第41話 セリアの家 x 軌道列車

部屋に案内されると荷物を下ろす。清発室が備えられていたので服を脱いで体をキレイにする。


部屋に案内してくれたユミーさんが言うにはしばらくしたら食事の準備をして呼びに来るそうだ。ついでに服もキレイにしておくか。


脱いだ衣服に清発をかける。


呼びに来る前にまだ時間があるかな。また自作の和服を着てみるか。蛇との戦いで所々ほつれているが亜空間内で直す。着れた繊維も一本一本つなぎ合わせて完全な修復をする。我ながらいいできだ。


そでを通してみるとずいぶんと久しぶりに着るような感覚になる。せいぜい四日ぶりに着るぐらいなのだが。


着心地が市販の旅装りょそうよりいいからかもしれない。もう一着作ってみようか。今度はこちらのデザインで作るか。


考えているとドアがノックされる。こちらがドアを開けて対応するとやはり食事の用意ができたとのことだ。


こちらが和服を着ていることに若干驚いていたようだがユミーさんは何事もなかったかのように案内をする。もう少し驚いてくれても良かったがメイドとしての矜持きょうじのようなものか。


食堂にやってくるとすでにセリアは席についてこちらを待っていた。俺の服装を見て感想を漏らす。


「やはりその格好の方が似合っているな。ん? 補修したのか。うまいものだ。まるで新品のように見えるな 」


目敏めざといいな。ぱっと見傷んでいる箇所なんてわからないぐらいだったのだが。女性目線だとそういうところも目につくのだろうか。ものの見方が男と女で違うのか、セリアが特別鋭いのか。


迂闊うかつなことは言えないな。なんと答えたものか。


「修繕にコツがあるんだ。秘密の方法だが 」


「そうか。それは残念だ 」


これ以上の追求は来なかったがどう思っているのだろうか。今更素性の怪しさを追求されることは無いと思うが楽観的すぎるか。最悪、魔物だとばれなければなんとかなりそうだが。とりあえず自然な感じで席に着く。


「本当はもっと手の込んだものを用意したかったんだが、いつ帰れるかわからなかったんでな。簡単なものになってしまったが我慢してくれ 」


もう夕食には少し遅い時間帯だ。御馳走ごちそうになる身としては別に贅沢ぜいたくは言えないし、正直空腹を満たせるなら何でもかまわないと思う。自分で作った熊肉の串焼きを思えばなんてことはない。


「問題ない。食べさせてもらえるだけありがたい 」


それを聞くとセリアは少し笑う。はじめて会ったときは冷たい印象もあったが最初より表情の変化が増えたように思える。


それは俺も同じか。俺がこちらの人間らしくなったと言うことなのだろうか。まあ、いいことなんだろう。


料理が運ばれてくる。コース仕立てのようで最初はスープだった。アサリのような小さな貝が入っているポタージュのようなにごっていてとろみのあるスープだ。優しい感じの甘さと塩気が体に染み渡るようだ。


次はサラダがくる。シャキシャキのレタスのような歯ごたえの葉野菜に甘味の強いトマト?が添えられている。レモンベースのドレッシングがかかっていてさっぱりと食べられる。


メインは赤身で歯ごたえのある牛のような肉のステーキにソースがかかっているものだった。何の肉か聞いてみると野生の牛の魔物を家畜化したものらしい。昔は相当な高級品だったが今ではそれなりに一般的な食材だそうだ。


一緒に食べるパンはどっしりとした小麦の味で牛肉のうまみを受け止めるに申し分ない。きっと久しぶりに帰還する主人のためにいいものを探してきていたのだろう。


最後にデザートがでてきた。アイスクリームだ。あるのか、この世界に。


、、、電気があるぐらいだから結構一般的なのか? さっき牛を家畜化したと言っていたから乳牛も育てているのだろう。食べてみると前世で食べたものと遜色そんしょくないものだった。いや、こちらの方がうまい気がする。なぜだろうな。わからんな。


食べ終わるとセリアに気になっていたことを聞いてみる。


「ここに来る途中大きな陸橋が長々と架かっていたがあれはなんだろうか? 道路のような気もしたが違うような気もする 」


「おお。アレに目を付けたか。お前なら当然か。そういえば下を通るときにずいぶんと気にしていたか 」


笑みを見せながら答える。しかし、やはりばれていたようだな。


「あれは軌道車の線路だ。鉄製の二本の骨材が等間隔で並んでいてその上を鉄製の車輪を付けたかごが走るんだ。籠の中には人がたくさんはいれる。人の移動手段として建設されたものだ 」


どうやら電車とみて間違いないようだ。だが電線がとおっていないように見えた。動力は何を使っているのだろう。


「動力にはなにを使用しているんだろうな? 」


「あまり詳しくはないが水魔術や雷魔術、気体操作系の魔術なんかを使用している場合もあるそうだ 」


やはり魔術を使用しているのか。となると自動車なんかも魔術を駆使して動かしていると考えるのが妥当か。


「地下を通っている路線もあるぞ。今日通った道にはなかったが道の脇とかに地下に下りる階段があってな。そこから下りていくと駅にたどり着くんだ。土魔術がうまい技師達が地下に穴を掘って道を通していってな。王都の中心から外側に向かって何本も開通している。将来的には地上の道は車と徒歩での移動を主にして、軌道車の輸送力を強化していく方針ではあるな。」


前世の大都市圏と同じような構想に思える。自慢げに話すセリアを見ていると対抗して前世の科学技術について言及したくなるが我慢だ。口を滑らせたら絶対に根掘り葉掘り聞かれる。


別の世界から来たって言ったら、どうする? 、、、冗談だよ。妄想癖があるんだ、で通じるかな? 無理かもしれんね。


「是非とも乗ってみたいな 」


「ああ、そうするといい 」


正直、本当に乗ってみたい。知らないものに触れるのがこんなに楽しいとはな。まるで昔の田舎から都会に初めて来た人みたいだ。歴史の教科書レベルの体験だな。


食事の終わりにセリアから俺の今後についての話があった。


「明日から狩猟ギルドで狩猟免許の取得や市民登録。それに住む家を探すこともしなければならないな。収入のめどが立つまでは部屋を借りることは出来ないだろうからそれまではこの家に泊まるといい。ただ夜の6時に城門が閉まるのでそれまでに帰ってきてくれ 」


そういうとジョエルさんに指示を出す。ジョエルさんはこちらに来ると持っていた二通の手紙と一枚の紙を差し出してくる。受け取るとセリアの説明が始まる。


「一通は狩猟ギルド当ての手紙で市民登録の際に便宜を図るように依頼する内容だ。もう一通はギルドで講習を行う教官宛だな。レインは一般的な受講者と異なるからどの程度使えるのかあらかじめ知っておいた方がいいと思ってな 」


ありがたいな。そこまで考えてくれるとは。手紙をまじまじと見つめていると残りの紙が気に掛かる。広げてみると地図が書いてあった。


「それはギルドまでの地図だ。道順も書いてある。軌道車に乗って見るのもいいだろう 」


何から何まで用意してもらって感謝の言葉もないな。これはもう依頼とやらを全力で頑張るしかないな。どういう内容かわからないが簡単なものじゃないんだろう。腕を磨いておかないとな。


「ご厚意こうい痛み入る。この恩は戦働いくさばたらきで返させてもらおう 」


この言い方がこちらの正解かわからないがここは武人風に返しておこう。戦う所存しょぞんを自分なりに示しておくのがふさわしいと思った。


「ああ、期待している 」


いい笑顔で返された。どうやら通じたようだ。もっとも言葉が通じたのか魔力の波動を読み取ったのかわからないが。便利すぎるのも大概たいがいだな。


部屋に戻ると日課のトレーニングを行い就寝する。明日からいよいよちゃんとした人間としての活動が始まるという気がする。


国に所属して仕事について住所を持つ。当たり前のことのようだがこの世界に来た当初では考えもしなかった。いいことなんじゃないだろうか。


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翌日、いつもよりゆっくりめに起床した俺はメイドのユミーさんに呼ばれて朝食を取るために食堂に行く。


セリアはおらず一人分の朝食が準備されている。どうしてかと聞くとすでに彼女は仕事に行ってしまったらしい。騎士団の仕事に穴を開けたことを多少は気にしていたとのことだ。


ユミーさん。結構おしゃべりだね


何時いつぞやの何某なにがしに言われたことを気にしてのことだろうか。もしそうならもう少し電荷を上げていれば良かった。まあそこまで他人のげんを気にする感じでもないか。


朝食を食べ終わると狩猟ギルドにいくことをジョエルさんに告げて外出する。城壁の中に軌道は通っていないので城壁の外に出る。


昨日と違い城門は開いているが勝手に出入りしていいのだろうか。呼び止められたらでいいか。とりあえず騎士の人に軽く挨拶あいさつして城門をくぐる。特に何も無かった。良かった。


城門を出たら地図を見ながら最寄りの地下軌道駅を目指す。雑居ビルみたいな建物の一階に入り口はあった。結構長い階段を下りていくと券売所と改札が見える。


多分ここで切符を買って改札で見せて乗るんだろうな


一応当たりを付けて券売所に並ぶ。俺の番が来ると地図を見せて下りる駅名を伝えて乗車券を買う。改札で切符を見せるとペンチみたいな道具で切符に切れ込みを入れる。


改札鋏かいさつばさみってやつか?歴史の教科書で見たやつだ。軽い興奮を覚えながら改札を抜けて下りのホームに立つ。


今はそこまで需要がないのかそれなりに長くて広いホームに混み合っていると言うほど人はいない。


しばらく待っているとホームに四両編成の列車が滑り込んでくる。キイイィと遠慮がちな金切り声を上げて減速し、やがて停止すると、反対側のホームにいた駅員がドアを開けて乗客を降ろす。


全員降り切ると中からドアを閉めて今度はこちら側のドアを開けてホームに降りるとドアの横に控える。


ホームから客車に移動する乗客を眺めながら列車を観察する。


四両編成ではあるが先頭と最後尾の二車両は動力車のようだ。窓とかはほとんどついていない。客車よりかなり短めの車両だ。前後から動力を伝える仕組みなのだろう。先頭車両から人が降りてきて最後尾に移る。あの人が運転手なんだろうな。


一通り見終わると俺も客車に乗る。座席はそこそこ埋まっているが立ち乗りは数えられるほど。この時間帯で下りならこんなものか。俺は車内が見渡せる位置につき出発を待つ。


やがて駅員がドアを閉めて合図を送ると軌道車はゆっくりと進み出す。音はほどんどしないな。最初はなめらかに進むが途中でくんっと加速が急に上昇するような瞬間があった。ギア比を変えたのだろうか。シフトチェンジを行う機構を備えているのかもしれない。


目的の駅に着く頃には他の乗客はほとんどいなくなっていた。狩猟ギルドはかなり郊外の付近にあるらしい。まあ、狩人に都心で暮らすイメージはかないな。


地上に上がるとそれなりに建物の密度がある場所に出た。背の高い建物は減っている。いくぶんか余裕のある区割りに緑なんかも植えられている。


そういう場所を地図を頼りに歩いて行くとかなり大きめの建物が見えてくる。


あれが狩猟者ギルド本部か、、、


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