第44話 VS王国魔法兵団
王都まで後いくらか、と行った所まで辿り着いボクとグレッグの前に王国魔法兵団が現れたのはそろそろ昼食時に差し掛かった頃だった。
浮遊魔法で運ばれたことで一時的に体調を崩したグレッグを一人、木陰で休ませてアウトラへと向かおうとする兵団の元へとボクは向かう。
昨日見た兵団の連中と同じ装備をしているのでまず間違いなくボクらの敵なんだろうけど万が一を考慮して先制攻撃は控えておく。
とにかく話を聞いてみよう。
浮遊魔法でゆっくりと近寄るとお互い声が届くかどうかの距離で向こうはコチラに気付き隊列を変更しているのが見えた。それが対空魔法を放つためのモノだとまだ知らなかったボクは何の防御姿勢も取らないままでいた。
「「「……」」」
地上にいる兵団が聞こえるか聞こえないか絶妙な程度で何か口を動かしているのが見えた瞬間、光線に襲われる。
それは老魔法使いが使った魔法で見覚えのあったボクは高速移動魔法で反射的に避ける。なにも話すことなく攻撃してきたので連中は敵で確定した。
ボクは事前に崩剣に詳しいグレッグから聞いた『過去のボクが得意としていた戦法』を実戦で試してみることにした。
浮遊魔法などの空を飛べる魔法でワザと相手に姿を晒し注目を集めた上で「『
すると相手はなるべく固まって行動しようと隊列が小さくまとまるので「『
「『
本当はその水を氷魔法で凍らせて全員を一網打尽にするらしいが……。
そんなことをする度胸がボクにはない。
今連中に氷魔法を使えば完封できる事はわかってるし、そうすることがアウトラの街を守る上で最適なのはわかってる。
……わかっているが……。連中の大半が怯えた表情を浮かべながら必死に沈まないよう生きようと必死にもがいてる姿を見てしまったボクにはできない……。
……ボクは土魔法を解除し彼らを土壁と水の中から解放する。善意からは無い、ただ誰かにとっての悪になる覚悟がボクにはなかっただけの話だ。
「はぁ……はぁ……っ!総員、攻撃態勢!!」
「舐めやがって崩剣め!」
いく人かの高級そうな装備をした魔法兵は足元もおぼつかないまま指揮を取ろうとしている。
「おい!お前らなにをしている……さっさと立たんか!」
必死に部下を鼓舞するがほとんどの兵士は体力も戦意も失ったようでぐったりとしている。
『いくつもの魔法を連続で使い相手を圧倒する』というグレッグの言っていた作戦は効果覿面。
彼らはもう烏合の衆と呼んで問題ないだろう。
「誰だよ……崩剣は弱体化してるって言ってたの……」
「名前だけとか嘘じゃねぇか……」
「簡単な掃討戦とか言ってたけど……辿り着くことすらできないなんて……」
「なんでずっと飛んでるんだ……?ホントは魔族か……?」
わかりやすく露骨に戦意喪失してしまった者たちが好き勝手言ってる。それを怒鳴りつける上官のような人の言葉が場を滑っていく。そもそも誰も聞いちゃいないんだ。
「すみません。本当はさっきの水責めを凍らせるべきだったんですけど……その、あまりに力量差があったのでやめちゃいました。降参してもらえますか?」
ボクは敵が目の前まで来ているのに部下たちを叱責することに夢中になってる偉そうな装備の魔法兵長的な人に声をかけた。
「ふざけるな!!『
ボクの言葉を聞いて振り向き様にそう唱えた魔法兵長的な人の攻撃をボクは高速移動魔法で避ける。
「……やったか!?」
ボクのいた場所にたった砂埃をみんなで覗き込んでいるのを側方からみるボクに一人の兵士が気がついたが指でシーっ!とやると口を手で抑えて頷いてくれた。
「はっ!崩剣と言えどこんなもんだ!田舎生まれの山猿が二度と調子に乗るなよ!」
魔法攻撃によって舞い上がったままの土埃に対してなにか手応えを感じたのか兵長は決め台詞的なものを吐き捨て部下たちの方へ振り返った。
「……」
その最中ボクを見かけたのだろう。見事なまでの二度見をしてボクの方を唖然として見ている。
「……戦力差がわかってもらえましたか?多分直撃しても中級回復魔法ですぐ完治しますし、そもそも当たりません。なので降参してください」
二度目の勧告を行うと数人の、いや数十人の兵士たちが頭に被っていた装備や手に持った武具を地面に置いてくれた。
「……お前ら何をしている!敵前逃亡は死罪だぞ!!ふざけるな!!」
「……無理ですよ。勝てるわけないんです」
「もうやめましょうよ……不意打ちでも勝てないんだから……」
怒る兵長は部下たちに向けて手を振り上げると魔法を唱えようとしたのでボクは兵長に向けて「『
「うああ!!」
風魔法で吹き飛んでいく兵長が情けない声をあげる。着地時に大怪我を負いそうなので高速移動魔法を使い飛んでいく兵長を空中で助けてあげることにした。
「あう……はう……」
とんでもないスピードで空を飛んだ恐怖なのか兵長はマトモに口を聞けない状態になってしまった。ボクは急いで魔法兵団のところへ兵長を運び「……あの兵長?さんがこんな感じになっちゃったんですけどまだ続けます……?」と訊ねる。
「……降参します」
誰も何も言わず気まずい時間がいくらか流れた後そんな声がどこかから聞こえた。
「お前、それはマズイだろ!」
「オレも降参します!」
「……オレも」
「お前らマジかよ!?」
何人かは未だ踏ん切りがつかない様子だが最初の一人を皮切りに続々と降参者が現れてくれた。
「助かります。ボクは大量殺人鬼になりたくなかったので……」感謝の意を告げると先程まで降参者を咎めていた元気そうな兵士たちも急いで武器を投げ捨てて降参してくれた。
「……お、おまえら、なにを、言っているんだ……」
気を取り戻した兵長が起き上がりながら部下たちに説教をしようとし始めたので高速移動魔法と浮遊魔法を併用し兵士たちの前から遠くへと運ぶ。
辺りに誰もいない場所まで兵長を運んだ後、耳元で囁く。
「あの場にいる全員を殺したら大量殺人鬼として裁かれるべきかもしれないけど……誰も見ていない、ここで一人だけなら……」
「降参します」
「ありがとうございます」
兵長は説得に応じてくれたので満面の笑みを浮かべて終戦の握手を交わした。
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