第2話 竹トンボ 対 人間



 クズに呼び出された場所は学校の裏庭だった。見えにくい場所を選んだということは、俺にトドメを差す為に徹底的にやるつもりなのだろう。これは、負けられない戦いになった。

 ……まぁ、といっても、負けた所で竹トンボを破壊して、悪口を言うぐらいが奴の限界な気もするが……。ホビアニの世界の人間というのは、どうも生温い。



 

 そんなことを考えている間に、俺は中庭へと辿り着いた。手には、トイレの掃除用具置き場から拝借してきたほうきとチリトリ。

 

 うむ。竹トンボバトルなのに、竹トンボは持ってきていないが、準備は万端だ。


 クズは既に、腕を組んでカッコつけながら待ち構えていた。まわりには、クズが集めたのであろう観客生徒が沢山いる。

 クズは俺の姿を確認すると、呆けた顔をして「は? なんで箒とチリトリを持ってんだ?」と尋ねてきたが、無視すると、こめかみに青筋を立て、一瞬ブチ切れた顔になり、大きな声で宣言した。


「これから、俺様に逆らった馬鹿の公開処刑を始める!!

 罪状は、俺様を警察に訴えやがった事だ!! ――まじでふざけやがって!! 返り討ちにしてやったとはいえ、俺の堪忍の尾も切れたぞ!!

 絶対に……絶対に許さネェ」


 警察の件でクズはかなりお怒りのようだ。自業自得なのに、本当に救いようのない。

 ……だが、だからこそ、こちらもナニヲヤッタとしても心が痛まない。


「おい、審判係出てこい」


 クズがそう言うと、以前、俺の竹トンボを回収し損なった原因である、例の教師がヘコヘコしながら、出てきた。

 向こう側に有利な判定をする審判とか、普通に竹トンボバトルをしていたら、最悪だったろうな、と思う。今はどうかって? 竹トンボバトルをする気ないし、どうでもいい。

 

 

「 試合開始は5分後だ。それまでは竹トンボに回転を加えるアップも自由。

 サァ、竹トンボを構えな!!テメェにとって最後となる竹トンボバトルを始めようゼェ!!」


 クズがギラギラとした目を俺に向け、好戦的な笑みを浮かべた。どうやら、試合を始める気のようだ。懐から、あの名前がダサい竹トンボ。ファイアーバンブーを出すと、ガニ股になり、両手を体の前に持って行った。

 そして――右手の指の付け根で挟み、左手は動かさずに右手を引いたり押したりすることで、ファイアーバンブーに凄まじい回転をかけていった。


「フゥフゥ!! ウオオオオオ――――――!!!! 征くぞファイアーバンブーゥゥ――――!!!」


 クズは雄叫びを上げ、回転を加える手の速度はグングン上がっていった。その姿は、向こうからしたら真剣なのだろうが、転生者である俺から見たら、滑稽で失笑してしまうぐらい可笑しな姿だ。なんてったって、竹トンボを必死にコシコシしてるのだから。

 

 だが、この世界の人間にとっては、違う様で「くっ、とんでもねぇ回転だ!」「それでいて、体はリラックスしていて、技までもが込められているッ!」「あれが警察さえも退けるテイオーさんとファイアーバンブーの強さを支えているのかッ!」――なんか熱心にクズが必死に竹トンボに回転を加える姿に感動している。


「ウオオオオオオオオ――――!! 」


 まだ叫びながら、回転を加えてる……理解出来ねぇわ。


 ――と、呆れてる俺に審判の例の教師が話し掛けてきた。


「…………山田。早くお前も竹トンボを準備しろ。竹トンボを壊されるのが嫌なのは分かるが――これは安易に警察に訴えてテイオーを刺激したお前の自業自得だ。俺には止めることは出来ない。……無力な俺を許してくれよ……俺の竹トンボもテイオーに人質にとられているんだ」


 こいつほんとさぁ。もうこいつを先生って呼びたくないんだけど。


「……準備ならもう出来ているので、いつでも試合を始めてもらって構いませんよ」


「……? それはどういうことだ? 竹トンボを持っていないようだが……?」


 返答するのも面倒なので、無視しようとした丁度、その時。観客がざわめき出した。

 ちらりと、クズの方を見ると奴のファイアーバンブーが空に打ち上がっていた。炎のようなエフェクトも出ている。時間も丁度五分経過だ。


 クズは肩で呼吸をしながら、ファイアーバンブーに指示を出し、降下させ、俺とクズの真ん中ぐらいの位置でホバリングを始めさせた。


「……おい、テメェの竹トンボは?

 やらねぇなんて許されねぇぞ?」


「はは……やるさ」


「ッ!! 何笑ってんだテメェ!!」


「相手ならもうここにいる!」


「ハァ?」


「相手はこの俺自身だ!」


 右手に箒。左手にチリトリを持って、俺はファイアーバンブーの前に立ちふさがった。


 学校の中庭の誰もが沈黙した。誰もが、信じられねぇといった顔で俺を見てくる。


 最初に我に返ったのは、クズだった。


「な、何言ってやがる!? 人間が出るなんて反則に決まってんだろぉ!? 竹トンボバトルは竹トンボ同士で競い合う勝負なんだぞ!?

 雑魚とはいえ、一人の竹トンボバトラーとして、絶対に破ってはいけないルールってもんがあるってことぐらいは理解してるハズだ! 」


 うるせぇ!

 俺の辞書にそんなルールは存在しねぇ! そもそも竹トンボバトラーとかいうダサいのになった覚えなんてねぇから!!


 さぁ、いくぞ――! ダイレクトアタックだ!!


 

  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る