第5話

「すぐに帰ってください

始発は五時ぐらいですから

あと四時間もあれば」

「それよりも、聞きたいことあるんだけど」

彼女はかばんから、分厚いファイルを取り出す

「私、心理分析でも、犯罪分析を、やっているんだけど

あなた、この事件で聴きたいことがあって」

あの時の記憶が思い起こされる

私は、知らないと、言いたいが、彼奴が話してしまっているし

実際に、知ってしまっている

そしてなおかつ、気持ち悪くて、弱っていたとはいえ、家になんて勝手に人を呼ぶべきではなかったのだ

「それでなんだけど」

彼女の開いたファイルに入って居る写真は、きっと世の中に出回って居るものではなく

警察関係のものであろう

それは、写真をコピーしたものであったが

床一面が、赤く写真には映って居た

「で、あの事件は、結局お土産の製造を行っていた

社員の一人が、毒を混入させたと言う事になったが

しかし、そんな事実は実際にはないし

その社員は、事故の一か月前に自殺している

つまり、体のいい理由付けで終わって居る

現に、その社員から毒物を、混入した証拠はない

ただ、問題なのは、彼は、大学でも、化学を専攻しており

薬品の入手が、他の人間より容易であった

という事実はある

でも、さっきも言った通り、その証拠はない

君は、高校時代

何部に入って居たんだい」

またあの時の続きか

それも、教師でも、刑事でもない

目の前の大人を前に、私は、ぼんやりと首を振るように

「科学部だよ」と濁す

科学部と言っても、主に、外に草木を、探し、その名前を一から十まで覚えるような部活であり

少なくとも、英単語何て、学名を調べる程度だ

それも、英語と言うべきかは謎であるが

「そうだよね、でも、君は、それを集めるようなこともないし

学校に薬品もない

それくらいに、特殊な薬品だ

でも、じゃあ、誰が、あの時あれをやろうと考えたと思う

まるで、催眠術か、ある意味、集団自決のような

そんな一致団結や規律が無ければ、そんな、一度に、お土産を、食べるとは思えない

そう考えると、君の存在は、実に謎なんだよ

どうして、そこまでの行動が出来る中で

君だけが、保健室にいたのか

君は、本当に、なにも、あの教室に異常がなかったと思うのかい

君こそが、一番の異常者だったんじゃ」

私は、黒い液体の入ったコーヒーカップを、二つテーブルに置いた

「先輩、もうそろそろ、表に、出たらどうですか」

時計は、三時を、指している

駅までゆっくり歩いても、四時を過ぎないだろう

「まだ時間はあるけど、君が、私を、この部屋から、追い出したいなら仕方がないよ

でも、最後に一つ聞きたいことがある

君は、保健室で、何をやって居たんだい」

僕は一つ

溜息をつくように、コーヒーを見つめている

「先輩、始発に遅れますよ」

彼女の去った後

あの時の記憶の乗ったファイルがまだテーブルの上に、置かれている光景が、頭に置かれている

その中身は、あの時の記憶を否応なく、鮮明にするが

まだ私の知らない、あの事件がそこにはあったのだろうか

この飲み会は、一体だれに仕込まれたことだったのであろうか

私は、ぼんやりと、カップに口をつけた

やはりあまりこの液体は好きではない

まるで、草を焦がしたような味である





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