第14話 水を統べるもの Ⅹ 決着
攻撃を避けながら思考を巡らせているとふと思った。これだけの威力の水弾を出すには発射場所の近くに魔石があるのではないかと。それならばいい加減焦れてきたので反則くさい手を使うことにしよう。
アルミニウムを採取するために掘り返した数十トンの土。これの水分をすべて抜いてカラッカラの砂にする。そこに亜空間内で魔力を込めて準備を整える。
敵が放つ水弾が地面に当たり、それが
空中で手のひらから触手を伸ばして相手の首元に巻き付かせ引っ張る。振り子のような軌道で相手の体を支えている根元の上に着地する。
すぐさま足元の水塊に向けて砂を放出していく。その先には水をくみ上げている接地点がある。10トン以上の砂が周辺一帯に飛び散っていく。砂を放出しながらも魔力を追加で浸透させて威力を増強する。
砂に触れた部分の体は分解され砂に吸収されていく。鎌首をもたげていた部分も下から徐々に分解されバランスを崩して地面に倒れそうになっている。
倒れる前に位置を予測して砂をまいておく。
水の柱は砂の上に倒れ込み接触部からどんどん分解されていく。
亜空間から“白剛鬼”を取りだし魔力を込めてたたきつけると首側に向かって水を切り飛ばしていく。
このまま小さくしていって核を探り当ててやろう。そう考えて大太刀を振るっていると小さくなっていく体から何かが飛び出す。それと同時に残りの部分が崩壊していく。
飛び出ていったのが本体か。刀をしまって後を追う。
かなりのスピードで追いかけていると思うのだが追いつけない。バレーボール大の球が細い水の触手を足にして駆けたり、伸ばして木の枝に巻き付けて引っ張って飛んだりと変則的な動きで
逃がしてなるものかと後を追っていく。しばらく追跡しているとふと違和感を覚える。
今まで戦ってきた相手で自分から逃げたヤツがいただろうか?
相手の様子を改めてうかがうと攻撃的な魔力の波動はまだまだ健在だった。逃げているわけではない、とするとヤツの狙いは自分の有利な場所に誘い込んでいるということか。
そうはさせまいとスピードを上げるがスライムの方もそれに気づいてスピードをさらに上げる。まだスピードを上げられるのかよ。
そうこうするうちに水の流れる音が聞こえてきた。これが狙いか。俺はこれから始まる更にハードな戦いを予見して一層気を引き締めた。
川はそれなりに幅のある川だった。向こう岸まで7メートル程か。向こう岸は切り立った崖になっていて、手前側は石だらけの河原となっている。
今までもそうだったが地の利は完全に向こうにある。スライムの本体が川の中に飛び込む。俺はやつが川の中から攻撃してくるのを警戒していたがしばらく何も起こらなかった。
、、、まさか逃げたんじゃないだろうな
と思っていたら一帯の川面が波打ちながらせりあがってきた。巨大なアメーバ状の体になって戻ってきた。出し惜しみなしってことか。
この巨体を維持するだけでも結構な魔力を消費するはずだ。さっさとケリをつけようという
アメーバは俺を囲うように広がっていく。全方位から囲って押し潰す気か。
スライムはこの戦法によほど自信があるのか、それともそれだけ余裕がないのか核の位置は固定されたままである。
魔力視でダミー魔石かどうか解析しておいたがフェイクを使っている感じもない。相手が真正面から来るならこちらもそれに答えよう。下手に逃げの姿勢を取られるよりもずっといい。川に逃げられたらこちらでは追いかける
俺は亜空間から砂を取り出して体に
バンッ!と硬いものにボールをぶつけるような音が鳴る。スライムの体は想像よりはるかに硬かった。限界まで魔力を込めて圧縮して固くしているようだ。
それならば核の位置を変えたりダミーを作成するのは無理か。水の壁に半分ほどめり込んだがそこで止まってしまっている。固められた水は魔力を込めた砂でも分解できないようだ。
それならばと俺は自身の体にまとった砂を魔力で操作してねじのような構造に変化させる。ねじ山の部分を回転させて木ねじが板に入っていくようにゆっくりとだが突き進んでいく。
ねじ山の刃の部分が水を固める魔力構成を粉砕してただの水に戻していく。気分はまるで砕氷船ガリンコ号だ。前に記録映像で見たことがある。
焦ったのかスライムはさらに魔力出力を上げてくる。水が圧力をかけてきて鎧がきしみ、めきめきと音を立てる。体や砂が圧縮されて動かしづらくなってくる。
しかし、俺はそれに対抗するように魔力出力を上げてねじの回転を維持する。
さらに時折ねじの形状に変化をつけて相手の抵抗を邪魔する。魔石の反応は徐々に近くなっていく。確実に奥へと進んでいく。
近づかれて相手も危機を感じたのか圧力を増大させていく。ミシミシと音を立てて鎧がへこんだりしてきた。まあ後で直せばいい。
なかなか進めなくなったが十分に近づけた。ねじの回転を止めて全身に雷の魔力を
限界まで威力を高めた後、砂を亜空間にしまうのと同時に一気に開放する。
―
全身から放出された電撃は相手の魔力を押しのけて放射状に広がる。水を電気分解して水素と酸素が生じ引火する。
スライムは体内から膨張し膨らんだ餅のようになる。電撃はスライムの魔石にも届いたようですべての魔力構成が失われたようだ。
水は形を失って地面に流れていく。爆発の中心にいた俺はそのまま地面に落下する。落下しながら喉元にコアを出してスライムの核の位置を探っている。
同時に手には“雷閃”を握り魔力を込めている。
見つけた!
スライムの核は太陽光を反射してきらめきながら落下してくる。俺の手前に落ちてくる軌道だ。
先ほどの電撃ですでに決着はついているかもしれないが見た目じゃわからんのでダメ押しの一手を放つ。
―
突き出された刀の切っ先から電子の短槍が核に向かって一直線に飛んでいく。スライムの魔石と衝突すると雷がまとわりつき周囲に放電を始める。
衝撃で落下軌道が変わり俺の真上に落ちてくるとそれを右手でつかみ取る。
手のひらのそれをまじまじとみるがビー玉を二回り大きくしたぐらいのサイズだ。こんなものであれだけの魔力を放っていたのかと驚嘆する。
死んだかどうかわかりづらいので判断に困るが水を与えるとまた復活しそうな感じがする。もう少しこのまま見ていたい気持ちもあるが亜空間にしまいこんだ。
だいぶ魔力を消費した。残量を確認すると、
現在魔力/最大魔力 242/4762
結構やばいな。急いで森の中に入り穴の中に隠れる。
今までにないような魔石を手に入れてだいぶわくわくしている。例によって魔力を回復しながら分析を行うことにしよう。
亜空間内でスライムの魔石を改めて見てみる。形はきれいな球をしている。
うっすら水色に透き通った球は内部に星のようなきらめきがいくつも見える。それがゆっくりと移動する様はとてもきれいだ。前世に動画で見たダイヤモンドよりきれいだと思う。この光になんの意味があるのかはわからないが。
魔力量を鑑定してみる。
現在魔力/最大魔力 892/20405
、、、やたらと大きいな。苦戦はしたがここまで魔力量が大きいとは思わなかったな。魔力量がすべてではないと言うことか。うすうすわかってはいたことだがこうしてみると良くわかる。
膨大な魔力量で水を体として維持していたと言うことなのだろう。他の生物と根本から異なる存在なのか。魔石の情報を解析してみると本当に魔石以外の存在を持たないらしい。タンパク質的なものも少しはあるかと思ったのだが。
、、、俺と似ているな。偶然だとは思うが。この世界には他にもこんなのがいるのだろうか? 、、、まあいるんだろうな。
今思えば俺を襲ってきた人間はあきらかに俺みたいな存在と戦うことを想定していた感じだったな。思い出したらちょっとイライラしてきた。まあいい。
魔力の吸収や魔法の解析を行おう。
現在魔力/最大魔力 1639/7527
最大魔力はだいぶ上がった。水の魔法も覚えることができた。驚いたことに水の魔法は本当に水にのみ干渉する魔法らしい。H₂Oのみに作用する魔法。精密に制御できれば純水を簡単に作れそうだな。
だが水に性質が異なるものを混ぜると途端に制御が難しくなるようだ。例えば土や砂とかな。
こまかく魔法を解析できたことで魔力の働きがより細かく理解できるようになった。
雷魔法や土魔法について改めて解析すればより高度に魔法を使うことができるようになるかもしれない。
解析してみた結果、雷魔法は電子のみを対象とした魔法らしい。ただ金属などの自由電子には干渉しやすいが束縛電子には干渉しづらいらしい。物質の状態によっても変わるようだがそれ以上はわからなかった。
土魔法については解析しても良くわからん。いろんな物質が混ざっているからだろうか。一番初期から使っているはずなんだが。
次はボディの修繕をしよう。鎧の部分はべこべこに変形して亀裂が至る所に入っている。表面は砂で削れてざらざらになっている。それは自分のせいだが。鎧はすぐに元通りに修復できる。亜空間なら可能だ。
修繕はすぐに終わった。今度は新たな兵装を開発してみようと思う。ネズミの魔石を一つ使ってみる。
魔石に含まれた情報を削除して雷魔法の情報のみを書き込む。そこに雷の性質を帯びた魔力を詰め込めるだけ詰め込む。
通常なら外部に魔力が漏れ出そうなものだが亜空間内であればそれが可能だ。魔石自体魔力の結晶のようなものだろうがさらにその内部で結晶化を試みる。
一応、安定化はできたみたいだがよくわからんね。
次に兜の形状を変更して頭頂部よりやや後ろ目にポニーテールのような飾りをつける。カルシウムを
うまくいけば魔石を爆弾のように使えると思うが果たして、、、? 有効性があればいいんだがこればかりは試してみなければわからないだろう。
もう特にやることもなくなったので意識を切って魔力の回復を待つことにした。
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