第10話 再戦準備 x 追跡

(別視点)

「すまない。取り逃がした 」


「べつにいいってことよ。まだ始まったばかりさ 」


ケイルは足止めできなかったことを謝るが謝罪の色は薄い。ほかの4人も特に気にした様子はない。大物を狩るときは何日もかかるものだ。簡単に狩れる期待はあったが一度の接触で仕留めきれるとは考えていなかった。


ギルドの情報では純魔は魔力量は多いが消費量が多く回復量は少ないとある。さっきの戦いでもかなり消耗したはずだ。このまま追跡して戦い、逃げたら追跡するを繰り返せば仕留められる。五人ともそう考えていた。


「テセムル。大丈夫かい? 」


「は、はい。大丈夫です 」


テセムルも怪我はないようだし魔力も消耗はあるがまだいけそうだ。一番心配していたのは魔物にびびって心が折れることだったが大丈夫そうだ。あの触手はただのこけおどし。


戦闘中にいきなり敵意のない攻撃をしてきたときはあせったものだが実質的な被害は出ていない。サリューもみなもそう思った。魔物が意図的にそうしたとは誰も思わなかった。


「途中で調子が変わったね。どう思う? 」


「成長したとか 」


サリューの問いかけにリッカが答える。基本的にこの姉妹は姉の方が受け答えをする。妹は姉とはよく話すが他者とはあまり話さない。そのことをサリューは気にした様子もなく続ける。お互いのことに必要以上に立ち入らない。それが狩人間の暗黙の規律である。


「成長ねぇ。あり得なくはないけど、、、 」


「最初は様子をみていたんだろ 」


岩人いわびとのバックスが意見を言ってくる。岩人は背は低いが体格はがっちりしている人種で、鉱物に魔力を通すことを得意とする種族だ。バックスは顔立ちはやや幼い印象をあたえるが18才の青年である。


今回は彼の持つ打撃武器が剣よりも相手に適していると踏んだサリューにより誘われ討伐隊に参加している。


「あれにそんな知能があるのかねぇ? 」


いろいろ考えをめぐらせるがギルドにも情報がないような魔物のことなどわかるはずもない。思考は催促さいそくの声により打ち切られた。


「そろそろ追跡を開始するぞ 」


追跡はケイルが主導する。彼はまだ二つ星の狩人だが探索能力、追跡能力は四つ星にも劣らないと一緒に組んだことのある狩猟者から評価されている。そうかからないうちに再びあの化け物と対峙できるだろうと五人は考えていた。


だがすぐにその予想は裏切られることになる。


「おかしい。魔力痕跡どころじゃない。なにひとつ痕跡が見つからない 」


探索の先頭を行くケイルが異常に気づく。ほかの隊員も散り散りになって探すが、異常なほど何も見つからなかった。痕跡が途中ですっぱりとなくなっているのである。真新しいウサギの足跡が見つかったぐらいである。


「どうしてあんなうかつなヤツがこうも簡単に消えることができるんだ! 」


サリューは苛立ちから声を荒げる。結局、六人は今後について話し合うために拠点に帰還した。彼らの今までの経験からはあり得ないことに戸惑いを覚えている。それを解消するためにそれぞれの意見をすりあわせる。


土壌系の純魔なら土の中に潜ったのでは? しかし、地面にそれらしき痕跡はない。


木の上を渡っていったのでは? 木の上も痕跡を調べたがそれもない。


結局、人型の特殊個体だから不可思議なことが起きてもしょうがない程度の認識にしかならない。考察は打ち切って具体的に今後どうするかを話し合った。


とりあえず手がかりがない以上広い範囲を捜索しなければならない。ということで三人一組で捜索範囲を割り振ることにした。獲物の脅威度はそこまで高くないとみて三人でも捜索はできると踏んだからだ。


討伐隊の五人にとっては時間との闘いだ。テセムルが攻略の鍵と考えるがいつまでも連れ回せるとは思っていない。五人の中では有志の参加になっているがなかば強引に連れてきた関係上なるべく早く村に戻さなければならない。


開拓が遅れるようであれば狩猟ギルドと開拓ギルドの間で問題になるかもしれない。


多少の危険は甘受して時間優先で進めることとなった。タルバ達三人は自分たちまで捜索に駆り出されることに難色を示したがサリューににらまれると引き下がるしかなかった。


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人間達から逃げ出してから俺は例の雷鹿に再戦を挑むべくウサギのまま山の方に向かっていた。


俺のコアは一度見たものはずっと記憶できるらしい。風景の記憶から道順が自然とわかるのだ。


コアの性能が上がってきたせいか?


とにかくこれでいちいち確認せずに進める。問題はほかの動物に襲われたときだが意外にもウサギはおろか狼でさえも隠れてやり過ごすことができた。


土の身体の時は簡単に見つかって襲われてたのにな。ひょっとしてコアをむき出しにしていたのがよくなかったのか。次の強化ではそこら辺を考えないとな。


山の麓まで来るとウサギをしまってコアを地中に隠す。落ち着いたところで久々に魔力チェックを行う。


現在魔力/最大魔力 697/2078


上がってるな。ウサギに憑依していたせいか人間との戦いで経験を得たせいかはわからないが魔力を制御して操作が上達したことが原因ではないかと推察してみる。


それはさておき、いよいよ長いこと採取していた土を精製する時が来た。


人間どもに邪魔されなければもっと早くとりかかれたのに、、、


とは思わない。あれはあれで得るものはあった。そう思うことにする。実際、人間にも魔石があることが分かった。戦闘中にも魔力を観察していた甲斐かいがあった。


亜空間の中で集めてきた数十トンの土からアルミニウムを分離してまとめる。十分じゅうぶん以上の量を確保できた。これはあとで使用するとして今まで使っていた基本ボディ、これを基礎から見直していこう。


まず腐葉土由来の土とセルロース繊維を混ぜた肉部分をすべてがす。次に骨格に使用していたウサギと狼の成形骨を分解してカルシウムにする。死蔵していたウサギや狼の死体から歯や骨を抜いてカルシウムにしてさっきのヤツと一緒に骨格を一から形成する。


前までは魔力がより通りやすいように成形するなんてできなかったけどある程度できるようになったので自分でデザインして作ってみる。


骨格が完成したらアルミニウムを抜いた土を肉付けしていく。セルロースはなぜか魔力を通しにくいので今回は土のみ。土の質は上がったので維持費も強度も問題ないはず。


その表面にアルミニウムの鎧兜よろいかぶとまとわせていく。これで基本形は完成だ。


次の課題はコアをむき出しにすると敵から狙われる問題だ。コアを身体の中に入れたい。生物の魔石も身体の中にある。


しかし、コアをおおってしまうと完全に視界がなくなってしまう。音も聞こえなくなる。目と耳の役割をするデバイスを作らなければならない。


耳の制作は難しくはなかった。ウサギの皮をなめして頭蓋骨の一部を変形させそこに革をピンと張る。コアと魔力糸でつなげれば音をとらえることができた。


目については余っているウサギの魔石を使用してみようと思う。コアと魔石は似ている部分がある。コアで光を捉えることができるならば魔石でもなんとかなるかもしれない。


魔石について調べているとそこに刻まれた情報を消したり、新たに書き込んだりすることができるとわかった。


もともとのウサギの身体情報や魔力情報をすべて消してみる。コアの波動を感じ取る機能をコピーして魔力で再現できるように書き換える。魔石とコアをつなげてみるときっちりと機能していることがわかった。


頭蓋骨にふたつの眼窩がんかをあけて加工魔石をはめ込む。兜も感覚器に合わせて変形加工してとりあえずは完成した。


亜空間の中で性能試験を行うと眼球魔石でも音を感じているようだ。視覚機能もなんだかぼんやりしている。魔石から音を感じる機能を削ってみると少し視野が改善した。可視光以外の波長を削ってみるとかなりいい。


視界は狭まったが人間に近い分見やすいかもしれない。


さらに武器を新しく作ってみようと思う。余っているカルシウムをすべて投入してリーチの長い武器を作ろうと思う。刃渡り120センチメートルの長刀。切ることに特化したそりのある形状。常人には扱えないロマン武器だ。これも魔力が通りやすいように細部構造までこだわった一品だ。


メイン武器が二つに増えたのでめいを付けようと思う。上段の構えから亜空間より取りだし切り下ろす。薬丸自顕流や太刀流のような運用方法だ。亜空間の利用によりリーチがいきなり変化するので敵は対応できないだろう。


カルシウムを刃にした白い長刀を縦にかまえるその姿を鬼に見立てて牙刀ガトウ大白鬼ダイハッキと銘打とう。


先に作った短めの刀は一から作り直す。カルシウムでできた部分を分解してより魔力が通りやすいように構築。以前と同じように鉄で刃の部分を作る。刃渡り50センチメートルの長めの脇差しといったところか。


切ることも突くこともできる直刀が完成した。名前は何にしようか。考えた末、取り回しがよくひらひらと舞う羽のように銀色の刃がひらめく様から牙刀ガトウ銀翅ギンシと銘打った。


せっかくだから鎧兜のデザインも凝ったものにしよう。いろいろいじっていたら西洋騎士と日本武者を融合したような見た目になった。


さて、後は魔力が全快になるのを待ってから雷鹿のアベックに再戦を申し込もう。眠る必要はないが意識を閉じて寝ておく。


いつか人間の間で生活するなら人間の感覚を忘れないようにしなければ。寝る前に魔力残量を確認しておいた。


現在魔力/最大魔力 1132/2186


少し上がってた。何かを加工したりしても能力の向上に寄与するのか?


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(別視点)

討伐隊の面々は三人一組になって捜索していた。サリュー、バックス、テセムルで一班。ケイル、リッカ、セッカで一班。タルバ、セイン、ラズリの開拓団組で一班。合計三班で手分けして探す作戦である。


作戦に当たってはラズリが作成した地図が大いに役立った。2つ簡易的な複製を作成して配り、それぞれ範囲を分担し、捜索済みの場所に印をつけながら捜索する。


対象やその痕跡を発見した場合は信号笛を吹いて知らせ拠点で合流する。そして集合して後を追うという段取りだ。


討伐組は俄然がぜんやる気を出しているがタルバ達開拓組はできればこのまま魔物が見つからずに終わって欲しいと思っていた。


討伐隊の話からそれほどの脅威はないと踏んだ。中層方面に逃げていった痕跡さえ見つかれば一応は安全に仕事を継続できると考えている。


狩猟者の案内や地図を提供して協力した事実があれば報告書の体裁ていさいも整うだろう。捜索に手を抜くことはないが必要以上に張り切ることはない。


そう考えながらタルバ達はまだ地図を作成できていない範囲を含む担当場所を捜索する。ついでに魔導具で計測して地図を作る。さっさとこの仕事を終わらせてもう少し都会に近い現場で働きたいと思っていた。


テセムルはときおり自分はなぜここにいるのかと疑問を抱いていた。魔物の討伐なんて生まれてこの方したことがない。狩ったことがあると言えば村に時折出るネズミの魔物くらいだ。


オマエの能力が必要だ。村の英雄になれる。などどおだてられ来てみたもののあの不気味な人型の魔物は恐ろしかった。ただ言われていた通り自分の魔法はあの魔物にかなり有効であった。そう考えると魔物の討伐にも自信が出てくる。


魔物の攻撃を食らってしまったがかるく小突かれた程度で全く痛くはなかった。見た目ほど恐ろしい魔物ではないのかもしれない。


能力を示したせいかサリューという獣人の女性もさっきからこちらにやたらと気を遣ってくれている。優しくされればうれしくもなる。もう一度くらいは戦ってもいいのではないかと思えてくる。村に残した仕事との間で揺れ動いていた。


サリューは討伐できる確率は五分五分程度だろうと考えている。もとより初見の魔物はそう簡単には狩れないものだ。それが特殊個体ならなおさらだ。


今回は事前情報からそこまで強くない相手だと見積もった。実際すぐに発見できたし、想定よりも弱い相手だった。手が届きそうだったのに遠のいた。それで頭に血が上っただけだ。


討伐できなくても他ギルドからの討伐依頼なら高めの日当が出る。珍しい魔物の情報ならギルドに報告書を出せば報酬が入る。それだけでも十分。損はない。他の四人も事前のすりあわせでそれで納得している。


短気を起こすようなまねはしない。一番気がかりなのは開墾ギルドに対してだ。長く見積もっても今日を含めて後四日ほどで村に無事にテセムルを返さなければならない。


あの触手による攻撃には少々肝を冷やしたが攻撃の意思が感じられないふぬけたものだった。テセムルも負傷はしていないし本人も大丈夫だと言っている。


このひとのよさそうな緑小人は狩猟ギルドに苦情を言ってくるようなことはしないだろうが機嫌を取っておくのがよいと判断した。短気を起こさず欲をかきすぎない。サリューは脳筋に見えてギルドの教えには忠実だった。


その日は特に成果もなく日暮れ前に拠点に全員戻ってきた。互いに情報を交換し夕飯を食べながら雑談を交わす。見張りはテセムルを除く八人でサリューとタルバ、セインとラズリ、ケイルとバックス、リッカとセッカの順に行った。


事態は次の日の昼前に動き出した。中層付近を探索していたケイルが何者かが戦闘をしている気配を感じとった。

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