第13話 Ⅹ水を統べるもの

何からすべきかと考えるがやはりイノシシの魔石が気になる。土に魔力を浸透させ扱う技術は俺よりも上だった。この魔石を解析すれば土の扱いが上達するかもしれない。


身体を維持するための魔力消費を抑えたり、身体の動きを良くしたり、土を利用した変則的な攻撃が可能になるだろう。魔石の解析、情報の複製、取り込みが完了した。


魔力を吸収して自身の魔力量をチェック。


現在魔力/最大魔力 2142/4031


結構上がってきたな。ついでにイノシシの魔石もチェック。


現在魔力/最大魔力 0/2244


牡鹿より上か。魔力量がそのまま強さになるというわけではないだろうが一対一ならイノシシの方が上かな。二対一なら鹿が圧勝するだろうが。


今回、イノシシ相手に手こずったのは雷魔法が想定よりうまく使えていないことが一つの原因だったと思う。魔力効率が悪くて消耗が激しい。威力も思ったより出てない。二体分の情報量で魔力を制御しているはずなんだが。


魔石による魔力制御だけではなく脳でも何らかの処理をしていると言うことか?


あのつのの効果もありそうだが良くはわからない。あの二匹だったらイノシシをすぐに穴だらけにできそうな気がする。もっとうまいやり方があるのだろう。まだまだ分からないことが多いな。今のところ練習するしかないか。


考えてもしょうがないので次にいくか。


今回は“大白鬼”は使用しなかった。イノシシの頭蓋骨をぶった切れるとは思えなかったからだ。今後、イノシシよりも堅いような相手と戦うときはこのままの性能では無用の長物になってしまう。


一度にあつかう魔力量が大きいほど威力が出るような気がするが、魔力で強化しようにもめられる魔力の最大量は物体の総量に依存いぞんする面があるように思う。


ある程度まで入るとそれ以上はめにくくなるというか抵抗が増えていく感じだ。幸いイノシシは牙も骨も豊富にある。なるべく大きく作りたい。ここらで大幅に改修してみよう。


コアの機能を使用して構造計算してみる。全体的なシルエットは円錐形をゆがめたような、途中で根元に行くほどに太くなるような構造。かなり肉厚な刀身になった。


堅い部分と柔らかい部分をり交ぜて縦方向の応力に対して特に強い構造にした。側面からの応力に対してはあまり考えない。縦の振り下ろしでしか使わない予定だ。完成品はかなりの重さになったが亜空間のおかげで重さのデメリットも軽減できる。


戦闘のたびに思っていたが亜空間殺法は使い方によっては反則的な効果を発揮するだろう。そうだ、新たな銘をつけることにしよう。コンセプトは変更していないので一字変えの牙刀ガトウ白剛鬼ハクゴウキと銘打とう。


後はボディの修復ぐらいか。今回は過去一損傷が少ない。あまり手間をかけずに修復は完了。やることもなくなったので意識を閉じて魔力の回復と次の日の夜明けを待つ。


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あれから数日、森の中をさまよっているが特筆とくひつすべきことは起こっていない。おりを見て魔法の練習をしているが魔力に引き寄せられるのか途中で動物が寄ってくる気配がするので中断してやり過ごす羽目になる。


向こうから襲ってくるとはいえあんまり生き物を殺しまくるのも気が引ける。時間を潰すのが今の第一目標だ。戦闘は必要以上にはやらないようにしよう。


あれこれ考えながら進んでいくと川を発見した。川と言っても小川と言うような川よりもなお小さい弱々しい流れだ。地面が裂けたような場所にちょろちょろと流れている。


流れは途中から始まり途中で終わっている。ここらには地下水が流れているのだろうか。流れの上流に向かって歩いて行ってみるか。


しばらく進むと前方から変わった魔力波を感じた。慎重に進んでいくとなにやら妙なものが見える。スライムというヤツだろうか。


粘性があるような水の固まりがふわふわぬたぬたとうごめきながらこちらと同じく上流方面へ移動している。興味を引かれた俺はしばらくスライムを観察するために後をつけてみることにした。


この世界の生き物は今のところ前世の生き物とそこまで変わらない姿形をしている。ならば目の前の生き物はアメーバが魔石によって巨大化したものだろうか? それにしては大き過ぎるような気がしないでもないが。


平べったい楕円形で中央に行くにつれ厚く盛り上がっているような形をしている。楕円のふちの部分が波打つように動いてゆっくりと進んでいく。地形に合わせて形を変えていく様はウミウシのようにも見える。距離を取って後に続く。


最初は動く様が面白かったり可愛かったりいつまでも見ていられると思っていた。しかし遅い。動きが遅いのだ。おまけに途中で何かを食べるとか行った行動をするわけでもなくひたすらにゆっくり移動するだけ。


このままついていくのも飽きたな。もう少し近づいて観察しよう。今の距離は20メートルぐらい。15メートル、10メートルと徐々に近づいていく。


近づけばその分細かいところまではっきりと見える。中央の厚くなっているところの内部にうっすらと丸い結晶のようなものが見える。色は透明に近いのか周囲の体に溶け込んで結構見づらい。


ようく目を凝らすと結晶の中にキラキラと光のようなものが動きながら瞬いている。


きれいだな


もう少し近づいてみるかと足を踏み出していくとぐにっと柔らかいものを踏んだような感触があった。よく見ると透明なシート状のものが地面を覆うようにスライムから伸びている。


これがスライムの索敵方法なのか。透明シートはスライム本体に吸い込まれるように戻っていき威圧的な魔力が周囲に放出される。うかつだったか。戦闘は避けられそうにないな。


スライムは球状に丸まった後、ホースぐらいの太さの触手を十本以上生やす。そのうち数本で体を支えて、こちらに向かって威嚇するように触手を放射状に広げた。


、、、なんかグロいな


先手は向こうからだった。十本以上ある触手を鞭のようにしならせてないでくる。かわした触手が木の幹に当たると乾いた音を立てて表面が割れる。結構な威力だ。


一発や二発ならたいしたことはないが何度も食らうとまずいか。それよりもやっかいなのは、、、。


よけた触手が木の幹に当たるとそのまま巻き付いて締め上げる。めきめきばきばきと音を立てて幹は破片をまき散らしながら割れていき、やがて折れて倒れる。


巻き付かれたらただでは済まなそう。触手が木を締め上げている間は攻撃の手数が減るがほかにも触手はたくさんある。絶え間なくぎ払いが来る。薙ぎ払いの隙間すきまって触手による突きが飛んで来た。よけるのが精一杯だ。


というか触手、増えてないか?


本体の方を確認すると何本かの触手が地面に刺さっている。


地下水をくみ上げているのか?


このスライム。完全に水でできているらしい。水を魔力でまとめ上げて動かす。これだけの量の水となると魔力消費も多くなるはずだが大丈夫なのか?


なんて考えていると後ろから触手が迫ってくる気配を感じる。


迂回うかいして回り込ませていた?


どうやらそれなりに知能があるようだ。前から来る触手をかわしながら後方からの攻撃を避けるために前方に向かって避ける。すると着地点周辺の地面から触手が飛び出してくる。


俺を中心に囲むように4本。避けきれずに巻き付かれてしまう。他の触手も次々に巻き付こうと迫ってくる。


まずいな、、、。アレを使うか。


俺は全身に雷の魔力をみなぎらせる。


纏雷てんらい


鎧の至る所から雷撃が飛び周辺にある触手を分解し吹き飛ばす。威力は高いが燃費が悪い。かなりの魔力と引き換えにあたりを一掃し本体への射線が通る。


触手には触手とばかりに一直線に魔石に向かって手のひらから牙触手を伸ばす。予想より抵抗がなく水で構成された体を貫いていく。


先端のナイフが相手の魔石に当たる。


カシャンッ。そんな乾いた音を立てて魔石が砕ける。


なにっ⁉


砕けるとは思わなかった。魔石はかなり堅い。“白剛鬼”で全力でたたいても砕ける自信はない。スライムの魔石は特殊なのか? と思っていたら砕けた魔石の破片は溶けてなくなった。


スライムの体はまだ維持されている。その透明な体の中に球状の魔石がいくつも浮き出てくる。


、、、ダミーってことね。面倒な相手だな


だがダミーを用意するってことは魔石を攻撃されるのが嫌だってことだ。普通の生き物とあまりにも違うのでどう倒せばいいのかわからなかったがどうやら魔石を攻撃するでいいらしい。それがわかっただけでも良しとしよう。


スライムは纏雷を警戒しているのか今は触手で攻撃をしてこない。アレは何回も使える魔法じゃないのでそれはそれで好都合だ。


しかしながら、スライムはこの見た目で結構な知能があり慎重さも持ち合わせているのではないだろうか。現にこちらの出方をうかがいながら戦術をねっているような気配がする。にらみ合っているとまたスライムから動き出した。


また触手での攻撃。今度は一本だけ。しかし太さが段違いだ。直径50センチメートルぐらいか。ずっと地下水からくみ上げて溜めていたようだ。大質量で攻めるという魂胆らしい。


上段からの振り下ろしが迫ってくる。


ズズンッ!と地響きのような音を立てて地面が爆発する。食らえばかなりのダメージを受けるだろう。スピードはかなりのものだが単調な攻撃だ。横薙ぎにはらってくるが飛んで躱す。


躱しながらこちらも触手で魔石を狙うが魔石に当ててもパリンと砕け、また新しいダミーが生まれる。


これもなんとかしないとな。などと考えていると触手の動きに変化があった。これまでの単調な動きから蛇がのたうつような変則的な動きに変わってきた。


こちらの動きを学習しているのか? 戦い方を試しているのか? 格段にけづらくなった触手攻撃を何とか躱すがきつくなってきたので一旦距離を取ろうと回れ右して走り出す。触手は俺の後を追ってくる。


びたんびたんと地面や木に当たりながらそれでいて勢いを殺さずにこちらを捕えようとする。俺は木の間をうように移動しながら躱していく。触手はその後を追尾するように木々の間をついてくる。


どこまで伸びるかわからないが魔力で制御している以上は連続性がなければならない。木を透過して追いかけてくるなんて細かな制御ができるとも思えない。


俺は追いつかれないことだけ気にしながら迂回するように移動して触手を生み出している根元に近づいていく。相変わらず地下水をくみ上げている様子が見える。


せっかくだ。土魔法を試してみるとしよう。イノシシの魔石から情報を吸い上げていろいろ出来るようになった。今こそその時。


後ろを追いかける水の大触手を引き離すため急加速してぶっちぎる。スライムの根元部分に接近しつつ間合いを測る。十分に接近してから魔力を足の裏に込めて地面をどんと踏みしめる。


土耕爆砕どこうばくさい


地中を土の魔力が走りスライムの本体に向かっていく。スライムの直下に到達すると周囲の地面が勢いよく盛り上がり爆発する。魔力を帯びた土はスライムの体と交わり水に込められた魔力構成を分解していく。


威力はそこまで高くないが水を魔力でまとめ上げて体を作っているなら効果は高いはず。俺の土の魔力が水に含まれる魔力構成を乱してただの水に変化していく。スライムの体は水しぶきを上げて崩れ、ダミー魔石も溶けて消えていく。


本物の魔石はどこだと探す。ないな。巨大な水の触手が形を保ち未だにこちらを追いかけているのが背中越しに感じられる。どうやら魔石は触手内に移していたらしい。


このまま追いかけっこを続けるのも時間の無駄なので相手と正対する。再び足の裏に土の魔力を込めて踏みしめる。


―土隆壁!


水の蛇と化したスライムの正面に土の壁が現れる。水蛇は土壁にぶち当たり壁は砕けるが蛇の頭の部分は魔力を帯びた土と交わりドロドロと崩れていく。


進行は止まり、水蛇はその場で鎌首を持ち上げて天をつくような体勢を取る。


そして、頭の先端から巨大な水弾を放ってくる。それを横に飛んで避ける。


元いた場所に正確に当たった水弾は勢いよくはじけると地面をはじけさせ周囲に高圧の水飛沫みずしぶきを発生させる。


その余波をくらい数メートル吹き飛ばされる。空中で回転して姿勢を整え、足から着地する。着地の瞬間に地面に魔力を流して衝撃を吸収し次弾に備えた体勢をつくる。


くそっ!


想像以上の威力だ。大量の水にかなりの魔力を込めて飛距離があっても威力を保てるようにしている。おまけに高い位置から放たれる位置エネルギーも利用しているな。これはそうとう余裕を持って避けなければ体勢を崩されて一気に詰められる。


俺は間髪入れずに飛んでくる次弾を足に結構な魔力を込めて避ける。土魔法を使い摩擦や足場の形状までいじって躱していく。


躱しながら接近しようとするが地面に近い胴体部分から細い触手を伸ばして牽制してくる。


躱してはいるが水蛇は水弾をかなりの速さで繰り出している。このままでは一面がぬかるんで戦闘に支障が出てくるだろう。


水は地下水からくみ出しているようでさっきから大量の水を消費しているはずなのに一向に大きさが変わらない。


膨大な魔力を消費しているはずだが節約に走ったりもしないようだ。その膨大な魔力の根源である魔石の場所を把握しなければ有効な攻撃はできない。


魔力視で探しているが水全体から高濃度の魔力が見えて判別は困難。


こいつの核はどこだ?

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