第51話 レヴィ=アータント
「見つけました!」
ボクは空を飛び探知魔法で魔王の居場所を探すとすぐにその位置をとらえ、地上にいるベルさんにそう伝えると返事を待たずに移動を始める。
「まって!」と聞こえた気がしたがボクはその言葉を振り切り放たれた矢の如く一直線で王都の空を横断し王都外壁の向こうへと飛んだ。感知した魔王の気配が弱っていてピンチなのを感じたからだ。
「ぐっ……!」
「もう終わりだよ
「多少……ですか?私たち以外の一緒に来た全ての王国兵がやられたというのに……?全く、アナタの楽天ぶりにはほとほと呆れますね――ってなぜアナタがここにいるんですか!!?」
王都の反対に位置した隠れ家から文字通り真っ直ぐ飛んできたボクの姿を最初に気づいたのは『大賢者』レヴィ=アータントだった。
レヴィの言葉に、遅れて勇者もボクの存在に気付き振り向くとすぐさま「クソがっ!」と悪態をつく。
ボクはこの二人の背後で今にも倒れそうな魔王の元へ今すぐに回復魔法を掛けに行きたいが……二人が邪魔だ。
今すぐに戦闘が始まる可能性を考慮していたがどうやら杞憂だったらしく何やら二人は揉め始めた。
「おい待てレヴィ!なんでアイツが飛んでやがる!?魔封魔法は浮遊魔法も封印するはずじゃねぇのかよ!レヴィ!どーなってんだ!」
「……おかしいですね。距離で副次効果の麻痺が弱くなるのは実験でわかっていましたが魔法を使えるようになるなんて……?はっ?!まさかっ?魔封魔法を解呪したとでも言うのですか?!」
レヴィはどうやら今の状況に、ボクが魔封魔法の解呪に成功したということに気がついたらしい。
ボクは返事をせず無言で肯定する。もう少し待ってくれよ魔王。隙が出来次第そちらへ向かうから。
「魔封魔法を解呪だぁ?!その解呪魔法はどうして唱えられんだよ!おかしいだろ?!」
「いえ……解呪魔法はいわゆる特権魔法なので魔封魔法の封印範囲に指定してなかったので……」
「はぁ?!!バカかオメーは?!解呪されたら意味ねぇだろうか!なんでそこを対策とらねぇんだ!あり得ねーだろ!!」
「……バ……バカ?!この私がバカ?!私がバカならアナタはどうなるんですか!今までどれだけ私がアナタのバカをフォローしてきたと思ってるんですか!?そもそもヤツが解呪魔法が使えるなんて知らなかったんですから仕方ないでしょう!!」
「解呪魔法をアレが使えるとか使えないとか抜きにテメーの魔法の最大のカウンターくらいケアしとけって話だろうがボケ!!!!」
勇者に詰められたレヴィは反論を諦め悔しそうに顔を滲ませている。……封印範囲って今、言ってたな。
なるほど、おそらくだが魔王の使った『
意気消沈したレヴィと勝ち誇った顔の勇者……今ならいける。
「『
ボクは二人の計画が薄れた瞬間を狙って魔王の元へ移動した。
「遅れてごめん!」
「……情けないのぅ。我が助けに来たはずが……助けられるとは…………」
勇者たちや兵士の攻撃を一身に受け続けたのであろう魔王は身体中が怪我だらけになっていた。巨大なドラゴン姿の魔王はそんな弱音を吐いて元の姿に、少女にしか見えない姿へと戻った。
「そんなことない、すげーカッコいい。本当に助かったよ、ありがとう」
少女の姿で身体を震わせ倒れ込む魔王にボクは感謝を告げ胸を貸す。
「はっ……人間に……感謝……される日が……くるとはな……さけな……い……」
息も絶え絶えに笑う魔王。
ボクはその頭に手を当てて――。
「『
「ははっ!ホントにキサマはバケモンじゃのぅ!!ウソみたいじゃ!全快じゃあ!ヒャッハーー!!」
一瞬で元気を取り戻した魔王は喜びのあまりぴょんぴょん飛び跳ねて謎の踊りをしている。
「ウソだろ?!」
今更ボクが移動していたことに気がつき全力で驚く勇者。
「だから嫌いなんですよアナタは!!」大賢者は賢さのかけらも感じない表情で怒りを露わにした。
「アンタらには聞きたいことが山のようにあるんだ」
ボクは極めて冷静に、未だ踊りくるう魔王を無視してシリアスな雰囲気を醸し出そうとする。
「……ん?あれ?なんじゃ?我もしかして今、空気読めてないんかのぅ?」
「……自覚があるのならそう言わずに黙ってくれるか?」
魔王に一瞬意識が持っていかれた瞬間、勇者が駆け出した。
いや、厳密に言えば逃げ出した。だな。
「バカなっ?!」走り去る勇者を見て裏切られたレヴィは驚きのあまり顔面が崩壊する。
先程までの憤怒の表情が今は見る影もない。
「なんちゅう逃げ足じゃ。さしもの我でもあそこまでは無理じゃぞ」
「えーと、……で?アンタはどうする?」
一人残されたレヴィに多少の同情をしつつ訊ねる。
「はぁ……策なしで真正面からアナタと争うほど愚かではありませんよ。……ちっ!あーあ。アナタさえいなければ私がこの世界で一番の魔法使いだったのになぁ……」
そう言って地べたに仰向けになり顔を抑えるレヴィはコレまで見た彼の中で最も人間臭く見えた。
これが本音で本心の彼なのかもしれない。
「なんじゃコイツ泣いとるのか?」
「……キモいしムカつくけど、イジってやるなよ」
「なんですかそれは?同情ですか?本当にムカつくなぁ……はぁ、もういい。負けを認めます。私はアナタのいない時代に生きることにしますね」
「は?」「なんじゃこいつ?」
ワケのわからないことを突如言い始めたレヴィにボクらは呆然とした。
「……私はもう、これ以上アナタたちと争う気はないので放っておいてもらえますか?」
レヴィは空を見上げ寝転び顔を隠したままそんなことを言い出したがボクらはそんなことを許すわけにはいかない。
「……そんなこと言われても信じられないだろ!それにお前はボクを、いやボクらを殺そうとした癖に都合が良すぎるだろ!」
「都合のいいやっちゃのぅ……」
魔王も呆れている。
「時 空間 無法 循環 奨励 荒廃――」
なんだ?急になにを言い始めたんだ……?前にもこんな風に支離滅裂なことを言い始めたことがあったような……??なんだったっけ?
魔王もよくわかっていないようだ。
「ダメ!!止めて!詠唱準備を終わらせないで!何か危険な魔法を唱えるかもしれない!!」
遠くからベルさんの声が聞こえた。
ボクを追ってきていたのか。
……ん?今なんて……。
って、そうだ!詠唱準備、強大な魔法を使う前に必要な言葉を唱えてなんたらって前に聞いてたのに!
レヴィの方を向くと準備が終わってしまったのか薄ら笑いを浮かべている。
「『
「『
ボクはレヴィがどんな魔法を使ったか判断する前に防御用の壁を大きく、分厚く生成した。
「……?」
なんの音もない。攻撃は不発だったのか?壁が分厚すぎただけ……とか?
「一瞬でこんだけの壁作れるんじゃから全く異能よのぉ……」土壁を叩きながら魔王は感心した様子でコチラに振り返る。
「いや、それよりレヴィは?どんな魔法を使われたかわからなかったけど不発だったのかな?」
ボクは魔王に訊ねるが返答は意外なところからやって来た。
「そうならない為の詠唱準備なのよー!」
土壁の向こう側からそんな声が聞こえた。
「ベルさん?!無事なんですか!?レヴィは?!」
「見た方が早いからこっちきて!!」
魔王の方を向くと魔王はなんだかつまらなそうな顔で頷いた。
ボクは土壁を解除しようとするが解除したところで生成した土は残るのでもういっそ放置しようとした所、向こう側からベルさんが魔法で解体してくれた。
「ありがとうございます……?!!」
土壁の向こうには身の丈よりもずっと大きな水晶のようなものに包まれたレヴィ=アータントが眠っていた……。
「どういうなんなんだコレは……?」
「隔絶魔法じゃろ?言っとったじゃないか。『崩剣のいない時代に生きる』とかなんとか。ちゃんと聞いてないから詳しく覚えとらんが」
「フニちゃんの言うとおりこれは隔絶魔法よ。術者の指定した年月誰の干渉も受けない魔法。……なんだけど多分アナタならどうにかできると思うけど……どうする?」
「どうするって言われても……」
攻撃して向かって来てくれれば倒したいと思うし、その結果命を奪ってしまうならそれは自然の営みと納得できる部分もあるけどコレは……。
「ここまで必死に逃げられるとちょっとだけど同情しちゃうって言うか……」
「ならコイツがいつか起きた時のヤツらに処分は任せた方がええじゃろ?我とかエルフの姫さまみたいな長命種に任せとけ?」元気になった魔王は胸を叩き任せろとアピールした。
「……まぁハートがそれでいいならいいけど?」
ボクは無言で頷く。
「それより勇者じゃろ!遠慮なしに切りつけよってあのバカ!」
魔王はさっきまでの戦闘を思い出したのか怒り始める。「やつは誰がなんと言おうと我が殺す!」
勇者、勇者か。
彼も先程、全力で逃げていた。
そう言えばこの人、敵前で見捨てられてたな……。
水晶体で眠るレヴィにボクは同情の眼差しを向ける。
「『変態』レヴィ=アータント。キミのオリジナル魔法の魔封魔法、強力だったよ。サヨナラ」
「……『大賢者』じゃろ?」
「『大賢者』ね」
「大賢者……」
「レヴィ=アータントが変態だなんて話聞いたことないわよね?」
「さぁ?我は魔族だから人間のウワサはとんと聞かんからのぅ。そもそもここ数十年で有名な人間なんてのは『崩剣』くらいじゃったよ」
……図書館で起きた話はちゃんと棺桶まで持っていくから安心して眠れ。
「よし!あとは勇者だ!」
「変態って呼ぶようなエピソードがあったのか?」
……興味津々な魔王のことを無視してボクは王都内へ足を進めるのだった。
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