第12話 X 土を操るもの
魔力回復を待ちながらとりあえず身体の修復をしよう。まず骨格を確認する。
ひびや割れがある部分を修復。大きな損傷は左腕部だな。雷で吹き飛ばされ骨格がなくなっている。鹿の遺体からカルシウムを抜いて再建する。これで骨格は修復完了。
次は土製の肉の部分に取りかかる。雷を浴びて所々陶器の破片のように固まっている。魔力消費が多くなり身体を動かし辛くなる原因になりかねない。固まった部分を取り除き減った分、新しい土を足す。
最後に甲冑の修復を行う。しかし、元通りにはできない。アルミニウムに余分はない。吹き飛ばされた左腕の分が特に重い。
しょうがないので頭部や前腕部、胸部などの必要部分以外から削って補うとしよう。見た目は多少変わってしまったが性能に大差はないはずだ。よしとしよう。
次は鹿の魔石を分析してみようと思う。魔力鑑定の結果は以下の通り。
牡鹿 現在魔力/最大魔力 532/1877
牝鹿 現在魔力/最大魔力 369/1357
この魔石を分解吸収すれば魔力上昇や魔法の習得ができるかもしれない。そう思うとわくわくしてくる。しかし、この魔石はサンプルとして取っておきたいという気持ちもある。どうしたものかと魔石をより精密に分析する。
すると魔石の中の情報を解析して複製し、コアに取り込むことで魔石を潰さずにコアの性能を上げ、さらには魔法現象まで再現できるということがわかった。
早速、魔石の情報をコアに吸い出していく。どうやら
二つを組み合わせれば高出力、高効率、高精密な雷撃を放つことができるようになるかもしれない。吸い出しが完了して最適化を行った後、コアに書き込んでいく。
現在魔力/最大魔力 703/3420
だいぶ性能が向上してきた。数値に置き換えると実感も
雷魔法を使う上で参考になるのがあの鹿の角の構造だろう。“大白鬼”や“銀翅”のようなカルシウムベースだと電流の通りが悪い。角の構造を解析して反映させた新しい刀を作っていこう。
刀身から
途中で鉄が足りなくなったのでなにかないかと探したら鹿の死体に結構な量の鉄分が含まれていることに気がついた。死体から鉄分を抜いていく作業は自分がまるで吸血鬼にでもなったような気分にさせてくれたがなんとか鉄が足りる。
完成したのは刃渡り60センチメートルの直刀。
これで“銀翅”と一緒に使用して二刀流ができる。実際には二刀流の運用は難しいだろうけど。ふと他の動物にも鉄分は含まれているだろうことに気づき、ウサギやオオカミの死体を調べてみるが鹿に比べて量が圧倒的に少なかったのでそのままにした。
メイン武器ができたのでいつぞや作ったボーラのようなサブウエポンを作ろうかと思ったが魔力で強化しなければ素材が優秀でない限り有効性が低くなるのでやめた。
よく知っている相手なら有効性を検討できるが初見の相手は何をしてくるかわからない。この世界では特にそうだ。おとなしく魔力回復を待って意識を切っておこう。
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夜が明けると土の中から抜け出し森の奥へと歩き出す。人間達がどのくらいの期間、こちらを探すのかはわからない。少なく見積もって一週間としても確実を
今後の予定としてはコアの性能を上げる、ほとぼりが冷めたら人間がいる場所に行く、といったところか。まだ人間に溶け込む算段はついていないが適当な動物に
そうこう考えながら歩いていたらふと、妙な感覚が自分に存在することに気づいた。感覚としては肌がざわつく感じだ。
コアを喉元にだして視覚を切り替えたりして調査しているとその正体に思い当たった。
電磁波だ。雷の魔法を習得したせいだろうか。レーダー装置のような技能が身についてしまった。まあ森の中ではあまり有効ではないけど。いろいろいじっていると魔力糸を伸ばしてコアと鎧を
コアを体内にしまって再び前進していると足の裏に振動を感じた。電磁波の感覚が皮膚感覚のように働いているのだろうか。振動はどんどん大きくなってくる。
さっきコアを体外に出したとき魔物に感づかれたのだろうか。俺は木の上に上ってなるべく魔力の放出を抑えて相手がこちらに来るのを待った。
、、、来ないな
相手はこちらを見失ったのかなかなか来ない。こちらから行くか。手のひらから触手を伸ばし別の木の枝に巻き付けて木から木へと移動していく。
音や振動の検知、目視による確認。移動のたびに慎重に行い敵の位置を探る。やがて遠目にその姿を確認することができた。種属はイノシシか。かなり大きい。俺は待ち構えるべく進行方向に回り道で移動した。
イノシシが通りかかるのを木の上で待っていると、ほどなくしてイノシシはやってきた。
でかいな。体高は1.4メートル、体長2.0メートル、横幅0.8メートルほど。全体的なフォルムは知っているイノシシと大差ない。色も茶色。唯一の違うところは上に突き出た牙が相当大きいというところか。
ふんふんと鼻を鳴らしながら何かを探すようにうろうろと移動している。こちらには気づいていないようだ。
今までは襲われる側だったが今回はこちらから行かせてもらう。
俺は触手をイノシシの背中に向かって一直線に伸ばす。攻撃の魔力を感じ取ったのかイノシシは頭をこちらに向けようとしてくる。だが遅い。触手先端に備え付けた牙ナイフが背中に突き刺さる。
むっ⁉ 堅いっ!
刀身すべてが刺さるような勢いで発射したつもりが半分も刺さらない。ナイフを引き抜いて触手を戻そうとする。が、抜けない。
イノシシは身体をひねったり
イノシシは相当頭にきたのか大声で鳴くと前掻きをして全身に魔力を行き渡らせる。
猛スピードで俺が枝に乗っている木に向かってきた。木と衝突する瞬間に前頭部から鼻筋にかけて魔力を増大させて威力を増している。突進により木が根元から折れる。
俺は木が折れる前にすでにイノシシの後ろを取る形で地面に降りている。しかし、イノシシもそれに気づいている。すぐさまこちらに振り向いて戦闘態勢を整えてくる。
猪突猛進って言葉があるとおり直線的な突進しかできないのだろうか。イノシシは単調な突進を繰り返し、俺はそれを横に跳んでよける。
数回ほど繰り返しただろうか。突然イノシシは鼻先に魔力を集中させだした。嫌な予感がして後ろに跳んで距離を取る。
魔力を込めた鼻先を地面にスタンプすると地面を魔力が伝い俺の足の裏と地面が結合する。
ぬっ! あの緑の少年と同じ魔法か!
だがその体勢からでは攻撃できまい。鼻先を地面から離せば魔法は消えるか弱まるはず。だが、イノシシが鼻先を地面から離すと今度は足下から魔力が伸びている。
走り出してこちらに突進を仕掛けてくるが常にどこかの足が地面についていて地縛の魔法は維持されている。おまけに魔力で地面と足の摩擦をコントロールして推進力を高めている。いままで見た中で最大の加速だ。
それがこいつの必勝パターンなのか一気に勝負を決めに来たらしい。俺は全身に雷の魔力を行き渡らせる。
ふんっ!
足の裏から一気に地面に流す。性質を帯びた魔力は相手の魔力構成を破壊し足裏が呪縛から解き放たれる。
浅い
振り抜いた刃はかたい毛と皮膚の上を滑ったような手ごたえだ。毛を切り飛ばすことはできたが皮膚表面を軽く切り裂くにとどまる。
だが電流はいくらか効いたらしい。イノシシは勢いそのままに地面に倒れて滑っていく。
追撃をと思ったが魔力で無理矢理身体を操ってすぐに体勢を立て直してしまう。
少々の傷なら魔力による回復ですぐに直せるらしい。硬い皮膚の防御力と相まって決定打を取るのが難しそうだ。
だが雷魔法は有効に思える。なんとか“雷閃”を刺し込んで体内に大きな電流を食らわせる。それが今のところ最適解のようだ。
しばらく正対したままお互い出方をうかがう。
今度は俺の方から動き出す。亜空間に“雷閃”を仕舞いゆっくりとイノシシに向かって歩き出す。
むこうは警戒しているのか鳴き声や前掻きで威嚇してくるがかまわず近づく。2メートルぐらいの距離で一度止まる。
向かい合いながら亜空間の中で土の水分量を調整して結構な量の泥を作り出す。
イノシシが耐えきれなくなって動き出そうとする瞬間、泥を目や鼻に向けて噴射する。イノシシの視界から俺が見えなくなったそのタイミングでイノシシの背中に飛び乗り馬乗りになる。
右手に“雷閃”、左手に“銀翅”を出して逆手に持ち、挟むように両側から背中を刺し貫く。両足で背を挟み体を固定する。
練り上げた雷の魔力を“雷閃”を通して雷撃に変えてイノシシの体内にぶち込む。たまらず暴れ出して振り落とそうとしてくるが、俺は踏ん張って耐える。
このまま仕留めてやろうとさらに魔力を上げようとするがイノシシは突然上に向かって跳躍をする。重そうな身体でよくもそこまでというくらいに飛び上がり空中で身体をひねる。
このまま逆さまに落下して押しつぶすつもりか。両手の刀を亜空間に仕舞い背中を蹴って逃れる。
背中から落下したイノシシは荒く息をしているものの、4本の足でしっかりと起き上がり魔力でダメージを回復する。刀が刺さった傷跡からは血が流れでていたがすぐに塞がってしまう。
だいぶダメージは与えたはずだが流石のタフネスと言ったところか。
うかつに追撃を狙おうとすると立て直しが早いから反撃を食らう。土魔法も警戒しなければならない。持久戦になるかもしれない。
せっかくだからいろいろと試してみようという気分になる。再び亜空間で泥を作り出し、それを手のひらの上で魔力を流しながら球状に成形していく。
直径50センチメートルぐらいになったらイノシシの顔めがけて発射。そのまま当たるかと思ったらイノシシは地面に鼻をスタンプする。すると地面の土が壁状に盛り上がって泥弾を防ぐ。
へぇ、そんなこともできるのか
初めて見る魔法に感心してたら土壁を突き破ってイノシシが突進してきた。サイドステップで躱すと手のひらから土の触手を出して後ろ足に巻き付ける。
触手を介して電流を流そうとすると触手がボロボロと崩れだした。それでも少しは電流を流せたようでイノシシは違和感を振り払うように後ろ足をぶんぶんと振っている。
うまくいかないな
電子を操作する魔力を流そうとすると触手を維持する魔力が分解される。触手を維持する魔力の隙間に別の性質の魔力を流すことはできそうな感じはある。しかし、手ごたえは感じたのだがかなり難易度が高いように思える。
性質の異なる魔力を同時に精密制御する。そこに挑戦するよりもまず2種類の魔法を同時に使うことから始めたほうがいいか? まあ、いまはいいか。
次は何をしようかと考えているとイノシシはみたび鼻を地面にスタンプする。また拘束魔法かと思い上に飛び上がる。
すると地面から俺が使うような土の触手が飛び出てきて足に絡みつかれる。触手は鞭のようにしなり俺を木の幹に背中からたたきつける。
とっさに背中側に魔力を集中して防いだが結構な衝撃だ。イノシシはすでにこちらに向かって突進して来ている。
俺は“雷閃”を取りだし地面に突き立てる。込めれるだけの魔力を込め地面を伝うように雷を発生させる。
―
心の中で技名を叫ぶ。雷は地面を爆ぜさせながら突き進み足裏を介してイノシシの体内を
こちらに走りくるイノシシは身体から白煙をあげ倒れ込みながら地面を滑ってくる。それをかわすようにすばやく腹側に回り込み柔らかそうな腹部から胸骨を避けるように心臓に向かって刀身をつき込む。
しかし、刃は途中で止まる。心臓に達したかどうか手ごたえを感じられない。ならばと心臓がある方向を予想して雷撃を刃の先端から拡散させると刀をしまい距離を取って様子を見る。
警戒を維持する。じりじりと時間が過ぎていく。
やがて完全に死んだことを確信すると亜空間に遺体を収納してその場から離れる。だいぶ離れた場所に来ると、例によって地中で休憩をすることにした。
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