異世界への第一歩

「はぁ、終わらねぇ…」


 俺はデスクに顔を埋めた。夜のビル街の灯りが窓からぼんやりと見える中、山積みの書類と格闘する日々。やっと終わりそうだと思ったところで、またもや新しい資料が山のように届く日々。


 その時、突然部屋の明かりが激しく点滅し、眩しい光に包まれた。思わず目を閉じる。状況が理解できなかった。まるで異次元に引き込まれるような感覚で、全身が軽くなる感じがした。


「ここから逃げたいですか?」


 突然、耳に響いたその声に驚いて目を開けると、目の前に女神のような存在が現れていた。淡い光に包まれた、現実から逸脱した存在のような…


「え、えっ?」


 現実から逃げたい気持ちが沸き上がる一方で、その選択がどんな結果をもたらすのか、全く見当がつかない。だってこれまで、起業を継ぐ者として、後継者として、御曹司としての未来しか見たことがなかったから。


「逃げることで、どんな未来が待っているのかはわからないけれど、今の辛さからは解放されるかもしれないわ。」


 女神の声は優しくもあり、どこか神秘的な響きがあった。その言葉が俺の心に染み込んでくる。


「うーん…」


 俺は深く考えながら、女神を見つめた。彼女から漂うほんのり甘い香り。その香りに頭がクラクラする感じがして、どうにも落ち着かない。


 その瞬間、モモとリリーが駆け込んできた。モモはショートカットの髪を揺らしながら、「ケイさん、大丈夫ですか?」と叫び、リリーは驚きで目を見開いている。


「モモ、リリー…」


 俺は驚きつつも、彼女たちがいることに少し安心し、そして現実に引き戻された。二人とも心配そうな顔をしている。


(そうだ、俺に破壊者が…でも…)


「疲れたのでしょう?」


 女神が優しく微笑む。疲労でよく回らない頭で頷いた。


「あなたはよく頑張った。逃げてもいいのよ」

「俺は…こんなダメ息子が逃げることなんか…許されるわけ…」


 女神は笑顔で俺を見つめた。そして、そのまま光に吸い込まれる感覚があった。


 気がつくと、俺たちは広大な草原に立っていた。目の前には神秘的な森と、新鰐でtrくるような古代の城が広がっていて、空気は清々しくも不思議な感じがする。


「ここは…?」


 モモが目を大きく見開きながら言った。彼女のショートカットの髪が風になびく。


「日本ではなさそうですね…」

「まずは安全な場所を探しましょう!」

「そうですね。」


 これが、俺を大きく変えることになった異世界での冒険の始まりだった。何が待っているかは全く分からないけれど、今はあの重圧から逃れられた喜びを、疲労で現実だと捉えられない頭で感じていた。

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