Waypoint.1 艦隊指揮官、着任

連邦宇宙軍 軍用宇宙港 ZV-14SAD-02SADManganese

士官用ブロック F-11M

スライド式の自動ドアを開き、緊張した面持ちで集会室に踏み入れる


「失礼します。本日付で第14空間機甲師団、第3打撃艦隊 艦隊指揮官並びに改アルマータ級重巡洋艦クルガネツの艦長を拝命しました。冬本 犀樹さいき中佐です。お見知り置きを。」


「同師団同艦隊、僚艦の重巡洋艦バイカル艦長を務める詩桜しざくら よい上級少佐です。折角のところ悪いですが、他の艦長は仮眠や休憩をとってるところでして」


「詩桜少佐は仮眠を取らないのか」


「いえ、ちょうど起きた所です。ココ最近は海賊退治も無いですし、暇を持て余すばかりで。演習も3ヶ月後なので」


「銀河外からの彗星迎撃の頻度は?」


「月に2~3度、巡洋艦2隻派遣して終わりです」


少佐は味気なさそうに桃の缶詰を食べながら答える

カメラ越しに映された外の景色は、破壊された小惑星の破片や、彗星の残滓が漂うのみで

そのほとんどが、数百キロ先のものである


「ではとりあえず着いてきてください。母港を案内します、第14空間機甲師団14SADの所に限られますけど」


そう言って食いかけの缶詰を放置して席を立つと、制帽を被り廊下に出る

幅5m程度の金属に覆われた無機質な廊下に、コツコツと軍靴の音が鳴り響く

剥げたペンキの案内表記に、チカチカと光る蛍光灯


「随分と古臭い」


「辺境はほとんどこんな感じです。居住区画に回せるほどの予算がないので」


「中央は無駄に金を使った設備だった。少なくとも前線に耐える士官を育てる環境じゃない」


「上の連中は信用なりませね。もっぱら宣伝と私服を肥やすために権力を振るう連中です」


そうして少佐の愚痴を聞いながら通路を歩いて行く

食堂に弾薬庫、PXに展望室と、次々に紹介されていく

そして十字路に差し掛かったところで、少佐が声をかけられた


「おや詩桜少佐、ここで会うとは偶然ですねぇ?」


「佐々木少佐ですか。貴方も案内を?」


急激に下がった詩桜少佐のトーンを前に、少しばかり驚きながらも佐々木と呼ばれた男に視線を向ける

赤い短髪に相手を見下した様な目を貼り付け、嫌味ったらしい表情を向ける


「えぇ、という事は貴女もですか」


少佐はちらっと此方へ視線を向けると、彼女と同じ様に所属と名前を口にし、直ぐ様視線を詩桜少佐に戻した

この10秒で俺はこいつの事が嫌いになったので、軽く返してからコイツが連れている士官に目を向けた



ロングの金髪に、左目を眼帯覆っている

対になる右目は金色に輝き、刺すような視線でこちらを見る

両肩の階級章は一つ星を挟むように金の帯が縫われた、中佐のそれだ

少し考え、脳の引き出しから探りだした答え

俺はこいつを知っている


「誰かと思えば、イャルトーカじゃないか」


「犀樹さんですか。貴方もここに配置されたと」


「14SADだ。第3打撃艦隊司令に任ぜられた」


「私は2SADです。第6駆逐艦隊司令」


「そうか。まぁ頑張れ、お前ならすぐ師団司令官にでもなれるだろ」


「また無責任な」


彼女は学生時代に俺が何度か僚艦を務めた同級生

イヴァン・ミハイロヴィッチ・イャルトーカだ

士官学校を中々の成績で卒業した優等生と言う

なんでこいつがこんなクソ田舎のオンボロ宇宙港に居るかと言えば、いまお隣にいる第2空間機甲師団がうちと14SADの演習相手だからだろう


外縁部隊では優秀と言われる2SADのお手並みは知りたいが、まさか知人がいるとは思わなんだ

少佐達が未だに話している様なので、もう少し会話を続けてみる


「乗艦はなんだ?艦隊防空駆逐艦か?」


「いえ、ベリョーザ級ミサイル駆逐艦です」


「新型じゃないか。さすが精鋭だな」


「そういう貴方は?」


「改アルマータ級だ。ベリョーザ級より1世代古い物だよ」


「かつての連邦宇宙軍主力艦級じゃないですか。演習じゃ相当な脅威になりますね」


「そりゃこっちの台詞だな」


巡洋艦にとって、高速接近し致命打となる対艦ミサイルを投げつけて来る駆逐艦は大変な脅威で、それを防ぐ手段もまた駆逐艦となる

厳密に言えばその2つは突撃駆逐艦と防空駆逐艦なので種類が違うが、駆逐艦である事に違いは無い


そんな駆逐艦は多種多様な装備を有し、2579年時点で既に重巡洋艦に匹敵する戦闘力を保有していた

しかし駆逐艦には無く、巡洋艦にはある、そういうものがあった

打撃力である

駆逐艦以上の交戦距離、駆逐艦以上の継戦能力

駆逐艦以上の砲戦火力、駆逐艦以上の航続距離


大型艦故の性能が、駆逐艦に優位を生み出していた



「次回の演習。貴方の手腕がまた見られるなら俄然やる気が出てきましたよ。それでは」


「あぁ、お前の戦いっぷりも見てみたいよ。じゃあな」


あちら側の少佐に呼ばれた様で、彼女はゆったりとした足つきで通路の向こうへ消えていった

それを確認した詩桜少佐も、溜息をひとつ吐いてこちらを向いた


「申し訳ないです中佐。ちょっとだけあの人間が苦手でして。気を悪くさせたらすみません」


「いや大丈夫。俺もあいつは苦手だ」


「なら、紹介の続きを。と言っても次が最後です」


そしてもう少し少佐の背中を追いかけ、複合材の2重扉を抜けると、重力が弱まる感覚と共に体がふわっと浮く

目線を落とし手すりにしがみつき、体を固定する

それから目線を上げた先には大空間が広がっていた

数々の艦艇がワイヤーで固定され、整備を受けていた


300m近い巨艦に、150m程度の駆逐艦

その中で、一際目立つ大きな船があった

格納庫の幅いっぱいに停泊し、相当遠くのはずなのにその威圧感を減らすことなく存在している

紺と鉛色のダズル迷彩、ゴツゴツとした表面装甲

8基の主砲に、無数の対空機関砲


「あれは...!」


「クレムリヤ・オルヴァ。クレムリン級の83番艦で...」


「連邦宇宙軍が最後に建造した通常戦艦...か!」


全幅67m 全高41m 全長670m

細長い菱形の下半分を断ち切り、それを重ね合わせた様な見た目をしている

全体的には前後にすぼんで潰れた四角錐といえばわかりやすいか

艦の中央には大きなレドーム付きレーダーと装甲化艦橋を備え、そこから艦首にかけての傾斜には51cm3連装光線砲を5基、艦橋後方にも同様に3基装備

艦底部にも両舷の斜面に20.3cm連装光線砲を12基ずつ備える

主砲の左右10m程度横にはそれぞれ102セルのVLSを備え、更にその10m横にはそれぞれ20m程度の間隔を空けて

45mm4連装パルスレーザーCIWSを計70基

その間に23mm連装パルスレーザーCIWSを50基搭載している

絨毯と評される対空弾幕は、それだけで突撃駆逐艦すら撃沈する程である

もっとも、駆逐艦どころか重巡洋艦ですらそこまで近づく事は不可能だが


「我が第14空間機甲師団の半数が停泊しています」


「半数でも壮観だな。残りは?」


「居住区画を挟んで反対側に。更にクレムリン級2隻があります。それぞれが各旅団の旗艦ですね」


「戦艦と言えども、やはり旧式だな」


「艦種自体が陳腐化しかけていますからね。ですがその攻撃力は健在ですよ」


「士官学校の戦史教育で戦艦の対地表砲撃を見たが、えげつないものだった」


「衛星軌道から全火力を一点に投射し、地表どころか地下まで抉り取る…」


過去の星間戦争で幾度と無く行われた、衛星軌道からの対地表砲撃

連続照射を用い、光の柱がビルを、道路を、地下の配管も溶断する

大都市であっても、わずか10分未満の砲撃で灰燼に帰す程の火力は駆逐艦や巡洋艦にはない

圧巻の砲戦火力を持つ怪物を目に焼き付け、演習に臨む事になった

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十字砲火へご案内!旧式艦がなんぼのもんじゃ! @Kaltzaf

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