第42話 狩猟ギルド x ファーストフード

あれが狩猟ギルド本部か、、、


中に入ってキョロキョロと見回してみる。


この国ではよくある建築様式。木と石とレンガ、漆喰などの材料を組み合わせて作られている。空間の広さは今までで一番かな。入り口から入るとすぐに広いホールになる構造で役所とか銀行とかの趣がある。人はまばらにしかいない。


正面のいくつかある受付にいきセリアに書いてもらった手紙を渡す。


「市民登録と狩猟者免許の取得にきた。紹介状があるんだがここでいいだろうか 」


異国人ムーブはもう要らないような気がするが狩人になるならこんな感じが普通なのかもしれない。今更変えにくいしな。


「確認します。少々お待ちください 」


手紙を受け取ると封筒に書かれた文字に目を通し、そのうちの一通いっつうを開けて手紙を読み出す。


封に紋章が押してあったがそれに目をやったとき驚いたようにわずかに目を見開いたのを俺は見逃さなかった。ランセス家の紋章とかなんだろうけど効果は抜群のようだ。


度々たびたび思うがセリアと知り合わなかったらどうなっていただろうな。


物思いにふけりながら目線をあちこちに移していると手紙を読み終わった受付が同僚のところに行ってもう一通の手紙を渡し何かを伝える。すると同僚はどこかに行ってしまった。受付が席に戻ると手続きが始まる。


「それでは先に市民登録から行いましょう。こちらの書類に記入をお願いします 」


一枚の紙を渡されてそれに記入していく。記入が終わると提出し、しばらくロビーの椅子で待つことになった。やがて呼び出しがかかると受付に行き一枚のカードをもらう。


「こちらがこの国の市民証です。納税者番号は今後様々な手続きで必要になりますので無くさないようお願いします。無くした場合はすみやかに最寄りの市役所か狩猟ギルドに申し出てください 」


きっちりと税金を納めるようにしよう。払わなかったらこの世界だと後が怖そうだな。セリアクラスの取り立て人が来るかもしれない。


「一年間この国で暮らして納税義務を全うし、犯罪歴が無ければ流民登録りゅうみんとうろくが可能になります 」


「流民登録?」


「狩猟者などの一部の職業に限られますが帝国系の国々であれば自由に国境を越えて仕事が出来るようになります。納税先はそれぞれの国になります 」


セリアに帝国に行ってみたいと言ったからかな? 手紙に書いてあったのかもしれない。


「流民登録しない場合、この国の選挙権が得られます。狩人は国政に興味がない方々ばかりですが実績を積んでいけば市民議員や貴族になれる機会もありますよ 」


そんなことを説明するなんて何が書いてあったんだろうな。というか君主制と思っていたけど選挙とかあるのか。貴族にもなれるってどういうことだろう?この国の仕組みが良くわからなくなってきたな。


本屋があれば一度勉強してみるのもいいかもな。お金に余裕ができてからの話だが。


さらにロビーで待つように言われて待っているとさっき出て行った同僚の人が戻ってくる。だいぶいかついおっさんを連れている。魔力は結構高そうだな。あの人が狩猟免許を取るための試験管とかかな?


名前を呼ばれて行ってみるとあの厳ついおっさんを紹介された。


「お前がレインか。俺が指導教官になるオードだ。紹介状は読ませてもらった。ある程度事情は知っている。今日からひと月ほどの付き合いになるだろう。よろしく」


指導教官か。俺の先生になるらしい。ちゃんとした態度を取った方がいいのだろうか?


「レインです。よろしくお願いします 」


頭を下げながらこたえる。自然と日本式のおじぎが出てしまった。オードさんは面食らったように止めに入る。


「そういうのはやめてくれ。狩人同士は対等であるべしってのがギルドとしての流儀でな。相手が王族だったらしっかりかしこまった対応をすべきだと思うがな 」


王族以外ならぞんざいな対応でもいいんだろうか。貴族であるセリアのこともあるから今更か。相手の反応を見て変えていくしかないか。


「わかった。よろしく頼む 」


オードさんについて行くとギルド内にある修練場に来た。かなり広めの空間で床は柔らかめの土がむき出しになっている。土はしっかりとならされていて足跡一つついていない。


先に部屋にはいったオードさんは土魔術で足跡を消しながら部屋の中心に歩いて行く。俺も同じように足跡を消しながら歩いて行く。


修練場の中程に来ると停止してこちらを向く。


「足跡を消すのは問題なく出来るようだな 」


俺が歩いた軌跡をたどるように見て評価を下す。


「だが魔力の痕跡こんせきを消すことまでは気が回っていないようだな 」


魔力の痕跡とはなんぞや。疑問に思っていると指示が飛んでくる。


「魔力視を使って注意深く俺とお前の足跡を見てみろ 」


言われたとおりに見てみる。最初は良くわからなかったが魔力視を強めたり弱めたりしながらあれこれやってみるとなんとなく見えてくるものがあった。俺の足跡はうっすらぼんやりと光って見えるがオードさんの足跡はなんの痕跡も見えない。


「見えたみたいだな。狩人には土に込めた魔力を回収して痕跡を消す技術が求められる。これを隠密歩行おんみつほこうとか隠蔽歩行いんぺいほこうと言ったりする。今日はこれをみっちりと練習してもらう 」


俺は軽く叩首こうしゅして応える。


「了解した 」


早速練習を行うがなかなか難しいな。ゆっくりやって魔力をしっかり回収しようとすると足跡が残ってしまう。すばやくやろうとすると足跡も魔力痕跡も残ってしまう。


込める魔力を大きくしてみるが足跡はつかなくても魔力痕跡が強く残る。ならばと魔力をできるだけ小さくしてみるが今度は足跡がうっすらと残ってしまった。悪戦苦闘している俺にオードさんが講義を行う。


「狩りを行う際に相手よりも先に自分が相手を発見できれば有利な条件で戦うことが出来る。これができなければ狩る側から狩られる側に回ることもあり得る。狩人には必須の技術だ 」


思えば森で狩人に囲まれたとき魔力痕跡だけでなくいろいろと残してしまっていた。向こうにしてみれば俺はさぞや簡単な相手にうつっていたことだろう。


「力の差が大きい場合こちらを認識するとすぐに隠れる魔物もいる。ウサギなんかの草食の魔物がそういう傾向にある。ウサギ一匹狩るにしても基本的な技術は身につけた方がいい 」


そう言うとオードさんはまた歩き方を見せてくれる。今度は魔力視を注意深く駆使くしして魔力の流れを追おうとするが反応が弱すぎていまいちわからないな。うますぎだろ。


「こういう感じか?」


見よう見まねでやってみるがうまくいかない。


「もう少し抑えてやってみせるか。見ていてくれ 」


見かねたのか見やすいように若干精度を落としてやってくれた。なるほど、そうやっているのか。つま先から入りつま先から出る。魔力をつま先からだしつま先から戻す。それをなめらかに行う。やり方はわかったが実践はそう簡単じゃないな。


「なるほど、こうか 」


同じように出来るようにきっちりやり方をなぞろうとしながらやってみる。たしかにだいぶ改善された感触がある。


「うまいじゃないか。その調子だ 」


やはりこれでいいらしい。コツがわかってきたのでそれを方針に定めて練習する。


「実際は俺がやって見せたほどうまく出来るなんてことはない。俺がこれだけ出来るのはここで教えている期間が長いからだ。ここの土の性質を熟知しているからここまで出来るんだ。はじめての狩り場では土の性質が異なるからな。うまくやるには慣れが必要になってくる。そこで生活している魔物は環境を熟知しているからな。総じて魔物の方が感覚器が人間より優れているのもあるが俺たちよりよほどうまく隠密行動がとれる。どんな魔物でもあなどらずに生態を詳しく調べる。周辺の地形や環境を把握はあくする。狩人であれば熟練から初心者までやっていることだ。熟練の狩人ほど狩り場を変えたがらないのはそれが理由だな。狩り場の生態系や環境が変わると予測がつかないことが起きるからな。熟知している狩り場ならこまかな変化にも気付ける可能性が上がるしな 」


なるほど決して力押しだけでは生き残れない世界ということか。まずは基本をしっかりと身につけなければ。この機会に目の前の厳ついおっさんから学べるだけ学ばなければ。今はとにかく隠密歩行を練習するか。


どれだけ練習しただろうか。空腹を感じるようになる頃にはだいぶ上達できた。自分の足跡を魔力視で確認するがぱっと見ではわからないぐらいには薄まっている。


「ずいぶんとうまくなったな。正直この短時間でここまで上達するとは思わなかったぞ 」


「オードが教えてくれたお陰だ。感謝する 」


「お前の才能があってのものだ。手紙を読んだときは半信半疑だったが本当に優秀なんだな 」


手紙か、、、。何が書いてあったんだろうな。あまり買いかぶられていると怖いな。


「この後はどうするんだ?」


「今日はこれで終わりだ。悪いが俺もこれ以外に仕事があるんでな。明日からの訓練も午前中だけになる。何日かかるかはわからないがこの調子ならここでの訓練は終了まで一週間もかからないだろう。訓練と実習が終われば免許の交付と組合の入会手続きに進める。お前ならそう難しくないだろうがな。ま、気楽にやっていこう。明日からは9時半ぐらいにここにくればいい。それと自分が普段使っている武器を持ってきてくれ 」


ここにきてフレンドリーさを出してきた。講師の立場がなければこれが素なのかもしれない。


ふと気になったことがあったので聞いてみる。


「そういえば他の受講者がいないが俺ひとりだけのためにやってくれているのか?」


「ああ~、それなんだが普段は王都周辺の村々から農閑期のうかんきにやってくる新成人を対象に行うものなんだ 」


「そうか。それは手間をかけるな 」


「別にいいってことよ。優秀な狩人は何人いたって足りるモンじゃない。お前さんにはこっちも期待しているんだ。お互い様ってやつだ。それに、普通、講習だけでも一か月以上かけてやるもんだ。そのためにこの施設は宿泊もできるしな。ギルドとしてはそこまで手間ってわけじゃない。、、、っと。そろそろ昼飯を食わないとな 」


「なんにせよ俺にとってはありがたいことだ。ではまた明日よろしく頼む 」


「おう。また明日な 」


ギルドを出て昼食を取るためにレストランを探す。ギルドの周辺を少し歩いてみるがここら辺は飲食店はなさそうだ。ギルドで聞いておけば良かったな。


仕方がないので朝に乗った地下軌道に乗ってみる。途中にある駅から栄えていそうな名前の駅を選びそこで降りてみる。


駅周辺はそうでもなかったが人通りが多そうな気配の方向に歩いて行くと大通りにあたった。魔力感知って便利だな。


大通りを少し歩くとオープンカフェのような店を発見する。こういう形式が流行っているのだろうか。今までの町にも結構な頻度であった気がする。


もともとは王都で流行ったものが徐々に伝播していったと言うことだろうか。発祥はここ王都かな?


特に他に候補はないのでこの店に決める。やはりお昼時は混み合うようだ。流石人口の多い王都だ。そこそこ長い列の最後尾に並び順番を待つ。


王都は忙しい町なのだろうか? 列は思いのほか速くはけていく。


あまりゆっくりと食べる人はいないのだろうか。と、思ったがやや違うようだ。


この店は前世であったファーストフード店のような仕組みになっている。複数有るカウンターで注文して出来たものを受け取り席に運んで食べている。持ち帰りもやっているようだ。


半数ぐらいは持ち帰りで注文している。飲み物はどうするのだろうと思ってみていたら、注文した人が持参した容器を店員に渡している。あれに飲み物を入れてもらうらしい。プラスチックはこの世界では普及していないようだ。


他の町ではテイクアウトはあまり見なかったように思う。王都特有の事情でもあるのだろうか?


俺の番が来るとカウンターの前に移動し設置されているメニューをながめる。


一番人気やおすすめはメニューの上の方に大きめに表示されている。一応絵が描いてあってどういう感じの料理なのかはわかる。メニューの名前も実物を予想する手がかりにはなるのだが細かい食材や味付けなんかは手がかりがなさ過ぎる。


結局一番左上に大きく書かれたメニューとコーヒーに似た飲み物であるギートを注文した。店員からここで食べるか持ち帰るかと聞かれたのでここで食べると伝えると会計に席料が加算された。


それなりの金額だな。だから持ち帰りの客も多いのか。王都は土地が高いのだろう。それに見合った金額を取らなければやっていけないと言うことか。


それほど待つことなくトレーに並べられた料理を受け取ると空いている席を探してそこに座る。ひとり用の席も結構あるものだ。


トレーの上を見る。木の皮を編んだようなバスケットの上に紙が敷かれ、そこにホットドッグのようなパンに切れ込みを入れて棒状の肉を挟んだものが置かれていた。焼けた肉のいいにおいがただよってくる。


一緒についてきたおしぼりを使って手を拭く。パンを両手で持って端からかぶりつく。パンはバゲットのような表面が固めのパンであった。バゲットよりか幾分が柔らかいか。それでも噛みちぎるのに少し力が要る。


一緒にかみ切った肉と一緒にパンを噛みしめると肉がほろほろと崩れていく。この肉はハンバーグのようにいた肉を棒状にして焼いたものらしい。粗挽きの肉に味付けはシンプルに塩こしょうだけ。それにうっすらとソースがかかっている。


構成はハンバーガーと変わらない感じだな。更に噛みしめていくとパンの皮と肉、ソースと肉汁が合わさったものとパンの柔らかい生地が混ざり合って口の中で味の一体感が増していく。


それを飲み下すとコーヒーを一口のみ口の中をリセットしてサラダを食べる。その順で食べ進めていき完食と相成あいなった。


全部で2000エスクか。王都の中心と言っていい立地だろう。ここら辺の物価は土地代も含めやや高いと言ったところか。トレーを戻すと店を出る。


このあとは周辺を探索して本屋とか雑貨屋なんかを探しながら散策していく。そして日が暮れる前にセリアの家に戻った。

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