第43話 作戦は真っすぐいって ぶっ飛ばす
みんなで夕食を囲んでいただけのはずがいつの間にか決起集会のようなものに成り代わっていた夜を越え決戦の朝を迎えたが空模様よろしくない。
王都襲撃作戦の細かい概要をロイ様たちに訊ねたところボクのやる事は凄く単純なもので、とにかく王家の悪い話を喧伝し存在をアピールして勇者パーティを始めとした王都を護るヤツらを引きつけるというものだった。
ボクが注意を集める、その間にロイ様やベルさんが先に王都へ侵入してるピジョンと合流し王城へと乗り込み現国王アーデハルトと決着をつける運びだ。
この話を聞いた時ボクは大役というよりまるでスケープゴートのような扱いにショックを受けたが、移動魔法もあるし逃げ回るだけでも効果があるのよ。とベルさんから説得されて今は納得している。
怖くないとは言えないけど……。
「残念ながらあいにくの雨だが、作戦は変わらない。みんな頼むぞ」王都へと向かう準備を進めているとロイ様が現れその場にいた全員に声をかけた。
「「はい!」」
ベルさんやロイ様を道中護るために選ばれた戦闘魔法を得意とするエルフたちは気合十分といった調子で返事をする。
昨日逃してしまった勇者が王都へボクらの存在を伝えていれば間違いなくコチラを攻撃しようと昨日以上の戦力を注ぎ込むことが予想できるのでアウトラに戦力を多めに置く必要があった。なので今日、同行する人の数はあくまでも少数精鋭。
「……遅いな。」
ロイ様は遠くを見て呟く。
王都へ向かう精鋭部隊最後の一人の到着をみんなで待っているとベルさんが「ハートは先に行かせてもいいのでは?王国魔法兵団が向かっているのなら鉢合うかもしれないし」とロイ様に提案した。
「……え?ボク一人で行くんですか?無理ですよ!道もわからないし」
「一人じゃいかせねぇよ!」とグレッグが親指を立ててボクにウインクしたが嬉しくない。
二人でも心細いだろうが!!
「確かに、少数とは言えわざわざ全軍で動く必要もないか……。しかしグレッグは大丈夫なのか?」
「大丈夫です!ハートも変身魔法使えるんで何も問題ないっす!」
そう、ボクらがエルフを含めた集まりであるという事を一般の人たちに最後の瞬間まで気が付かれるわけにはいかないのである。
あくまでもロイ様を王座に座らさせるために、人間が生きやすくするために行動を起こしたと思われなければ一般人の協力は得られないと考えてのことらしい。
「ならパーシィを待たずに行ってもいいかもな」
その言葉で最後の一人である変身魔法の専門家、パーシィを待たずにボクとグレッグはアウトラを一足先に離れ王都へ向かうこととなってしまった。
「――どうしてこうなった……」
「なんか言ったか?」
王都へと向かって歩いているとボクのため息混じりの独り言にグレッグが耳聡く反応してくる。
「……ボクって流されやすいのかな?自主性が弱いっていうか。なんか知らないうちに自分のことがドンドン決まっていくような……」
うっすらと抱いていた不満とまでは言わないが気になっていた部分を打ち明ける。
「んー……?あぁ今回のこととかなー…………なんかウジウジしててめんどくさいからお前一人で王都まで飛んでけよ。移動魔法で瞬間移動できるんだし」
なんだかグレッグが急に不機嫌になった……。
確かに移動魔法を使えば王都へ多分飛べるけど見えない距離を移動するのは向こうの状況とかわからないから微妙に怖いんだよな。ロックデールに飛んだ時は地元だから安全な場所を選んで飛べたけど王都は一度も(ボクの記憶では)行ったことがないのでどこへ飛べるかわからない……けど。
「……わかった。
「待てって!嘘だよ!一人で行かせねぇって言ってんだろ!」
グレッグに口を抑えられモゴモゴと言うことしかできない。
「そういうとこだよって実践したかっただけだよ。ちょっとハッキリ言われたら尻すぼんじゃって流されるの、辛いだけだと思うぜ。嫌な事は嫌ってその瞬間言わないと人ってのは馬鹿みたいだけど、勝手に自分に都合よく解釈して受け取るんだから。わかってくれ!察してくれ!なんてやめとけよ」
グレッグが熱く語る。説得力がある力説にボクはたじろぎ、頷く。
「そういうところだって!ハッキリ言われたらすぐ折れるのよくないって言ったばかりだろ!」
グレッグは歯痒そうにするが「今のは仕方ないだろ!普通の肯定もできないじゃん!」とボクも反論すると苦虫を噛んだような表情を浮かべて「……確かに……」と言ったきりグレッグは黙ってしまう。
……この調子で王都まで二人きりは気まずいな……。
「あぁせめて浮遊魔法が使えれば……」
……あれ?よく考えたら自分に浮遊魔法を使ってグレッグを運べば飛んでいけるんじゃね?と気がついたボクと同じようにグレッグも考えたのかハツラツとした目でグレッグがコチラをみる。
「「それだ!」」
ボクらはさっきまでの険悪なムードを忘れて二人で笑いあう。なぜこんなことに気がつかなったんだろう。前にベルさんがボクを運んでくれたことを忘れていた。
ボクはすぐに浮遊魔法を使いグレッグを抱きかかえて空を飛ぶ。一人でしか飛んだことがないので中々難しい部分もあるがすぐに慣れた。
…………のはボクだけだった。
「ひいいぃ!!無理無理!怖い怖い!!!!もうやだ!降ろして!」
ボクの腕の中で暴れるグレッグの頭がボクの下顎を先程からなんども痛めつける。
「……またか……」
ボクはグレッグを地面に降ろす。
何度目だろう。空を飛び始めて少しするとグレッグが空を飛ぶことを恐れ始め降りる。少し経つと行ける!と言い出しまた飛んで……を繰り返している。
正直言ってめんどくさいが歩くより何倍も早いので我慢しているしグレッグも辛いのを我慢しているとは思うので文句は飲み込んでいるが……。
「……すまんー。まさか自分が高所恐怖症とは思わなかったんだ」
「……いや、しかたないよ。そういうこともあるさ。ウチの上の兄さんも高所恐怖症だったし。みんな実はなにかに恐怖症を持ってたりするもんだよ」
柄にもなく素で落ち込むグレッグの背中に同情するよう手を置くと「ほんとにすまん……」と小さく震える声が聞こえた。
背中も震えている。ほんとに怖いんだな。
もっと低空で飛べればいいんだけどボクは魔法のコントロールが…………グレッグじゃなくて地面が揺れている?
「……グレッグ」
「あぁごめん、もう少し時間を――」
「――違う。地面が揺れてる。コレはまるでなにか大軍が通るような地響きだ!」
ボクは木に抱きつくグレッグを置いて一人、上空へと飛び出して辺りを見回すと遠くに人だかり。いやコチラへと行軍する大軍が見えた。
「ど、どうだ?」まだ脚が震えているのか一人では満足に立てなそうなグレッグが下から声をかけていた。
「……細かくはわからないけど王国の軍だと思うコッチへ向かってるから間違いなく目的はアウトラだ。」
どうするなんて考えるまでもない。ボクは先遣隊の役目も兼ねてここへ来たんだ。やるべきをやる。
それだけだ。
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