第一話 出逢い
次の日。
目覚めた成戸は、屋敷の庭の桜の木の前に立っていた。
今日も、桜は、美しい花を咲かせている。
『この木が倒れる?本当なのか?』
蓮華の言葉を信じてないわけではないが成戸は、そんな事を考えていた。
絹の仕切り布がスッと開き、部屋から蓮華が出てきた。
綺麗な服に身を包んだ蓮華は、髪も綺麗に整え、白い肌に、赤い唇がまるで少女のように、美しかった。
蓮華は、縁側から庭におり、成戸の側へ来ると、そっと片手を木に伸ばし触れた。
その瞬間、メキメキと音を立て、桜の木は、二人の反対側へ倒れていく。
「こ、これは……!!」
驚いた顔で、木と蓮華を交互に見つめる成戸。
蓮華は、腕を組むと、フッと口元に笑みを浮かべる。
ドーンと、すごい音を立て、桜の木は倒れた。
「貴方様は、いったい……?!」
瞳を震わせ見つめる成戸に、蓮華は、静かに言う。
「この木は、病にかかっておったのだ。私は、その事をずっと以前から知っていた。それで、昨日は、この木に、お別れをしていたのだ。」
蓮華の言葉を信じられない思いで、成戸は聞いていた。
「信じられぬ……木が倒れるなんて。」
まだ驚きを隠せない成戸に、蓮華は言う。
「命あるものは、いつかは、終わる。自然の事なのだ。」
木が倒れた音に屋敷から出てきた橋姫と波人は、庭に倒れる桜の木に、驚いた顔をしている。
蓮華は、チラリと、橋姫の方に目を向けた。
その瞬間、慌てたように目を逸らすと、橋姫は、そそくさと屋敷の中へ入っていった。
それを見た蓮華は、少し寂しげに、軽く息をつく。
「其方は……私が怖いか?」
「えっ?」
眉を寄せ、成戸は、蓮華を見た。
蓮華は言う。
「……この木が倒れたのは、私が触れたからだと思っているのだろ?」
「いえ…そのような事……。」
「誤魔化さなくても良い。…母上は、私を恐れている。私には、生と死が見える。いや、みなにも見えるはずなのだ。その力に気付いてないだけなのだ。」
「私には……よく分かりません。」
小さく呟いた成戸に、蓮華は、フッと笑った。
それは、とても寂しい笑いだった。
「ですが、私は、蓮華様を怖いなどと思いませぬ。それより、蓮華様と、もっと親しくなりとうございます。」
成戸は、そう言うと、にっこりと笑った。
蓮華は、成戸の言葉を不思議な気持ちで聞いていた。
今まで、自分を恐れない者などいなかった。
ただ偶然に、蓮華が傍にいる時に起こった事を全て、蓮華がやったのだと噂した。
実の母親でさえ、自分を恐れ、近付こうとしないというのに。
「そうか……。まぁ、波人は、其方の事を気に入っているようだし、これからも、気軽に、ここへ来ると良い。」
そこまで言うと、蓮華は、縁側へと向かい、仕切り布を開け、部屋の中へと入っていった。
神童と呼ばれた者 こた神さま @kotakami
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