第3話 1-3 報復?ざまぁ?

 ン?

 もしかして「反応」を併用して変性させることができれば・・・。


 俺は丸箸まるばしと板の接触面を変性させてみた。

 単純に言って素材そのものの一部を有機化合物に変えたわけだ。


 木材の繊維、窒素、酸素、水、塗装面に含まれていた微量の化学物質、それらを融合反応させて何となくくっつく素材に変えてみた。

 できたモノは一体何だと問われても反応式もわからん俺にはシカとは答えられん。


 何となくこうすれば粘着性の物質に変わると思って造ったから、できたモノが何なのかは知らん。

 こいつは生成も消去(解消というか元に戻す?)も簡単にできる。


 これが素早くできるようになればスパイダーマンもどきもあり得るかも・・・。

 まぁ、流石に蜘蛛の糸で摩天楼を振り子のように飛び回ることはできないけれど、垂直の壁を登るぐらいならばできる可能性がある。


 ン、・・・。

 爆弾に垂直の壁のぼり?


 別に俺は強盗になったり、テロリストになったりするつもりはないからね。

 でも、やろうと思えばできそうな感じがしてしまうところが恐ろしいぜ。


 今更ながら、これって凄く怖いスキルたよね。

 俺は心底そう思ったよ。


 因みに俺のステータス値で上昇したのは、STRとVIT以外では、闘気がLV1に、ユニークスキルのResistanceとReactionが+1/5上昇、属性1の燃焼、分子運動、組成がLV1に、属性2の空間がLV1に上昇していた。


 ◇◇◇◇


 日は変わって木曜日、あれから何事もなく過ぎていたが、昼休みに例の七人組がまたウチのクラスに現れた。

 そうして小林さんを取り囲み、ねちねちと嫌がらせをしてる。


 流石に目に余ったので、俺は俺の机の上にスマホを縦において撮影しながら、闘気を張り巡らせて奴らに近づく。


「おい、いい加減にしろよ。

 お前ら、よそのクラスだろ。

 うちのクラスまで押しかけて来て、人に迷惑をかけるな。」


「ほう、これは、これは、先週ボコられたお兄ちゃんじゃないか。

 前回言ったよな。

 口を出すなって。

 今度はただじゃぁ済ませんぞ。」


 そう言いながら、手を振りかぶってグーで殴ろうとする。

 俺は、瞬時に俺の足元の抵抗を増大させ、逆に相手の足元の抵抗を少なくした。


 俺の頬に右手グーが当たるが、闘気に守られた俺の顔はびくともしない。

 むしろ、反発にあって足元の抵抗がやたら少なくなっている相手は見事にその場ですっころんだ。


 それを見て、周りにいる男三人が一斉に俺に殴りかかるが、同じ操作をしてやると見事に全員がひっくり返った。

 次は、血相を変えたスケバン擬きの三人が一斉に俺を蹴り上げてきた。


 俺は何もしないんだが、当然、足元がリンク並みに滑ってしまうから、男たちと同じ目にってすっころぶ。

 女たちはスカートを穿いているだけに、意図しない転倒で派手にスカートがまくれ上がり、パンツまで丸見えになった。


「何だ、お前ら俺にパンツ見せに来たのか?」


 そう揶揄からかうと、増々いきり立って皆で殴りかかって来るが、そのたびにすっころんでいる。

 力を入れている分だけ転び方が半端じゃない。


 所々に擦り傷を作っているようだ。

 で、本当に切れたのかポケットからカッターナイフを取り出した。


 構えているのは男が二人、女が一人だ。

 随分と用意の良いことだ。


 実は、俺の方も丁度前日に家の包丁でかなりの勢いで切り付けてみて、闘気で防御できるかどうか試したばっかりなんだ。

 多分、カッターナイフでも大丈夫だとは思うんだが、正直なところ絶対の自信があるわけではない。


 何度も言うが、俺はただ立っているだけで今まで一切手も足も出していない。

 ちょっとした注意と揶揄いの言葉だけは発したけどな。


 で、三人が一斉に切りかかってきた。

 結果は、見事に跳ね返った。


 カッターナイフの刃も俺には一切通じない。

 その結果を目の前にして、流石に奴らもビビり始めた。


 無抵抗だが、奴らの攻撃は全く俺には効いていないのだ。


「お前らなぁ、俺をヤルつもりならチャカでも持って来やがれ。

 それと、今後、俺のクラスにちょっかい掛けたら、今度は俺の方が殴りに行くが、それでもかまわないよな?

 刃物まで持ち出して、これだけのことをしでかしたんだ。

 それなりの覚悟はあるんだよな?」


 俺がそう言ってにらむと連中は流石さすがに震え上がった。

 俺が黙っていると、そそくさと奴らは逃げて行った。


 俺が自分の机に置いたスマホを確認すると、ばっちりと一部始終が映っていた。

 アングルを考えながら俺の立ち位置を決めていたから、ほとんどの奴らの動きが映っている。


 仮にめ事になるなら、こいつを公開するだけだ。

 七人の中の一人の父親がPTAの副会長をしているらしいと言うのは、あれ以後、親しく話しかけてくるようになった小林梓から聞いた話だ。


 奴らと揉める時は、場合によって証拠が必要という事だ。


 ◇◇◇◇


 案の定、翌日の金曜日に俺は職員室に呼ばれた。

 強面こわもての教師が指導員の様で、教頭と二人で待っていた。


 教頭先生が言う。


「秦山君、君ぃ、女の子を刃物で傷つけたんだって?

 PTAの副会長さんからクレームが来たんだよ。

 場合によっては退学モノなんだが、一応君からも事情を聞こうじゃないか。」


「へぇ、僕が刃物で女子を傷つけた?

 いつ、どこでの話ですか?」


「ム、シラを切るのかね。

 昨日の昼休み。

 場所は、1年3組の教室だ。」


「なるほど、あの時誰かが怪我をしたとそういうことですか。

 で、刃物っていうのはどこに在るんですか?」


「君が持っていたカッターナイフなのだろう?

 我々はそう聞いている。」


「僕は必要もないのにカッターナイフなんぞは持ち歩いたりしません。

 学校にも持って来ては居ませんよ。」


「嘘をつくな!」


 傍にいる佐々木某と言う強面の指導教諭が大声で怒鳴る。

 

「僕が、嘘ついて何の利益があるんですか?

 本当に、向こうがそんな申し立てをしているのなら、僕の方が逆に警察に告訴をしますけれど、学校側としてもそれで差し支えありませんよね?」


 の言葉を聞いて流石に教頭がひるんだ。


「告訴?

 一体何を告訴すると言うんだね?」


「昨日の昼休みに起きた一連の暴行事件です。

 証拠もありますけれど、見ますか?」


「証拠?

 どんな証拠だ。」


「スマホで昼休みに起きた一部始終を撮影してます。

 警察がダメと言うならネットに載せても構いませんけれど、見てみます?

 一目瞭然いちもくりょうぜんだと思いますよ。」


 俺はスマホで撮影したシーンを再生した。

 食い入るように二人が見ている。


 再生が終わって、彼らがため息をついた。

 そして佐々木某がぼそっと言った。


「確かに暴行事件だな。

 刃物まで持ち出して完全に傷害未遂だ。

 怪我をした女子生徒は、多分、持っていた刃物で自分を傷つけたんだろう。

 お前さんが無実だと言うのは分かった。

 教頭、どうしますか?」


「こんな証拠があればどうにもならん。

 だが、秦山君、できれば本件は大事おおごとにしたくない。

 映像は公表しないでほしい。」


「お言葉ですが、売り言葉に買い言葉です。

 仮にここに写っている七人が今後僕に報復しようとするならば、間違いなく告訴します。

 それから、今後、彼らがほかの者にも同様のいじめをしていれば、同じくこの画像をネットで流して徹底的に叩きます。

 仮にそうなれば、退学モノになるのは彼らの方でしょうね。

 まぁ、そんなことにならないよう先生方で頑張ってください。

 僕が譲歩できるのはそこまでです。

 因みに、これは今ご覧になった録画シーンのコピーが入っている記憶媒体です。

 相応の機器でパソコンなどにつなげば映像が見られるはずです。

 教頭先生にお預けします。

 PTAの副会長さんとやらには、しっかりと注意してくださいよ。

 息子なり娘なりの監督をしっかりしろと・・・。

 じゃぁ、これで失礼します。」


 教頭は苦り切った顔をしていたが、記憶媒体を机の上において、俺はさっさと職員室を出た。

 それから十日ほどすると、くだんの7人はそろって、私立高校へ転校して行った。

 

 さすがに俺と同じ高校に通わせておくと、例の映像が出回りかねないと親たちが判断したようだ。

 転校した先も通学に1時間近くかかる別の町の私立高校だった。


 自宅はこの町にあるわけだから、どこかで会う機会はあるかもしれないが、少なくとも彼らが何か悪さをした時に俺が目にする機会は減るわけだ。

 親御さん達も普段の子供の素行から考えて、できる範囲の対策をとったようだ。


 今の高校に居れば、当然教員の監視の目も強くなるのはわかりきっているからね。

 あの事件以来、指導教諭と思われる佐々木某が、暇さえあれば、7人を見張っているのを俺は知っている。


 当然のことながら、転校するまで奴らはすごくおとなしかった。

 俺に出くわすと、視線をらせ、こそこそと逃げ回るほどだった。


 とりあえず俺の通う高校から不逞の輩ふていのやからは減ったようだ。

 まぁ、ちょっとしたなのかな?

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