第11話 雷を使う獣 Ⅹ 決着 x 追跡終了

夜が明けると意識が目覚める。コアの機能で正確に時間経過がわかるので便利だ。水晶発振器のような機能まであるのかね、俺のコアには。土からでて新しく製造した身体に乗り込む。


動きを確かめると設計通り以前よりもなめらかに動かせる。いい感じだ。これならあの鹿とも余裕で渡り合えるだろう。俺は目の前にそびえる山に向かって歩み出した。


山を登っている途中でコアを喉元のどもとの鎧で覆われていない部分から出す。そして、鹿に対して波動を発して、来てるよ!とばかりにアピール。1匹ずつ戦おうとしても途中でもう1匹が駆けつけてくる未来しか見えない。


それならば最初から二匹同時に相手取った方が不測の事態は起きにくいと考える。前回の戦いで向こうもこちらを警戒しているだろう。二匹を引き離す術は思いつかないしな。しばらく山を登るとまた波動を発信をする。


これを定期的に繰り返す。やがて前回戦った草地にたどり着いた。思った通りそろってのお出迎えだ。威圧的な魔力の波動を感じる。


さて、戦闘開始だ


角が筒状になっている牝鹿めじかの雷弾を警戒して距離を取り様子を見る。すると牡鹿おじかが牝鹿の隣やや後ろ側に陣取る。何をする気だと警戒を強める。


牡鹿おじかが魔力を高め枝状に広がった角が発光し放電し出す。牝鹿めじかの方も角に魔力を込めるがこちらは魔力を込めるのみで放電まではしない。


牡鹿おじかが放電を開始すると雷が牝鹿めじかの角の中心部に吸い込まれる。その瞬間こちらに雷弾が飛んできた。


あぶな!


あわてて身体をひねって交わす。有効射程距離外にいたはずだが十分な威力を持って通り過ぎ後ろの岩にひびを入れる。着弾地点の周辺に電撃がまき散らされる。


射程も威力も前回見たときより上がっている。発射までのスピードも速い。おまけに着弾箇所から離れなければ追撃の放電を喰らうかもしれない。


次弾がすぐに飛んでくる。直線的な攻撃で来るとわかっていればかわすのは容易よういでないにしても十分じゅうぶんに可能。


しかし、次々と絶え間なく雷弾が飛んでくる。身をかがめ、ひねり、横に跳んで躱していく。距離を詰めることも反撃に転じることも難しい。


近づけないならあれを使うか


俺は牡鹿おじかとは牝鹿めじかはさんで対角線の位置に来るように躱しながら徐々に移動する。牝鹿めじがは雷弾を撃つ前に軽く首を振りかぶり、発射時に振り下ろす。その発射後にわずかだが硬直することを俺は見抜いた。


タイミングをはかり発射後の一瞬の硬直を狙って手のひらから触手を伸ばす。可能な限り細く、速く伸ばすことに集中する。視認しがたい速度で一直線に伸びていき、触手の先端にある牙ナイフが牝鹿めじかの目を貫く。


ウサギに憑依ひょういしたときは視野の焦点のあわなさに難儀なんぎしたものだが魔力で水晶体をコントロールすると一時的だが距離感がつかめる。同じ草食動物である鹿も同じようなことをして照準しょうじゅんおぎなっていると考えたが果たしてうまくいったようだ。


照準を失い、雷弾は止む。そして、牝鹿は目の再生を始める。この隙にたたみかけたいところだが牡鹿おじかの方はすでに動き出している。


牡鹿おじか牝鹿めじかに攻撃が当たる瞬間には動き出してこちらに向かってきていた。判断が速い。


追撃をする間もなくける体勢を取ろうとするが牡鹿おじかはかなり手前の位置で突然停止する。


何だ?と思う間もなく角から稲妻を光らせて首をぎ払う。


その距離からか⁉


俺は咄嗟とっさに全身を丸めながら腕を曲げて盾にしてちぢこまる。表面積をしぼりつつ全身に魔力を込めて防御姿勢を取ろうとする。


扇状おうぎじょうの広範囲雷撃はこちらまで伸びて全身をなめる。アルミ製の甲冑は電流を逃がしきれずに表面がスパークする。全身の至る所が高熱を発し、焼け焦げて白煙を上げる。完全ではなかったが防御はある程度成功したようだ。


牝鹿めじかの放っていた雷弾の魔力や発生した電離ガスが周囲に立ちこめている。それが威力と飛距離を伸ばしたのか?


予想以上の射程距離と威力だった。雷に含まれる牡鹿おじかの魔力も威力を底上げしているのだろうな。普通の人間なら死んでいただろう。


しかし、この体は主に土でできているから焼けて固まったとしても交換すれば簡単に。鎧もそれなりにいい仕事をした。ダメージは見た目ほどじゃない。コアへの直接ダメージは大したものじゃない。


牡鹿おじかは勝ちを確信したのか硬直が長い。俺は魔力を全身にみなぎらせバネがはじかれたように牡鹿おじか肉薄にくはくする。


亜空間から“銀翅”を取りだし前回の意趣返いしゅがえしとばかりに首をすくい上げるように切りつける。


十分に魔力を込めた一撃。首を切り落とせるかと思ったがこいつ、逆に迎え撃つように首をひねり角を腕に押し当てて勢いを殺してきた。毛や筋肉も恐ろしく固い感触を返してきた。それなりに深くまで切り込んだものの途中で刃が止まってしまっていた。


仕切り直しと出血を狙い亜空間に刀を仕舞う。牡鹿おじかの首からは血液が噴き出すがすぐに牡鹿は魔力回復を行い止血を行う。


回復させるかっ!


とどめを刺そうと突きを放とうとするが牝鹿めじかの方が割って入ってくる。


雷弾が鎧をかすめる。


チッ!


俺は心の中で舌打ちして牡鹿おじかと距離を取る。牡鹿は回復するまでにしばらくかかるだろう。その間に牝鹿めじかを仕留める。


牝鹿めじか牡鹿おじかを守るようにその前に陣取っている。


雷弾をけつつ接近して心臓をひと突き。そう決めて一気に距離を詰める。牝鹿は雷弾を放つため魔力を集中させ放つ。


俺は軌道を読み射線から身体をずらしてそのまま接近。しかし、雷弾は来なかった。


雷弾は角にとどまったまま槍のように伸び、ブレードを形成する。


そんなこともできるのかよ!


高エネルギーが集束したそれは鎧も骨も丸ごと切り裂けるポテンシャルを持っているだろう。


距離をとって躱すか? いや、そうすれば牡鹿おじかに回復の時間を与えてしまう。


俺はさらに勢いを増して牝鹿めじかに向かっていく。相手の間合いに入る直前に限界まで身を低くして接近する。それを迎え撃つ牝鹿はこちらに突進気味の突きを放ってくる。


俺は左手に込める魔力を増大させ、自身に迫るブレードに向かって手のひらを突き出す。


ブレードにてのひらつらぬかせてそのまま筒状の角の中に左手を押し込み角の中心をつかむ。


その瞬間、右手に出した“銀翅”を牝鹿めじかの胸めがけて突き立てる。それと同時に、魔力強化をゆるめた左手は手甲も骨も一切が火花を散らしてバラバラに吹き飛ぶ。


そのかんに、刃は肋骨の間をくぐり抜け心臓に切っ先が突き刺さる。


刃に心臓の拍動はくどうがわずかに伝わってくる。


たしかな手応えを感じ刀を亜空間にしまうと胸に開いた穴から血液が噴き出す。


牝鹿は力を失い地面に倒れ伏す。あと数分もたたないうちに絶命するだろう。


殺気を感じて後ろに跳び退ずさる。


牡鹿おじかの魔力は今までにないくらい膨れ上がっている。


次で終わりにするつもりで吹き飛んだ左腕を中心に土で修復して心を落ち着ける。


牡鹿はありったけの雷撃を放出しながらこちらに迫ってくる。


大きく横によける方が無難。そう考えるが正面からいく。こちらも接近しながら全身の魔力を極限まで高めていく。


雷撃が身体に打ち付けられるが当たる瞬間にその部分を魔力で固め相殺そうさい


間合いに入る瞬間、呼び出した“大白鬼”を上段の構えから真っ直ぐに振り下ろす。


切っ先は牡鹿の眉間に吸い込まれ頭部を両断。勢いそのままに地面にめり込む。


力を失った牡鹿の身体は勢いを弱めつつも前進して正面から衝突する。


俺は振り抜いた姿勢のまま鹿と一緒に後退していく。


俺の体にもたれかかった牡鹿から完全に力が失われると刀をしまいを地面に横たえた。


戦闘が終わると俺は二匹のを亜空間に回収し急いでその場を後にする。別の生き物がやってくるかもしれない。とくに人間。


あの人達絶対にまだ探しているだろうな


見つかったらまた集団で囲まれてボコられるだろう。そんなことはさせない。とりあえず海や平原とは反対側に向かう。


向かう方角はなにやら不穏ふおんな空気が濃いような気がするが気にしてはいられない。なるべく急な斜面は避けて岩場を下っていく。


山を下りた麓で穴を掘りいつものように休憩。魔力回復をしつつ戦力を整えよう。


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(別視点)


(これは誰かが戦っている? 中層方面だな )


戦いの魔力反応を感じたケイルはリッカに声をかける。


「リッカ。今の魔力波動を感じたか? 」


「いいえ。私は感じなかったわ 」


リッカの答えを聞いて判断に迷う。しかし、再び魔力反応を感じる。今度のは先ほどより大きい。戦闘が過熱しているのか徐々に反応が大きくなってくる。


「リッカ、セッカ。間違いない。信号笛を吹くぞ 」


リッカとセッカにはあまりはっきりとは感じられなかったがケイルには確信があるようなので二人とも叩首こうしゅする。


ケイルが魔力を息に込めて信号笛を吹くと音が鳴る代わりに人間の魔力波動を増幅させて発信する。距離があるとどこで発信されたかわからなくなるので拠点に戻り合流する。


吹き方によっては危険を知らせたり救難信号を送ることもできる。魔導具に分類されるが構造が単純で誰にでもあつかえ値段も他の魔導具に比べれば安い。狩猟者には必須の装備である。


ケイルが発した信号により全員が拠点に戻ってくる。話し合いにより中層の近くに行くならば余裕を持っていきたいということで次の日の夜明けを待って出発することになった。大人数で移動すれば他の魔物に襲われにくくなる。


ケイルが戦闘の魔力波動を感じた場所からしばらく中層に向かって進んだ後、簡易拠点を設営する。その後、分散して捜索しているとケイルの班が山のふもと付近で痕跡こんせきを発見した。


一見人間の足跡に見えるそれは間違いなく対象のものだとわかる。それは確実に魔境の奥に向かって移動している。


しかし、これ以上の深入りは危険を伴う。敵はあれだけではない。中層の魔物を避けながら追うのは危険が伴う。戦闘の素人であるテセムルは連れて行けない。ここが潮時しおどきだろうというのが五人の共通見解だった。


ただギルドへの報告書にはもう少し情報が欲しい。そこでケイルが単独でもう少し追跡することとなった。ケイルひとりなら魔物を避けながら追跡するのも容易だ。ケイルは山を登りだした。


足跡を追跡しながら山を登っていくと途中で、岩に囲まれた広い草地にでた。一目で戦闘はここで行われたということがわかる。草が千切れ地面がえぐれている。岩が割れ、大きな血痕がある。ケイルは戦闘痕を詳しく調べる。


(あの個体が戦闘を行ったのは間違いない。相手はトーラ・セルブの雌雄二体 )


ケイルは再び血痕を調べる。


(これだけの量の出血ならば勝ったのはあの純魔のほうか。しかしあの個体の強さでは二匹相手に勝てるとは思えん )


辺りを見回して考え込む。


(それに死体はどこに行った? まさか純魔が死体を食ったのか? ありえん。だが他の魔物がトーラ・セルブの縄張りにそうそう入ってくるとも思えない )


考えてもわからないことが増えるばかり。いったんこの場は置いといて追跡を再開する。足跡を追っていくと山の反対側にでて斜面を下っていったようだ。苦戦しつつも反対側のふもとまで降りる。


周囲を探索すると対象の足跡は魔境深部の方に向かっている。これ以上の追跡は無理だと諦めて来た道を引き返す。


仲間と合流するとケイルは拠点に引き返しながらことの子細を話すと五人全員が追跡の打ち切りに同意する。


この後はテムシンを村に返し町まで戻ってギルドに報告する。そうして依頼は完了する運びとなった。

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