ボスが乱入したようです
目の前では、シェルリィと70層のボスである“ナイト”が激戦を繰り広げていた。
いくらレベルが上がったとはいえ、二人の戦闘についていくのは簡単ではない。そもそもシェルリィが格上であろう魔物と戦えているのが異常なのだ。
それでも、私もただ見ているだけではない。
私が魔法を発動し相手の隙を作り出す。そこにシェルリィが攻撃を繰り出す。
シェルリィにとって、どのタイミングがやりやすいか。それは、今までの経験としか言えない。
彼女も私の考えややり方が分かっているから、格上相手でもなんとか連携ができている。
ナイトを吹き飛ばして、私の方に戻ってきた。
「クロも攻撃して」
「無茶言わないで。シェルリィの補助するだけでいっぱいいっぱいよ」
「せっかく刀渡したのに使ってくれない」
「もう!こんな時に拗ねないで!」
ナイトがこちらに駆けてくる。剣が振られ、斬撃が飛んでくる。私たちを分断させるようだ。
反対方向に避け、ナイトを挟む形になった。
────何でこっちに⁉
サポート役から先に始末することを決めたのか、私の方に向かってくる。
「それじゃあ、交代」とシェルリィの声が聞こえ、仕方なく刀を構える。
※
さて、この70層のボスであるナイトだが、もちろん、ゲームでは何回も倒している。シェルリィには、剣を主体に重力系の魔法を使ってくると伝えた。が、一番厄介なのはそこではない。この魔物の最大の特徴は、体力が下がると戦闘形態が変わるという点だ。
体力が3割を切ると、盾を装備する。
なんだそれだけか、と思わない方がいい。
攻撃を防ぐだけでなく、カウンターを使用し始める。そのカウンターを受けると一瞬硬直してしまう。上層の魔物相手だと問題にならないが、相手は隠しダンジョンのボスだ。その隙は大きな弱点になってしまう。
しかもその盾には、装備破壊効果が付与される。厳密には浸食魔法という文類になる。装備が盾に当たるたびに効果が蓄積され、閾値に達すると問答無用で装備品が破壊される。
初めて戦った時は、それまで強化していた装備が破壊され、コントローラーをぶん投げたのは懐かしい思い出だ。
攻略法は至ってシンプル。前半は接近戦、後半は魔法。しかし、そのどちらも高レベルじゃないと倒せない。中途半端だと、軽くいなされてしまう。
※
だから、シェルリィに攻撃役を任せていたのに……。
そう思いながら、ナイトの攻撃を何とかいなす。
シェルリィが放ったレーザーがナイトの次の行動を制限する。心の中でため息をつきながらも、その隙は見逃さない。
────一武咲き!二武咲き!
胴に目掛けて、横一線に振り抜く。続けて切り返す。
シェルリィなら“満開”まで繋げられるけど、私ではレベルが足りない。運が良くても“七武咲き”までだ。
ひるんだところで、シェルリィと合流する。
「ほら、出来る」
「シェルリィがやった方が確実なのに」
「今日は疲れてるから」
「はぁ、噓つき。ねえ、気付いてる?」
「誰も止めに入らないこと?強制脱出魔法が使えないこと?クロが本気を出してないこと?」
「……私は本気よ?」
「噓つき」
みんなに見せられる範囲でという意味で本気だ。
シェルリィの言葉を無視し、ナイトの特徴を伝える。
「あいつ、もう少しで盾を装備するわ。盾には装備破壊効果があるから、基本的には遠距離で攻撃して。接近戦になった場合、カウンターに注意して」
「わかった」
なぜそんなことを知っているのかも聞かずに、了解される。
今は、そんなことを聞いている場合ではないと、判断したのだろう。
シェルリィが刀を構え、ナイトへ駆ける。私もそれに続く。
ナイトも剣を構え、迎え撃つ。右からシェルリィ、左は私と挟撃を繰り出す。
それを剣と盾で防ぐ。
────盾⁉
まだ、体力は3割を切っていないはずだ。
なら、どうして⁉
「クロ!」
シェルリィの声にハッと思考から浮き上がり、ブロックを発動し後ろに飛びのく。
斬撃でブロックが割れる音が聞こえた。
危なかった。
……落ち着け。ここはゲームじゃない。
深く息を吐き、動揺を鎮める。
「シェルリィ!遠距離で!」
盾を装備されたからには、装備破壊効果を警戒せざるを得ない。
今の私の魔法が与えるダメージなんて、微々たるものだ。だから、攻撃役はシェルリィに任せるしかない。
────グラビティ!レーザー!
避ける方向を誘導し、そこにシェルリィの魔法が直撃する。
ぐらついたが、思っていたよりダメージを受けた様子は見られない。
おかしい。いくら70層のボスでも、シェルリィの攻撃が直撃したのだ。それがあの程度で済むなんて……。
ナイトの動きが止まる。
これ以上のギミックはないはずだけど……。
シェルリィも不振に思ったのか、攻撃を仕掛けず様子を見ている。
すると、ナイトの鎧や剣、盾が深紅に変わっていく。そして突きの構えをとる。
────ナイトシーカー⁉次回作の魔物がどうして⁉────まずい!
「剣を降ろして!」
叫んだ時には遅かった。
ナイトシーカーの剣先はシェルリィの首に吸い込まれように貫いていた。
構えていた刀をすり抜け攻撃を受けたシェルリィは、戸惑いの表情を浮かべ光に包まれた。
緊急脱出魔法が発動したらしい。ホッと胸をなでおろす。
次の標的を私に定め、上段の構えをとる。
すかさずブロックを重ね、刀を構える。
その場で剣が振り下ろされた。ブロックが割れ、刀に衝撃が走る。手が痺れ、膝をつく。
二撃目は防げない。
ナイトだったらまだやりようはあったのに……。
こいつは純粋に火力が違う。レベルがまだまだ足りない。
ここまでするとは予想外だ。
防げないとわかっていても、ブロックを重ね展開する。
ナイトシーカーが下段から剣を振り上げ────
「そこまで」
学園長の声がしたと思うと、ナイトシーカーが倒れ消えていく。
目の前では、学園長が短刀を鞘にしまうところだった。
……一撃。
実力差がありすぎる。
「こちらの手違いで予定とは違う魔物が用意されたようだ。しかし、皆も見ていたように、相当の実力差があったにも関わらず善戦していた。シェルリィ・ブラキシスとクローディア・ブラキシスに大きな拍手を」
観客に向かいそう言うと、一斉に拍手と歓声が沸き上がる。
「後で学園長室に来なさい」
私だけに聞こえるように話すと、その場を去っていった。
※
学園長が舞台を去ると、司会と解説の先輩が興奮した様子で進行していった。
結局、学園最強はシェルリィのままとなり、武闘祭は幕を閉じた。
もみくちゃにされる前に逃げ、学園長室へと向かう。
扉をノックし名乗ると、「入りなさい」といつも通りの声が聞こえた。
中に入ると、来客用である椅子には学園長のほかにもう一人、シェルリィが座っていた。
それだけですべてを察した。
二人はグルだったのだ。
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