第6話
血の中で、溺れる声がする
これは、確か、サトウと言ったか、入学式に何か言った気がするが、それ以降会話した記憶がない
私は、一人、声のする方を見るが、そこにいるのは、見た事のない顔だ
ただ、周りにも人がいる
しかし、その顔にも見たことがない
いや、ある、最近、いや、直ぐ、そう、今見た顔だ、それが、全ての顔に、共通している
「誰だ」
相手は、自分のことしか話さない
何を言っている
それは何だ
しかし、口から洩れる言葉は、液体に邪魔されて、上手く聞き取れない
それは何だ、何を意味している
何のことを言っているんだ
お前は誰だ
私は一人、その正体を、教えらないまま
その液体の中で、意識を失う
窒息しているのか
それとも
「おい、生きているか」
手元の携帯電話から、声が漏れる
この携帯番号に登録されている人間は少ないが、自分の付き合いの中で、まともな奴は私に電話などしない
私は電話が大っ嫌いだ
相手は続け、自分に電話しろと言って、電話を切った
私は、手短に、メールすると、家を出た
時計を見ると、私が大学に行くと、二時限目に、間に合う時刻になって居た
私はぼんやりと、机にあった食パンを、口に放り込んで、表に出る
騒がしい人の波
答えなどないが、人は川のように流される
逆に答えを出さないから人は生きていけるのであろう
私は、一人、その答えを、出さないように、問題点を除けるように
その流れの中で、大学に行くことだけを、正解に、電車に乗る
照りつける太陽は、自然の様で
この灼熱の気持ち悪い温度は、どこら辺までが、自然なんか答えを出すことはできるのであろうか
私は一人、どうしようもない、思いを、揺らすように、電車の棚を、見ていた
誰かが、なにかをおいた物もない
ただ、網目の向こうに、壁や天井の境目がある
誰かの声が聞こえるが
その途中から聞き始めたラジオが、自分の中で、意味を見出す前に、私は大学で、降りることになった
自分の所属している実験室に行くと、いつものような人間が、せわしなく作業している
それに対して、私は、その一団に、入ると、同じような事を、繰り返した
時間だけが、同じように過ぎていくが、それが惜しい
しかし、幾ら惜しくても、時間は同じだ
世の中には、それを早く行動できる人間も居るだろう
それをげに、天才と言うのかもしれないが
しかし、長い目で見れば、それは短絡的であったのかもしれない
私は、一段落落として、家路につく
今日は何もない
何もないはずなのに
何処かで、水の漏れる音がする
私はいまだに、何が悲しのであろうか
何の音であろうか
廊下から何かが垂れている
本当に、これは厳格なのだろうか
道行く人間の口から、赤い汁が垂れている
これは、現実なのだろうか
現実なのだろか
私は電車の中、駕籠を見つめている
そこだけは、なにも落ちてはこないはずなのである
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