第1話 セカンドインプレッション

 神成美琴の朝は早い。


 毎朝四時に起床し、陰陽師として、ついでに巫女としての修練を行う。

 それから神社周辺の見回りを行い、それが済むと自宅にて朝食の用意をする。

 昨晩の警邏を担っていた父は未だ夢の中のようだが、無理に起こす必要はないだろう。出来上がった朝食を一人前だけ残し、美琴は家を出た。


 本日は月曜日である。




 朝の日課をこなす都合上、美琴が学校に着くのはいつも時間ギリギリになる。とはいえ、校門周りには時間にルーズな生徒が結構な人数見受けられるため、特別彼女が不真面目に見られるようなことはない。

 というより、態々ホームルームよりもずっと早く登校するのは、部活か何かしらの用事がある人間だけだ。神社のお勤めの都合により、特に部活等に所属していない美琴を訝しむような人間はいなかった。


 当然、というわけでは決してないが、美琴は己が神秘に関わる者であることを余人には隠していた。


 それはある種の伝統であり、また無辜の民を守るための処置でもある。

 何せ、この世界に暮らす殆どの人間は、あらゆる神秘を虚構だと思い込んでいるのだから。美琴としては、知られたからといって何が変わるものでもないが、無用な混乱を招くことは避けるべきだと考えている。


 だからこそ、龍脈に触れようとする愚か者は困るのだ。

 己が敗北し、龍脈を奪われるなどということは、美琴は微塵も考えていない。だが事実として、神秘同士のぶつかり合いは目立つ。

 ほんの数日前、金髪の男との戦闘は山中かつ深夜であり、ごく短時間だった。しかし、こんな好条件の戦闘はそう無い。流石に白昼堂々人前で挑んでくるような者は神秘使いの中には居ないが、そもそも戦闘自体がリスクなのだ。


「おはよー」


 とはいえ、学校に居る時の彼女には関係のない話。

 火急の勤めが発生することはごく稀にあるが、大抵は父が一人いれば事足りる。呼び出しが入るようなことはまずなかった。


「……?」


 教室に入り、いつも通り挨拶をしてみたものの、何故か返事がない。

 教室がざわざわと騒がしいのはいつものことだが、どうにも雰囲気が違うようだ。

 自分の席に鞄を置き、近くの席で雑談を続ける友人に近づいた。


「おはよ」

「あ、美琴来てたんだ、おはよ」

「うん、今来たところ。ところで何話してたの?」


 首を傾げて問いかけると、友人、空野茜は一つ頷き、そして自分も今朝聞いたばかりだと前置きして、端的に言った。


「今日、うちのクラスに転校生が来るらしいよ」


 さて、今の季節は五月の半ば。

 年度の始まりには少々遅く、学期の変わり目でもない今の時期に転校して来るというのは、かなり珍しいように感じる。


「ふーん」

「反応薄くない?」


 とはいえ、家の都合は人からは想像できないものだ。パッとは思いつかないが、何かしらの事情があるのだろう。

 まあ、美琴には大して関係のない話だ。


「ちなみにめっちゃイケメンらしい」

「ほう」


 となると少し話が変わるかもしれない。

 残念ながら、美琴には色恋沙汰にうつつを抜かしているような暇はないが、人並み程度に綺麗なものは好きだ。顔だけで人は判断できまいが、視界に入るものは綺麗な方が好ましい。


「どんな人なの?」

「そこまでは流石に知らないけど、なんかハーフとか? 海外系の人らしいよ」


 つまりは、外国人ということだろうか。目立った観光地でもなく、都市部にも近くない美琴の地元では、あまり外国人を見かけることはない。美琴の実家の神社にも、参拝に来るのは基本的に地元の人間のみ。外部からやって来るような人間は、普通の人間、という意味では稀だ。


「……まあ、流石にハーフなんじゃない? 海外の人だったら留学になるけど、わざわざこんな田舎の学校選ぶわけないし」

「それはそうね」

「どっちにしても、本当に転校生が来るなら、もうすぐ分かることだし」


 と、この時の美琴は、そんなことを考えていた。

 まあ、何を考えていたところで現実や未来が変わるわけでもない。




 ◆




「えー、というわけで、急遽イギリスから転校してくることになったイスカ・デカルト君だ」

「どうも、よろしくお願いします」


 朗らかに微笑む金髪の青年は、そう言って頭を下げた。


 なるほど、確かに顔は良い。

 そこらのアイドルや俳優と比べても見劣りしないと断言できるし、彫りの深い顔立ちは日本人離れしている。おそらくは、ハーフではなく純粋な外国人なのだろう。

 クラスメイトの女子たちがざわついているのを横目に見つつ、美琴は口をぽかんと開けていた。


 美琴は、イスカと呼ばれた男のことを知っている。この転校生は、つい先日龍脈を奪いに来た術師だ。炎の術を使う、危険極まりない異国の術師。


 それが、何故か転校生をやっている。


 訳がわからない。

 美琴の感想はそれだけだった。思考が追いつかず、脳みそが空転している。


「席は後ろの一つ空いてる所があるだろう。隣の席は……神成だな、分からないこともあるだろうから、イスカ君に色々教えてやってくれ」

「……は!?」


 教師から投げつけられた言葉に、空転していた思考が引き戻された。


「わ、私ですか!?」

「あぁ、あとついでに、お前帰宅部だし、時間あるだろ? 放課後にでも軽く校舎を案内しておいてくれ」

「い、いや」

「よろしくお願いしますね、カンナリさん?」


 拒否の言葉は、いつも間にやら隣にやって来ていた転校生に握り潰された。本人の意思とは裏腹に生み出された合意の空気を打ち破ることはできず、美琴は半ば強引に転校生を案内することになった。




 そして瞬く間に時間は流れ、時刻は夕方。

 別に待ちに待ってはいない校舎案内の時間となった。


「じゃあイスカ、また明日なー!」

「えぇ、ワタナベ君、また明日」


 登校初日にして、既に友人を作ることき成功したらしい転校生、イスカはゆるく手を振って友人に別れを告げた。それからイスカはくるりと振り返り、未だ席を立たない美琴を見つめた。


「お待たせしました、カンナリさん」


 優しげな雰囲気。今日一日中、彼のことを観察していた美琴は、見事な猫被りだと感心した。


「……そうね、そろそろ行きましょうか」


 美琴はゆっくりと席を立ち上がる。

 鞄を持っていくべきか少しだけ迷ったが、いざという時には邪魔になる。盗られて困るのは財布くらいのものだが、別に治安の悪い学校でもない。置いて行ったところで問題はないだろう。

 イスカに着いて来るように促し、美琴は教室を出た。


 校舎の案内、とはいうものの、然程大きくもない学校だ。

 音楽室、理科室などの特別教室や、その準備室を含めて案内したところで、掛かる時間は僅かなもの。早いところ終わらせてしまえば良いだろうに、美琴は嫌になる程丁寧に、一つ一つの教室を紹介していく。


「最後はここね」

「……ここは?」


 そうして、最後にやって来たのは校舎の端にある空き教室。

 今よりもずっと生徒の数が多かった、それこそ美琴の父親の世代には使われていたが、時代とともに生徒が減っていき、今では誰も寄り付かなくなった。そんな場所だ。

 美琴が先導して教室に入り、その後ろをイスカが追う。そして教室に入った美琴が、すっと振り返った。


「……なんのつもりでしょうか」


 右手でピストルを作り、それを真っ直ぐにイスカに向ける。それは紛れもなく、攻撃の意思表示だった。


「カンナリさん」

「とぼけないで。いくら暗かったからって、殺しにかかって来た奴の顔を忘れるわけがないでしょう?」


 全身から霊力を立ち上らせ、美琴は全力でイスカを威嚇した。無論、妙な動きをすれば即座に霊砲で撃ち抜くつもりだ。わざわざ時間を掛けてここまでやって来たお陰で、帰宅部の人間はもう校舎には残っていないだろう。文化系の部室はここから遠く、運動部は校舎内に居らず、この教室は運動場からは見えない。教師だって、用事がなければここまでやって来ることはないだろう。

 だから、もしここで物音を立てたとしても、駆けつけて来る者は誰もいない。


「…………」

「…………」


 静かに見つめ合う二人。

 あるいは逢瀬にも見える沈黙を破ったのは、イスカ・デカルトの方だった。


「なんだ、やっぱりバレてたのか」


 先程までの困惑したような雰囲気は何処へやら。

 優しげな表情すら放り捨てて、転校生は、男は意地悪く笑った。知らず、美琴の右手に力が籠った。


「おっと、待て待て。確かに目立たなさそうな場所だが、こんな所で死体を作って大丈夫なのか?」

「何を……」

「俺と最後に会ったのがお前なのは、教師やクラスメイトたちだって知ってることだ。たとえ行方不明で処理できたとしても、間違いなくお前が疑われるぜ?」


 男は降参するように両手を振る。


「……疑われても、ここでアンタを処理できるなら充分割に合うと思うけど?」

「ほう、それはそれは……案外高評価だったらしいな」


 目を細め、男は小さく呟いた。


「お前がその気なら、俺は全力で抵抗するぞ? お前の光線がどうかは知らないが、俺の術は破壊力抜群だ。お前が無事でも校舎が無事で済むとは思うなよ」

「この状況から抵抗できると思うわけ? アンタが何かするより、私が撃つ方が速いに決まってるでしょ」

「いくら何でも見縊りすぎだ。俺が何の仕込みもせず、お前と接触したとでも思っているのか?」


 男の余裕な態度に、美琴はこめかみをピクリと動かした。


「……嘘ね。もし術を使っていたなら、私が見逃す筈ない」

「誰もさっき、今日仕込んだなんて言ってないだろ」

「何を」

「生憎と、お前を殺せるような仕込みは用意できなかったが……お友達や先生が大事なら、その手を下げるのがオススメだ」

「っ! アンタ……!」

「俺だって、やりたくてやってるわけじゃないさ。ただ……俺も自分の命が可愛くてね」


 美琴は男を睨みつけた。もしも視線に魔力があったなら、射殺すことすら可能だったかもしれない。

 そして僅かな逡巡の末、美琴は歯を食いしばりながら右手を下げた。


「どーも、助かるよ」

「……で、アンタの目的は? 何のためにわざわざ転校なんて面倒なことを……」

「んー、まあ一番の目的は交渉だな」


 男、イスカが埃の積もった椅子に触れると、仄かな光と共に埃が払われた。使われていない空き教室にしては随分と綺麗になった、机を挟み向かい合う二つの椅子。イスカはその片方に腰掛け、美琴に向かって微笑んだ。

 座れ、ということだろう。


「で?」


 乱暴に椅子を引き、美琴は尊大に問いかけた。

 それにイスカは苦笑しながら、自分の要望を告げる。


「じゃあ一つ目、龍脈を使わせて欲しい」

「却下」

「……おいおい、良いのか? 一応、俺は人質を取っている立場なんだが」

「悪いけど、そこら辺の優先順位はもう付けてあるの。友達でも父親でも、龍脈とは比べられない」

「……ふぅん?」


 実のところを言えば、これは美琴のハッタリだった。龍脈は確かに大切だが、それでも優先順位は身内が上だ。

 しかし、そんなことはイスカには分からない。

 人質は生きているからこそ機能する。焦って殺してしまえば、イスカに美琴を止める術はない。美琴が今の姿勢を取っている限り、イスカが先走ることはないだろう。


「……まあ、それなら仕方ない。次の要望だ」

「まだあるわけ?」

「さっきの要望を受け入れてくれるなら、他は何も要らなかったさ。さておき、次の要望は停戦だ」

「停戦……お互いに攻撃するな、と?」

「その通り」


 したり顔でイスカが取り出したのは、随分と質の良さそうに見えるA4サイズ程の用紙だった。中身を確認してみれば、一番に目に入ったのは契約書の文字。ご丁寧に日本語で、尚且つ書式自体も日本の、美琴にも馴染みがある形だ。


「甲は乙に、乙は甲に対し、互いに生命、身体への加害行為を行わない?」

「もちろん要望に応じて書き換えるし、要項を追加しても良い」

「却下よ。アンタが龍脈を使おうとした時に止められないじゃない」

「…………仕方ない。なら、こうしよう」


 露骨に目を逸らし、溜息を吐いたイスカは何処からか取り出したペンを使い、手慣れた様子で契約書に内容を追加した。


「甲及び乙の財産、または権利の著しい侵害が確認された場合、それを保護する目的の為に限り、上記の契約を無視することができる……」

「要は、龍脈を守るためなら攻撃しても良いってことだ」


 なるほど。それであれば、確かに美琴にとっても問題はないかもしれない。

 だが。


「私に契約するメリットがないじゃない」


 そう。これでは美琴の利益がない。

 この契約を結んだところで、美琴にとっての変化は互いに不意打ちや闇討ちができなくなることだけ。

 現状、イスカに不意を打たれたところで負ける気はしていない。もしも不意打ち程度でどうにかなるのなら、イスカにはわざわざ契約を結ぶ理由はないのだから。である以上、この契約は手っ取り早くイスカを片付ける手段を一方的に奪われるだけだ。

 契約を結ぶ理由は存在しない、かに思われた。


「そうだな。だから、一つ約束をしよう。もしお前がこれにサインをしたら、俺はお前の家族や友人に危害を加えない」


 それは、美琴にとっても魅力的な提案だった。


「……約束? 契約じゃなくて?」


 しかしだからこそ、安易に乗るわけにはいかない。

 停戦を求められようが、イスカ・デカルトは敵なのだから。


「まあ、契約でも問題ないんだが……もしかしたら、お前が友人に頼んで俺を殺しに来るかもしれない」

「誰がそんな……」

「お前が頼まなくても、個人的な事情で襲われる可能性もある。人間、何があるか分からないし……何より、この危険性はお前も同じだぜ?」


 顔に似合わぬ苦い顔で、イスカはそう言った。


「……なら、一つ目の文に追加すれば良いじゃない。そうすれば、自分の身は守れるでしょう」

「それも避けたいな。家族はともかく、友人は定義付けが難しい。下手をすれば、ただの顔見知りでも友人と判定されるかもしれない」

「アンタが何もしなければ良いでしょう」

「いやほらそれはさ、世の中には事故ってものがあってさ、うっかり巻き込むこともあるだろ?」

「ないわよ」


 ばっさりと切り捨てても、イスカが主張を曲げようとする様子はない。こうも頑なであれば、美琴が約束を破る気なのではないかと勘繰るのも無理はないだろう。


「……信用が無いのは理解するが、本当に約束を破る気はないよ」

「どうだかね」

「俺だって神秘側の人間だ。わざわざ他人にバレるようなことはしないさ。人質も、お前が契約してくれるなら取る必要はない。こっちには身内がいないから、カタギに手を出すと後々ややこしくなるしな」


 そう言われれば、確かに納得できるような気がする。だが、ここで口車に乗り、素直に契約するのは早計だ。もっと深く、冷静に、この契約がもたらすものについて考えなければ。


「ま、でも、お前が俺から龍脈を守り切る自信がないなら仕方ない」

「……は?????」

「だってそうだろ? 契約を結んでも、お前がやることは変わらない。人質よりも龍脈が大事だって言うなら、龍脈を奪いに来た時殺せば良い。不意打ち闇討ちが縛られたって、お前が俺に勝てるなら、こんな契約したからって何も不利にならない」


 ひく、と美琴の頬が引き攣った。


「それなのに、何故お前は消極的なのか。答えは簡単。お前が、俺にビビってるからだろ?」


 なるほど。安い挑発だ。

 確かに、美琴は結んだところで困るという程のことはない。しかし逆に言えば、イスカは結ばなければ困るということ。であるならば、ここは挑発に乗らず、より有利な条件を求めるべきだ。


「はぁー??? 別にアンタ如きにビビってるわけないし。良いわよ、そのペン貸して」


 イスカがくるくると弄ぶペンをひったくり、美琴は力強い筆跡で契約書に己の名前を記入した。悲しいかな。こと神秘関連、特に戦闘に関して、彼女の自尊心はスカイツリーよりも余程高かった。それこそ、挑発だと理解していても乗らずにはいられぬ程に。

 想定以上にあっさりと契約が成立してしまい、思わずイスカもにっこりである。やっぱりやめた、などと言われないうちに、イスカも新たなペンを取り出し、さらさらと自分の名前を記入した。


「よし、これで契約成立だ」


 インクを乾かすように契約書を振るい、イスカがパチンと指を鳴らした。すると、二人がサインした契約書が燃え上がり、瞬く間に灰となった。


「……ねえ、燃えちゃったけど」

「うん? あぁ、契約は初めて……というか、こっちだとこういうのは使わないのか」


 イスカは得心したように頷いた。


「心配しなくても、燃えたのは正式な契約の手順だ。そもそも、契約の本質は約束であって、書面は飾り、とまでは言わないが、別に重要でもない。要は俺たちの中に共通の認識を作るのが目的だからな」

「なるほどね?」


 美琴はまるで全てを理解したかのように相槌を打った。ちなみに言うと、いまいち理解はできていない。とはいえ、そんなことはイスカに関係のない話だ。美琴が理解していようと、いなかろうと、契約がチャラになるようなことはないのだから。しかし、契約を執り行った者として、最低限の義務は果たさなければならない。

 俗に、説明責任と呼ばれるものである。

 ごそごそと鞄を漁り、イスカは再び質の良さそうな、具体的には先程の契約書とよく似た用紙を取り出し、美琴に手渡した。


「これは?」

「さっきの契約書の写しだ。重要でもないが、内容を確認できないと不便だろう?」


 当然と言えば当然の話だ。人間は細かい文面を全て覚えていられるほど几帳面でもなければ、記憶も正しくは保てない。今は大丈夫でも、数日、数週間も経てば細部はあやふやになっていくだろう。


「再発行はできないから大事にしてもらうとして、じゃあ次は契約違反のペナルティについて話そうか」

「……あっ。え、ちょっ! 何で契約する前に言わないの!?」

「聞かれなかったから。けど、複雑なことは何もないよ」


 いくらなんでも、罰則を聞かずに契約したのは早計どころか愚かである。予め説明しないのも悪質ではあるが、この場合どちらに非があるのかは微妙なところだ。


「契約を破ろうとした場合、まず警告として心臓が痛む。そして、それを無視して契約を破るとペナルティだ」

「で、そのペナルティって?」

「死ぬ」

「……まあ、そんなことだとは思ったわ」


 軽く目を伏せ、美琴は溜息を吐いた。それこそ、穏当な罰則しかないなら契約する意味もないのだから、ある意味では順当とも言える。


「それで、契約の破棄はどうすればいいのかしら?」

「契約を破棄する、という契約を新しく結ぶのが一般的だな。他にも方法はあるが、何を選ぶにしろお互いの同意は必須だ。破棄したいなら、それなりの物を用意してもらおう」


 それなりの物、とは言うが、イスカが要求するのは間違いなく龍脈だろう。それ以外、例えば金銀財宝を提示したところで首を縦に振るとは、美琴には思えなかった。

 これで、美琴はイスカが龍脈を奪いに来るまで、彼を排除すること命令ができなくなった。つまり、もうしばらくの間、このいけ好かない男とクラスメイトをしなければならないわけだ。


「ま、これからよろしく頼むよ。カンナリさん?」


 イスカが、朗らかに手を差し伸べた。

 なるほど、やはり顔は良い。

 しかし中身が伴っていなければ、観賞用にすら向かないのだと、美琴は初めて理解した。




 さておき、これは余談だが、握手をするのは癪だったので、美琴は無視して帰った。

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