第3話 さらば、ファイアーバンブー
「うおおおおぉ――――!!」
俺は叫んだ。クズの発言を打ち消すように全力で。そして、全速力でファイアーバンブーの元へと駆け出す。
「や、ヤメロォォォ――!?」
「止めるんだ山田! それはもはや竹トンボバトルじゃない! !」
クズの声と教師の静止の声が聞こえたが、スルー。俺の竹トンボが壊された際に、こちらは会話しようとしたのに、無視されたのだから、こっちも話を聞いてあげないのだ。
俺はファイアーバンブーの元に辿り着き、勢いそのままに右手で持っている箒をスイング。
竹で出来ているだけあってファイアーバンブーは、カコン、といういい音が鳴って地面に落下した。
クズの悲鳴が聞こえる。
「ファ、ファイアーバンブーゥゥ――――!?」
と、下で風を切る音がしたので、もしやと思って見てみると、ファイアーバンブーがヨロヨロして、地面スレスレだが、なんとか飛行していた。
さすがファンタジーな竹トンボなだけあって、しぶとい。
手はゆるめない。
「おらおらおらおらおら!!」
俺は、ファイアーバンブーを箒で滅多打ちに叩いた。叩いて、叩いて、叩き続ける。
「アアアアアアアアア――――!!!」
クズの悲鳴が、やがて慟哭へと変わり、言葉にならない叫びを上げた。
「待て!山田!」
教師がまた静止するよう伝えてくるが、無視しようとして――。
「それ以上やるなら、俺は教師として、いや、一人の竹トンボバトラーとして、見過ごす訳にはいかない!」
何かカッコいいこと言い出してるけど、お前……生徒が虐め? られてる時に動かず。竹トンボバトルのルール違反の時に勇気を振り絞ったのか知らんけど、強気に出てくるとか……もう教師として向いてないから、辞職した方がいいぞ……。てか、クビになれ。
あと――、
「止める理由が無いんですけど?」
俺には大義名分がある。向こうが竹トンボを破壊してきたので、こちらも竹トンボを一個破壊した。
「いや、ある。――山田……日本竹トンボ協会は知っているな」
日本竹トンボ協会……日本中の竹トンボを事実上、管理(笑)している馬鹿みたいな組織だ。一般常識なので、俺でも一応知っている。
「知っていますが、日本竹トンボ協会が今、俺がファイアーバンブー(笑)の破壊を止めるのと関係あるんですか?」
クズも竹トンボを沢山破壊してるし、俺もいいやろ。
「……あるとも。日本竹トンボ協会の定めた条約――その第一条に、『竹トンボバトルは互いの竹トンボで競い合う神聖な決闘であり、それを汚す者はなんびとたりとも日本竹トンボ協会は決して許さず、必ず裁く』、とある。
山田、お前は神聖なる竹トンボバトルを汚した。ここには、俺だけではなく、観客の生徒達もいる。俺達が日本竹トンボ協会に訴えれば、お前は厳罰に処されることだろう」
へぇ……竹トンボ協会は知ってるけど、条約までは、全然知らなかった。くだらなすぎて、覚える気にもならないし。てか、厳罰って……なにさ。これ、そんな罪なの?
「……それで?」
「分からないか? お前は既に手遅れだが、箒でテイオーのファイアーバンブーを完全に壊してしまえば、さらに罪を重ねることになる。
――もうここで止めておけ」
――――――――――――――――――――
重い罰ねぇ……罰金とかでも嫌なんだが。まさか刑務所送り、というのは流石に無いよな? 無いと思いたい。
「厳罰……ってどんなのです?」
「……最悪だと、竹トンボ協会から、竹トンボに関するあらゆる接触が禁止される。
どんな大悪党でも泣き叫んで許しを請う、最も恐ろしい厳罰だ」
「はい?」
迫真の表情で、厳罰について、語り出す教師。
「ッ――!! あぁ……口にするだけでも恐ろしい!!
……この厳罰はな……もう二度と、竹トンボのどの大会にも参加は出来なくなり、あの……全人類が夢見る竹トンボの世界大会――にも永久に出場権を失うってことだ!
それだけじゃない……竹トンボの所有までもが禁止されてしまうんだ!
……分かったな、山田! お前はまだ中学生。破壊さえしなければ、まだやり直す機会は与えられる筈だ。
テイオーに謝って、和解しろ!」
そっか……竹トンボの大会に出れなくなったり、所有権を失うと……ふむ。
全然いいよ!
というか、それぐらいでいいの?
「分かりました」
「良かった……分かってくれたか」
「はい! ――じゃあ壊しますね!」
「は?」
俺は、再び、ファイアーバンブーに箒でバシバシ叩きまくる。
「話を聞いていなかったのか!?
冷静になれ、山田! お前は錯乱している!」
竹トンボが一生出来なくなったところで、なんだというのだ。痛くも痒くもない!!
それよりも、にっくきクズに俺が謝らないといけない方が遥かに嫌だ。
――――そうして、ファイアーバンブーは見るも無惨なゴミになった。
観客達は、誰も喋らない。先程まで騒いでいた、教師も沈黙している。場は静寂に包まれ、
「……こんな、こんな凶行。許されていい、訳がない」
ようやく、クズがポツリと呟いた。
「正当防衛だから。
あとファイアーバンブーとかいうゴミの残骸集めといたから、返すよ」
チリトリに集めたファイアーバンブーの残骸は裏庭の砂と一緒になって汚かったが、チリトリごとクズに、渡してあげた。
「あ、ぁぁ。ファイアー、バンブー。こんな……試合すらさせて貰えず、ムチャクチャな暴力でこんな姿に」
「じゃ、俺はここで。
――あ、そうだ。俺は竹トンボ協会に裁かれるんだろうけど、その時に、お前のせいでこんなことになったんだって精一杯主張して、お前の悪行をバラしまくるから!
お前にも、竹トンボとの接触が禁止されることを祈っているよ!」
「は……?俺は……関係ないだろ――!?」
「何言ってんだ。実際のところ、お前が原因だろ? 多分、竹トンボ協会がついでにお前も逮捕してくれるんじゃないかって思ってる。
――道連れさ!この際、お前も一緒に裁かれようぜ☆」
「い……やだ……嫌だぁぁぁぁぁ――!
俺は、まだ竹トンボがしたいよぉ! 止めてくれ!
なんでこんなことにぃぃ!?
関わるんじゃなかった! お前は悪魔だ! なんで、竹トンボが永遠に出来なくなるってのに、笑っていられるんだよ!」
クズに近付いて、耳元で俺は囁いた。
「どうでもいいから」
「ひぃ……」
クズは化け物を見る目で俺を見てくる。失礼な奴だ。
ああ……でも、俺にも少し後悔がある。それは――竹トンボを買ったこと。竹トンボを買った五万円で、今月発売のゲーム機を買っておけば良かったな、と俺は後悔した。
――――――――――――――――――
二週間後。
日本竹トンボ協会から、一人の女性が俺のクラスの副担任として、赴任してきた。
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