ホビアニのような世界に転生した転生者さん、タブーを犯してしまいました

出来立てホヤホヤの鯛焼き

第1話 ホビアニの禁忌



 この世界ヤベェ。 by 山田太郎


 自己紹介をしよう。俺の名は、山田太郎。

 ピチピチの中学一年生であり――二度目の生を得た、転生者でもある。

 

 俺のことは――まぁ名前から分かる通り、一般人であり、大して語ることは無い。なので、早速だが本題に入る。


 まず言いたいのが、前述した通り、この世界はオカシイ、ということだ。

 そう感じるのは、俺が転生者だからだろう。

 ――この世界の他の人間と転生した俺とでは、致命的なまでに価値観が違っていたのだ。

 

 俺が転生した、この世界はいわゆるホビアニのような世界観である。


 竹トンボ。これがこの世界を理だ。え、何言っているか分からない? 大丈夫、十三年過ごして来た俺も未だに混乱してる。

 兎に角にも、竹トンボを戦わせる空中バトルが流行っているのだ。

  

 世界大会はあるし、スポンサーもついていたりする程の人気を誇っており、サッカーとかを差し置いて、竹トンボバトルが一強なのである。

 竹トンボで戦うのってスポーツなのか? 俺はこの疑問にずっと悩まされている。


 もちろん、只の竹トンボでは無い。謎の力が働いているのか、指示を出したら言うことを聞くし、構造上有り得ないぐらい長い間飛ぶし、何故か炎とか水とか、果てには動物とか、そんなエフェクトのようなものまで出てくる始末。

 ……やっぱ、この世界オカシイわ(二回目)。


  

 だが、世界的なブームだし、周りの人も誰もがやっているので、流行りにノッて、俺も愛用の竹トンボをお小遣いや落とし玉を貯めて買い、エンジョイ勢として、偶にバトルして遊んでいた。

 この世界に生まれた以上、周囲に溶け込んでおかないと異物扱いされそうだ、という建前の元、俺もファンタジーな竹トンボが少し気になっていたのだ。

  

 だけど、この世界の人の竹トンボに対する熱量は異常だ。

 俺とて、愛用の竹トンボは大切に扱っている。スマホと同じぐらいには大切だ。(だって、五万円もしたし)


 でも、この世界の人は、竹トンボを自分の半身とか言い出したり、食事中も寝てる時も一緒に過ごしてきた家族とか言い出す奴までいる。

 ……うん……ヤバい。



 

――――――――――――――――――




 そんなこんなで、周りにドン引きしながらも、適当に過ごして来た俺の平和な日常は――――――ある事件が起きたことで、突然終わりを告げた。


 原因は、俺の通っている中学校でイキッている一人のクズ。たしか禍津日まがつひテイオー、とかいう名前だった。

 

 ホビアニにおいて、学校最強の悪役が好き勝手している事が多々ある。クズは正にそんな奴だった。

 そのクズは中三で、新たに入ってきた中一の新入生に対して、竹トンボバトルを無理矢理挑み、ボコボコにした後、人の竹トンボを破壊する人間のゴミだ。当たり前だが、みんなに嫌われている。

 もちろん、竹トンボバトルに勝ったからといって、負けた方の竹トンボを破壊していい権利なんてない。許されていい訳がないのだ。


 しかし、どうしようもないゴミだが、バトルが強いばっかりに、手が着けられないらしい。 ……お前のこと誰が好きなん。


 おっと、辛辣過ぎたかな。

 だが、許して欲しい。


 俺も被害者なのだ。


 そう――――俺のお小遣いやら、お年玉やらを貯めて、五万円で買った、俺の竹トンボを奴にぶっ壊された。


 勝負したくないって言ったら、クズが試合でボコボコにして、従わせている教師に、無理矢理試合を組まされて、戦うことなり――、


 普通に負けた。すぐに竹トンボを回収して、家に逃げようとしたが、クズの手下になった教師に「すみません、すみません」とか言われながら、抑えられて動けなかった。あの教師も許さん。

 ならば、と会話で話し合おうとしたが、クズは頭がオカシイようで、説得する間もなく俺の竹トンボを踏みつけて破壊、自分の持論をベラベラと語り始めた。


「フハハハ――ッ!! 負け犬の願いなんて聞くかよ、馬鹿め!!

 この世界では、竹トンボバトルで強い奴が全て!!――――そして、俺様はこの中学校で最強の男だ!! 俺とこのに勝てる奴なんて誰もいない!!

 分かるか?? お前らは俺に従うしかないんだヨォ!!」


 クズは、手に持った竹トンボ――を見せつけた。日本語にしたら、火の竹だ。ダサい。


「弱い奴に人権なんてネェ!! てか、弱い癖に竹トンボなんてやんなよ!!

 あぁ、そうだ!――よし、決定! お前、もう竹トンボバトル二度とするな。

 見せしめって奴だ! 俺の機嫌を損ねた奴は、二度と竹トンボバトルが出来なくなるっていう前例だ!

 おい、雑魚! テメェ破ったら分かってんな?」


 誰が聞くかよ、馬鹿が。

 散々なボロクソに言われ、俺は愛用だった竹トンボの残骸を集めて帰った。俺でさえ、五万円の竹トンボを失った悲しみでグッタリだが、他の竹トンボを相棒だと思ってる人はそんな比ではなく、ショックで学校に来なくなっている人もかなりいるらしい。


 


 後日、俺は警察にクズを訴えた。



 


 だが、その警察もその男に竹トンボバトルで敗北し、竹トンボを破壊されて、泣き寝入りしたそうだ。

 …………何やってんだ!!

  な・ぜ! 捕まえるのに、竹トンボバトルしてる!

 ピストルとかあるだろ!

 竹トンボバトルで負けましたじゃねぇよ! ざけんな!


 そう――警察は無力だった。この世界では、竹トンボバトルの結果が全てだった。


 

 そして――俺は、教師越しにクズに呼び出された。

 訴えた警察が俺のことを吐いたらしく、俺が逆らったからトドメを刺すらしい。竹トンボバトルで笑。


 俺はもう竹トンボなんて持ってない。トイレでどうするかな、と考えて、いいことを思いついた。トイレの鏡を見ると、俺の目はぐーるぐーる渦巻いている。口は歪んで、自然と嗤っていた。


――あは………………なんだ。簡単じゃん。

 壊せばいいんだ。俺の竹トンボも壊された。壊し返せばいい。バトルなんて、ちゃんとやってやる義理なんて無い。

 アハハハハハハハハハハハハ!!!! 五万円の恨み!!! ! グジャグシャにしてやるよ!!!


 

 俺は廊下をスキップしながらクズの元へ向かう。心は春風のように爽やかな気分だった。

 あのクズは、たしかに竹トンボバトルが強いのかもしれない。中学校の支配者になるぐらいだ。ただ、それは相手が竹トンボバトルをしてくれたらの話。この世界の人間はどんな悪党でも、みんな竹トンボで勝負の決着をつけるが、俺にそんな決まりは当てはまらない。


 今日でお前が最強だった日は終わりだ。さよなら、クズ!


 


 

 

 

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